第15話
王子であるこの俺がこんな仕打ちを受けるなんて! 誰がこんなことを……と、思う前に真っ先に浮かぶのは先ほど話題になっていた女騎士……恐れ多くもこんなことができるのは一人しかいないことを俺はよく知っている。
……大胆な技名と声と仕打ちで見るまでもなく分かってしまった。
「い、痛い~……」
「まぁ、見事だわジェシカ」
そう、ジェシカだ。大げさで大胆な剣の技でものすごく痛い。こんな事ができるのはあの女騎士しか知らない。
「ジェ、ジェシ……」
「ありがとうございますお嬢様。先程の技はいわゆるカウンター技なのですが、曲がりなりにも王子を切るのはまずいので汚い手を床に叩きつける形にしました」
「!」
手の痛みに苦しみながら俺は聞いた。ジェシカが「曲がりなりにも王子」だの「汚い手」だのと言う。不敬千万だ!
「こんなことできるのは貴女だけよ。誇らしいわ」
「えへへ、お褒めに預かり光栄です」
リリィとジェシカの楽しそうなやり取りに、俺は戦慄と嫌悪感を覚えた。ジェシカの表情、どこか恋する乙女って感じだ。つまりはそういうこと、リリィは嘘をついてなどいなかった。
いや、リリィの言う事以上にジェシカがリリィに執心している……気味が悪い。
「お嬢様、だから言ったではありませんか。私が少しでも目を離せば不届き者がお嬢様に近づいてくるのは明白だと。現にあの馬鹿王子が汚い手で掴もうとしていました。私があと一秒遅かったら今頃……」
「ごめんねジェシカ。もう学園で素行の悪い人は滅多に見なくなったから油断したわ。殿下も大人になってきたと思ったのだけど、違ったみたいで残念だわ」
不届き者? 馬鹿王子? 素行の悪い? 明らかに俺を指している。許せない! 畜生、何だよ、何様のつもりだ!
その後、二人は何事もなかったかのように俺をおいて行ってしまった。ふざけるな! ジェシカに変な出来心を抱いた俺が馬鹿だった! リリィと婚約破棄した後はジェシカにも思い罰を与えてやるからな!
……手の痛みが酷い。おかげで婚約破棄の決行日が伸びてしまった。二週間も後になってしまったのだ。
「リリィ! ジェシカ! 絶対に許さないぞ! お前たち二人は絶対に俺が天誅を下してやるんだ!」
この時、俺は思ってもいなかった。まさか、婚約破棄を宣言したら俺が追い詰められることになるなんて……。
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