私と生きた、"怪異"達

道野草太

第1話 心霊スポットツアー -初めて"幽霊"を視た思い出-

成人式。それは初めて大人になる人達へ、行われる一大イベントだ。

私が育った頃はまだ、大人と見なされる年齢が二十歳だったと記憶している。


成人式を終えた新成人たちは、新しく出来る事というのがたくさん増えた。

その中でも代表的な事といえば自動車免許になるのではないか。


夜になると五人くらいの友人に交じって、新成人となった私達は、車を所有している友達に誘われて、千葉県内の心霊スポットに赴いた。

当時の千葉県と言えば、ウェブで探しても、実に多くの心霊スポットがあった。

その中の代表的な場所に行こうというのである。


代表的な場所には概ね行ったと思う。大蛇が住んでいたと言われるO蛇ヶ池や、

焼身自殺や女子高生が殺された、活魚と呼ばれる廃ラブホテル...

私達は一丁前に怖がっていたが、個人的な所感としては、特に何も感じなかったし見なかった、というところだ。


なんとなく夜に若者が集まってはしゃいでいるこの空気が好きだった。

数箇所の心霊スポットを回り、特に何もなく時間は過ぎていったのだけど、

最後に2箇所、まわろうという話になったんだ。


まず行ったのは、廃病院と呼ばれている場所。

この場所は太国道から少し入った閑静な住宅街の中にひっそりと建っている建物だったが、1年間の間に3度、病院が入っては抜けるという曰くつきの場所で、地元住民の噂で、何かあるんじゃないかと言われている場所であった。


五人で建物の前に立ち、眺めているが、あまり怖くはない。というのも、建築されてからそれほど時間は経っておらず、建物自体は新しく、綺麗だったからだ。


何となく徒労に終わって白けはじめた雰囲気が漂い始めた時、二人いた所謂、“視える“友達が建物の2階を指さしてこう言った。


「ちょっと見て、2階。車椅子を押してる、まだ働いてるんだ...」


この言葉に私は少し、背筋に寒気を感じた。

それでも私は霊感を持っているわけではない(と言い張っている)ので、

全然何も視えないなぁと思いながら眺めていると、


1階にある窓のひとつ。廊下が視えている。

もちろん鍵は閉まっているのだが、その窓にはまっている網戸が少しズレているのがわかる。ちょうど40センチくらいだろうか。


スーーーーーと、そのわずかな隙間を白い影が動いたのが視えた。

一瞬の出来事ではあったが、その影は女の人で、黒い髪、白いワンピースを着ていると思った。


(なんだあれ...)


そう呟こうとした瞬間、「今の視た!?」「見た見た...」

一人の友人の発言を皮切りに、次々と会話が広がっていく。

その声色はどれもパニックじみたようなもので、私も驚きすぎて悲鳴が口をついて出るのを我慢するのに必死だった。


その場にいた5人が全員目撃していて、視える友達によると、

物見遊山で来た私達に対して、強い怒りを持って「帰れ」というメッセージをはらんでいるのだという。


何かあったらまずいという事になり、立ち去ろうとしたのだがここで、

幽霊の存在を信じていない、否定派の友達がスナップを最後に撮ろうと言い、

嫌々ながら、全員で写真を撮ることとなった。

デジカメのモニターを視て怖気が走る。

五名いる友人の一人、お調子者で、趣味で走り屋や、車の改造をしている友達の色が

とにかく全身紫色だった。これはどういう意味を持つのかわからないが、


彼は終始「俺、何かあるのかな...怖いよ」とつぶやいていた。

そんな彼はこの心霊スポットツアーの3日後、事故を起こし車は全損。自身も入院する事になったのだが一命は取り留めた。

この日の事が関係あるかどうかはわからず仕舞いである。


もう一か所、千葉県には山の方にその昔、戦国時代に輸送拠点だった場所がある。

そんな場所であるからか、山間にある市にも関わらず、魚河岸などがあり、魚介類がおいしい場所でもあるS市にある、城址に向かった。

ここは歴史博物館もあり、様々な歴史に関する催し物があった。

その城址のすぐ下にある大きな公園にある、とある"階段"が処刑台として有名な心霊スポットとして有名だった。


(後にこの場所は、処刑台ではなく、第二次大戦のころ、高所降下訓練として使用されていた階段だとわかった)


インターネットでも有名なこの場所は、数を数えながら階段を昇り、13段を数えると、後日足を怪我するという話があった。


私達は夜の公園に向かった。駐車場に車を停めて、両側を林に囲まれた暗い階段を降りて行く。この公園は街灯が全くなく。夜になると何も視えないほどの暗闇になる。

"処刑台"に向かう道すがら、所謂”視える”友達が怯えはじめた。

彼らの話によると、階段を降りて行く私達一行、両側の森の木々の隙間に無数の顔があり、私達を見張っているのだそうだ。


全員の表情が緊張し、"処刑台"まで急ぐ事にした。

"処刑台"は、何てことなく、階段がひとつポツンと公園の真ん中にあるだけだった。

特に怖い感情も抱く事はなかったが、視える二人にとっては若干、違うように視えたそうで、階段には何も感じないが、その奥にある雑木林の暗がりが危ないとの事だった。


なんでも、女性が三人ほど木々の隙間をぬって、現れたり消えたりしながらこちらに来ているのだという。


"処刑台"なんかより、あっちの方に行くのはやめようね、何かあったら怖いから、と

二人口を揃えていたのを覚えている。

私には視えていないのだが、視えていないからこそ、怖かった。


最後に、公園内にある"姥ヶ池"周辺の遊歩道を歩いて帰る事になった。

この場所は、大名の赤子を預かったお婆さんが誤って赤子を池に投げ入れて死なせてしまい、自身も申し訳なさから身を投げて死んだ、と物語のある場所でもあった。


全員で遊歩道を周るが、"視える"二人、特に夜職で働いている女の子の方が著しく怯え始めた。ここから帰る頃には、何人連れているかわからない、何か悪い事が起こらない前に早く帰ろう、としきりに口にする。

そして遊歩道を周り切り、駐車場へと続く階段の前に来た時、たまらずその女の子が


「もう帰ろう、私怖いよ」


そう発言した瞬間


「あたしもおぉ~~」


声がした。ちょうどその女の子の目の前、少し上の何もない空間から

くぐもった女の声で。


一目散に全員逃げる。駐車場まで続く階段を駆け昇り、車の前まで走り続けた。

車に辿り着き、一人も欠けていない確認をすると、車に乗り込もうとした。

すると夜職の女の子が待てをかけて、私の前に来た。


「今このまま車に乗ったら危ないよ。たくさんついて来てるから。特に、道野君?危ないから、ちょっと見せて」


との事で、彼女によると、私には7人の霊が憑いているのだという。

持って帰ってあげるね、との事で、女の子の方に移してくれたのだが...

一人取れないというのだ。

赤いワンピースを着た女の子が「離さない」と腕に絡みついているのだという。


いくらその子が「自分のいるところに行きな」と語りかけても、

折れた首を歌舞伎の連獅子のようにぶんぶん振り回して、笑うだけなのだそうだ。


「ごめん、一人だけ離れないから、どこかでお祓いしてもらってね」


そう言い、夜職の女の子の提案でコンビニに寄って帰る事にした。

しかし、帰りの車の中で異変が起こる。後部座席にいた私と"視える友達"の男性の方、急に"だる"くなり、蹲ってしまったのだ。

なんでかはわからない、最初は疲れからだと思っていたのだが、いくら身体を動かそうとしても重すぎて動かない。

なんで!?なんで!?と焦っても、一向に状況が変わらない中、

夜職の女の子が、「さっきの病院に戻って」という。


話を聞くと、廃病院に来た際に、一人私達に怒りを抱いた霊が、憑いてきてしまったのだという。


夜明けの薄暗い空の下。全員で廃病院に戻って、迷惑をおかけしてすみませんと謝った。


その瞬間、おもりを取り外したかのように、身体がスッと軽くなったのを感じた。

初めての"心霊スポットツアー"本当に散々な目に遭った。

二度と誘われても行かないと心に決め、家に帰宅した。


尚、その当時付き合っていた彼女に電話をした際に、ちょこちょこ「今女の子と一緒にいる?何を喋ってるかはわからないけど」などと、指摘されるようになったのはまた別の話。


また。怪談活動をしている現在でも、この件に関してお祓いはしてもらっていない。




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