第5話 エッチなことでも考えていたの?

◆◆◆◆


「さっきの水着と今の水着、どっちの方が似合ってる?」


 緑色と青色のグラデーションになったレースとパレオの付いた水着を身に着けた灯里さんが、試着室のカーテンを空けてポーズを取る。これで何着目だろうか――三角ビキニ、ワンピースタイプ、ホルターネックビキニ、……、果てはスリングショットで少し動いたら大事なところが見えそうな際どいものまで試着した。その時は流石に直ぐにカーテンを閉めたが……。

 

 灯里さんは息子である俺が見てもドキッとするくらいプロポーションが良い。俗な言い方をすれば出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。その上、身長も高いためどの水着を着ても映える。店員さんも、先程から褒めっぱなしでまるで参考にならない。


 灯里さん自身は「最近お腹が油断気味だし、太もももムチムチになっちゃったからダイエットしないと……。」などと言って、数日間ダイエットらしき生活をしては直ぐに挫折している。

 

 俺から見ると、このくらいの位の肉付きの方が良いとは思うので全然問題はない――むしろ良いことだと思っているのだが、それを本人に言うと「そういうことじゃないの。大地は女心が分からないんだから……。」と言って頬を膨らませる。


 それまでポーズを取っていた灯里さんが、水着のまま試着室を出て俺の顔を覗き込んできた。


「ね~え、どれが良いと思う?」

「え……ああ……今の水着の方が良いよ。」

「あ、今、別のことを考えていたでしょ? それともエッチなことでも考えていたの?」


 ニヤニヤしながら話す灯里さんの肩を押しながら試着室へと押し戻す。というのも、灯里さんが試着室から出ると買い物中の人達の視線がこちらに集まり恥ずかしい。まあ、主に灯里さんに視線が集まっており俺のことなど誰も気に留めてはいないだろうけれど……。


 何故、水着売り場に来ているのか……。これには深い事情がある……。


◆◆◆◆


 先程のカフェで食べたホットサンドは味・量ともに大満足だった。


 メガネを外してジャケットを羽織ったカジュアルフォーマル姿の灯里さんも、お腹を抑えながら「美味しかったけれどお腹いっぱい。」と言っている。

 

 後は2人で出始めたばかりの今年の夏物衣服や雑貨等を見て周れば丁度良いだろう。もしそれでも時間が余った場合は、近くにある美術館や今開催されているアニメのポップアップストアを周るのも悪くは無い。


 そんな事を考えながら店内を歩いていると水着売り場の店員さんに呼び止められた。


「年下の彼氏さんですか? 誠実そうな方でお羨ましいですね~。」


 その瞬間、灯里さんはピクリと肩を震わせたと思うと嬉しそうに俺の腕を抱き寄せた。


「誠実ではあるんですけれど恋人では無いんですよ~。息子なんです。」

「ええ~! お母様でしたか! 失礼いたしました。随分とお若く見えたもので――。」


 その後は見ての通りである。


◆◆◆◆


 結局最後に試着した緑色と青色のグラデーションの水着を購入した。他の水着も購入しようとしていたが、俺が「どれか一つにしなさい。」と言って静止したのだ。灯里さんは不満そうにしていたが……灯里さんって俺が居なければ、とんでもない詐欺にでも引掛かるのでは無いか……?


 まあ、当の彼女自身は大満足そうなので良いが……。


「灯里さん。今水着を買ったけど、今年の夏は海とかプールに行く予定はあるの?」

「え……? 今のところは無いけれど折角水着を買ったんだから、今年は海にでも行こっか?」

「執筆の方は大丈夫なの?」

「だいじょ……ばないけれど、何とか終わらせて時間を作ります。」

「期待しています。」


 そう話すと灯里さんは俺の肩を掴み唇を耳に寄せて囁いた。


「もし、海に行けなくてもお部屋の中で、大地にだけは見せてあげるね♡」


 俺は耳を抑えながらたじろぐと、灯里さんはイタズラが成功した子供の様にケラケラと笑う。


「もしかして、部屋の中で水着を着ている私のことを想像して興奮しちゃった?」

「い……いや……べ、別に……そ……そんなことは無いけれど……。」

「昔は一緒にお風呂に入っていたんだから、恥ずかしがることは無いでしょ。」

「部屋の中で母親の水着を見る気持ちになってくれよ。」

「じゃあ、水着を着てお風呂で背中を流してあげる。お風呂なら良いでしょ?」

「いや、そういう問題では……。」

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