社畜が国王になるまで 『タイムマシーンよさらば』
沼津平成
第一章 社畜が改革を起こすまで(13話12000字予定)
第1話 社畜、トイレを探す旅。
さっきから尿意がひどい。慌ててやわらかな肛門をおさえる。トイレに駆け込もうとすると、不安要素が現れた。背後から迫ってくる上司の声だ。逃げきらなければ、確実に漏らしてしまう……!
「陸! 逃げるな!」
「陸!……」
上司の声が消えた。そういえば、同僚が上司の名前を呼びながら、「午前9時、会議。――会議ですよ!」とかいっていたような気がする。
そういやここ、初めて来たな。トイレなんかどこにあるんだ?
そう毒づきながら新藤は走った。階段を下るとトイレのマークと矢印だけの簡潔な標識があった。迷わず矢印のほうへ曲がる。次の矢印はなかった。
「くそっ! どこなんだ……」
2日弱、実に四十一時間三十二分、パソコンをつけて書類を整理していた。ろくに睡眠がとれていないので、こなす仕事量も低い。こなす仕事量の低い社畜をいくら雇っても仕事量は右肩下がりである。
まだ希望がある若人1人雇うだけで、少なくとも一気に5人分くらいの存在価値はなくなってしまう。
新藤陸は右を向いた。焦るな、こういうときほど視野が狭くなりがちだ――ズボンを下ろして用を足す。思いをはせたのは自分の幼年時代だ。
1994年2月7日、静岡県沼津生まれ。幼いときから勉学に親しむ。
2000年、小学校入学。エス小学校。
偏差値の低さがウリだけあって持ち前の才能と努力は伸びず、一日7時間授業は当たり前、「耐性があれば生存できる社会のつらさを教え込む」という名目で担任の仕事(主に書類)を生徒が無理やり手伝わされる誠にパワハラな学校であった。
――偉人みたいな文体でつぶやいているうちに、じんましんが出てきてアドレナリンの分泌が始まる。
手を洗い終えた新藤陸は、廊下を歩きながら進んだ。しばらく歩いていると視野が広くなり、見覚えのあるエレベーターが見つかった。
「なんだ、東棟にいただけだったか……」
案外、東棟って面白そうだな。上司から逃げるのによさそうだ。顔の似ている輩がいっぱいある。それらをおとりに使いながら逃げる自分を想像して、新藤は猟奇的な笑みを見せた。
だがすぐに、そんな卑怯なことを考える自分を恥じた。
「でもこれじゃ、そんなこと言ってられないよな……」
いやいやマイ・オフィスに戻ると、半分も減っていない書類の山を見せつけられた。新藤はため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます