第22話 竜と少年

 「ふわぁ〜…あ、ノヴァス様。」



 アルが目を覚ましたようだ。



 まったく起きる気配がなかったので、そのまま明日の朝まで眠り続けるかと思ったが、意外にもその日の夜に起きてきた。少ない睡眠時間で十分に英気を養うことができるようになったということか。本当によく頑張ったね…



 『よくやりきったな。正直半分まで辿り着けば上出来だと思っていたが、見事に裏切られたな。もちろんいい意味で。』



 「いやぁ…オレも自分で驚いてます。途中からはほぼ無意識だったかも…でも、これもノヴァス様とハムよし先生のおかげですっ…!ありがとうございますっ…!」



 『まあ魔術に関してはそうだが、それ以外は全部お前の努力だろ。ハムよしの特訓だって本来は逃げ出してもおかしくはないぞ?』



 そう、今にして思えばコイツは加護によるブーストなしであの特訓についていっていたのだ。これは半端な努力でどうこうなるものじゃないだろ。



 「いや…逃げ出そうとしたらその前に容赦なくボコボコにされたし、そもそもどこにも逃げる場所がなかったっていうのが大きいんですが…」



 『ククッ…たしかにその環境をつくってくれたハムよしには感謝をするべきだな。』



 「まあ、その通りなんですけどっ…!とにかく本当にありがとうございましたっ!」



 アルが深く頭を下げた。



 とても深く、長い時間をつかって感謝の気持ちを伝えようとしているようだ。



 『こちらもなかなか楽しかったぞ。それで、出発は明日か?』



 「はい。今からだと対して進めなさそうですので…ただ、ここ1年くらい心配をかけてしまったと思うので…なるべく早く行くつもりです。」



 精神的な疲れだって完璧には治っていないだろう。無理をする必要はない。1日くらいは問題ないはずだ。



 『ふむ、いい判断だぞ?前までのお前なら今すぐ出発していたかもな。』



 「あははっ…!いや、本当に…ここでの経験は一生の宝です…」



 アルは周囲を見渡す。彼岸花が一面を塗りつぶすかのように咲き誇る真っ赤な楽園。初めてこの景色を見たときは呆けていたが、今は万感の想いで目に焼き付けているようだ。



 『宝、か。それでは頑張ったお前に本物の宝をやろう!』



 俺は魔法による空間収納からソレを取り出し、アルの目の前に放り出した。アルは慌ててそれを両手で受け止める。…ちなみに空間収納とはアレだ。アイテムボックスみたいなもんだ。



 「え…?こっ…これはっ…?」



 アルはわかりやすく困惑していた。



 今手の中にあるのは…一振りの剣だ。深緑色の鞘に金色の剣身で構成されたソレはまさに宝剣…宝といっていいほどに洗練された美しさを備えている。



 『いつの日か言っていただろ?俺由来の武器か防具が欲しいと。ま、武器だけなんだけどな。』



 そう、この宝剣は俺の鱗と牙を素材にして作り上げた逸品である。


 

 俺のすべてを弾き飛ばす鉄壁の鱗とすべてを引き裂く鋭利な牙をアルが使っていた剣に魔法で融合させて完成させたのだ。この森では碌な手入れもできずにボロボロになってしまった剣を新たに生まれ変わらせたということだ。…ちなみに俺の牙で鱗をついたらどうなるかはツッコんではいけないぞ…?



 『お前が寝ている間に勝手に剣を使ったのはすまなかったな。一応、戻せるぞ?』



 「戻すなんてっ!?そ、そんな勿体ないっ…で、でもっ…何でっ…?」



 『さっきも言った通り、頑張った褒美だ。俺もお前に色々と教えてもらったし、楽しかったからな!お前も俺に感謝しているようだが、俺もお前に感謝しているのだ。受け取ってくれ。』



 うん。本当に楽しかったよ。ドラゴンになった俺がまさかこの世界の人間とこんなにも仲良く話すことができるなんてな。



 『それにそもそも元手はかかっていない。遠慮するな。あ、お前の剣の分があったな!クハハッ!』



 そう冗談を言ってみたが、一向にアルは顔を上げようとしない。微かに体が震えている。その目元からは何かが溢れており、頬にゆっくりと流れ、顎まで到達し、地面に落ちていく。



 そうして少し落ち着いたのか、ゆっくりと顔を上げる。その目には僅かに涙が溜まっていたが…




 「ノヴァス様っ…本当にっ…ありがとうございますっ…!」




 陽光に照らされた水面のように…力強く光り輝いていた。




 ◇◇◇



 その日の夜、真紅の楽園にていつの日かぶりの酒宴を開催した。前回の面子に加えて、何と!!上位勢力の5種族のおさがやってきたのだ。



 どうせ来ないだろうと思いながら誘ったんだが…まさか全員来るとは思わなかった。なんか用事でもあるのか?まあ、どうでもいいか…



 前回の俺のブチギレ具合もあってか、今回は賑やかながらも節度を持って楽しんでいるようだ。これなら前回のときのような悲劇は起きないかな!



 俺はいつものように特大さかずきになみなみと注がれた酒を豪快にあおりながら、宴会特有の空気を楽しんでいた。



 「ノヴァス様っ!どうですかっ…!」



 アルが俺に近づいて声をかけてきた。



 振り返ると、アルがなにやら綺麗になった革鎧を着ており、腰に宝剣を備えた格好で立っていた。



 『ほう。様になっているな。その革鎧はどうしたんだ?』



 「ハムよし先生たちが直してくれたんですっ!かなりボロボロだったんですけど、これなら当分使えそうですっ!」



 『そうかハムよしか。これで防具も揃ったわけか。やるな、アイツ。』



 実は剣を回収したときに鎧も一緒に俺の素材で強化しようかと思っていたのだが、見当たらなかったのだ。まさか、ハムよしが先に回収していたとはな…



 『お前らも随分仲が良くなったな。』



 「そうですね…基本的に訓練するときは一緒だったので、それのせいですかね?」



 本当に俺よりちゃんと師匠をやっていたんだなぁ…てか、俺がやらなすぎたのか?



 『俺が強くしてやるとか言っておきながら、最初から最後まで師匠だったのはハムよしだったな。』



 「まあ、たしかに…ノヴァス様は師匠って感じではなかったかもしれませんね…オレとノヴァス様の関係ってなんなんですかね?」



 そうだなぁ…命の恩人、はなんか恩着せがましくていやだな。魔術の師匠?いや、別に練習には付き合ってないからしっくり来ない。



 そもそもコイツにはこの世界の知識について教えてもらっていたから俺の方が先生と呼ぶべきだったか…?それは違うか…



 あとはたわいもない話ばかりだったが……





 あぁ、そうだ……





 『友、というのはどうだ?』





 ちょっとクサいセリフすぎたか?



 「友……ですか……?」



 『あぁ。』



 「…不思議と、しっくりきます…!…オレ、ノヴァス様の友達です…!」



 おぉ、よかった…違うって言われてたら少し凹んでたかも。



 『友ということなら…様付けをやめるか?』



 「いやっ!?流石に勘弁してください。今さら呼び方変えるなんてちょっと変な感じがしますから!」



 そうか?まあそっちの方がいいなら別にいいか。




 その後も篝火かがりびきながら夜遅くまで宴会は続いた。



 ふと上を見上げると…




 『異世界でも月の美しさは変わらないな…』




 夜空に彩りを添えるかのように月らしき天体が浮かんでおり、暗い森を優しく照らしている。





 それはまるで、俺たちが夜闇に迷うことのないように空から見守っているかのように…暖かく感じた。





――――――――――――



「ところでノヴァス様、この剣の銘は何ですか?」



 『ふっ、カイザースペシャルキングオブキングゴッドドラゴンデラックスだ。』



 「おぉ!なんてかっこいいんだ!これからよろしくな!カイザーキンg...」



 『いやごめん。嘘だから。そのダサい銘で呼ぶな。』



こんなことがあったとかなかったとか...



――――――――――――


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