魔王様、コストコ行こうよ!

アヌビス兄さん

1.コストコのガソリンが安すぎて驚いた魔王様

 漆黒の色をしたスズキ・ハスラーのハンドルを持つ男性。

 異世界の魔王様である!


 本名は魔王アズリエル、闇魔界の御方おんかた等と呼ばれている魔物達の王。

 タキシードのような洋服にマント、そして手にはドライビンググローブ、太陽光を瞬間直視しても眩しくない調光レンズのサングラス。魔王様の顔は異常な程に整っていて同じ男性が見ても息を呑む。

 ギザギザの歯とやや尖った耳、鬼灯のような紅い瞳が人間と違うくらいか。


 クラッチペダルを踏んで、三速からすぐに四速にシフトチェンジ。その瞬間魔王様の口元が緩む。当然というべきだがここは地球で日本の道路を車で走っている。法廷速度もしっかりと守っている魔王様が操縦するハスラーのフロントとリアにはへたクソマーク若葉マーク、所謂免許証取得一年未満のドライバーに義務付けられているそれが貼られている。

 魔王様は世界レベルでも最も正しい運転を学べる日本の教習所にてちゃんと免許を取得して公道を走っているのである。無免許ではない、それだけでも恐れ多い事だが、魔王様のブレーキは反動を感じさせない程に優しい。


 とはいえ、このスズキ・ハスラーは魔王様の所有物ではない。もう販売終了している使い込まれた5速マニュアルの軽自動車は本来廃車になってもおかしくない程の走行距離を刻んでいた。持ち主によって大事に大事に乗られているこの車は魔王様の居候先の持ち物。

 魔王様はひょんな事から日本にやってきた。異世界で勇者を待っていたら勇者ではなく、全てを破滅させる超魔導士が魔王城に喧嘩を売ってきた。家来達を守る為に魔王様は神をも滅ぼす力を持った超魔導士と戦い、七日七晩の戦闘の後、魔王様と超魔導士の異次元の力を誇る魔法のぶつかり合い、そしてその歪みで魔王様と超魔導士は次元の裂け目に吸い込まれ今に至る。

 

「魔王様! コストコのガソリン安いんだよ!」

「ほぉ、ガソリンとはこやつハスラーの餌であったな?」

 

 ナビシートから魔王様にそう言ったのは12歳の少女、ポニーテールが可愛い彼女の名前は犬神飛鳥いぬがみあすか

 スズキ・ハスラーの持ち主の妹、持ち主の方は22歳。犬神烏子いぬがみくろこ。運転する必要がないからと後部座席でビールを飲みながらニコニコと細い目で微笑みながら魔王様と最愛の妹を見つめている。3本目のビールをクーラボックスから取り出している彼女はとってもご機嫌である。

 

「そうそう、その辺のガソスタより二十円は安いかんねぇ」

 

 コストコのガソリンのアドバンテージを語る。

 

「ほぉ、烏子よ。何故そんなに安いのだ? うまい棒2本分ではないか!」

 

 魔王様の当然の質問。

 

「魔王様、それはねぇ? 凄い秘密があるのさぁ!」

「クーハッハッハ! 実に興味深い! 話すと良い!」

「質が悪い……だなんて都市伝説があるんだけどぉ、それは大間違いなのさぁ!」

「うむ、続けよ」

「コストコの儲けはぁ会員制という事なのさぁ、会員費用一番安くて5000円くらいからだろぉ? だから安定して顧客収益があってぇ、食材同様の大量仕入れで燃料が安く仕入れられるんだぁ」

 

 魔王様がコストコのガソリンスタンドに車を回すと烏子は外に出て給油準備。

 

「そしてこれさぁ! セルフサービスにキャッシュレス決済っ」

 

 静電気除去シートに触れレギュラーガソリンをトクトクとスズキ・ハスラーに給油しながら続きを語る烏子。軽自動車の給油はすぐに終わるので、支払いは最初に通したクレジットカードで支払う。

 簡潔に給油を終えると給油口を閉めてレシートを回収する。烏子が後部座席に戻ってきてシートベルトを装着するのを確認すると魔王様は屋上の駐車場を目指してアクセルを踏む。免許取得をしたばかりの初心者とは思えない程の安定した取り回し。一速からすぐに二速、そして三速にギアチェンジ。そして坂になった時に停車して一速に戻す。

 

「あとはぁ窓拭きもなければ車検営業もない。燃料販売に特化してるんだよぉ」

 

 烏子は4本目のビールを飲もうか手を伸ばす。

 

「それで安くなるのか?」

「そりゃーそうだよ魔王様ぁ。ガソリンを販売する事に特化すれば余計な設備もいらないしコスト削減に繋がるだろぉ? そしてやっぱり宣伝効果も強いよねぇ」

 

 年間の会員価格が5000円程として、周辺のガソリンスタンドよりリッター20円程安いとして年間250リットル以上給油すれば元がとれる計算になる。タンク容量が27L前後のハスラーであれば年間十回給油すればいいのだ。そして犬神姉妹は移動といえば車を多用するので、年間十回は余裕でクリアする。

 さらに言えば今から魔王様と犬神姉妹はコストコで買い物をするわけで、この利便性が強い。買い物前に給油、あるいは買い物後に給油できる。そして営業時間の長さもまた強みと言えるだろう。当然、コストコでガソリンを一度入れたら他のスタンドは高くて使うのに躊躇する。

 

「よってガソスタだけでもお得なのさぁ」

 

 烏子の説明にふーむと魔王様は納得する。

 

「コストコのガソリン入れたら車元気になるよ!」

 

 難しい話に入れなかった飛鳥が魔王様にそう伝える。

 

「うむ! 確かに心なしか良い音に変わったな? クーハッハッハ!」

 

 それにも烏子が説明を入れた。

 

「日本じゃハイオクっていう高価なガソリンにしか入っていない質のいい洗浄剤がレギュラーにも入っているからねぇ。車の寿命が伸びるんだぁ。じゃあ、私たちのハスラーが元気一杯になったところで、コストコの買い物をスタートしようかぁ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王様、コストコ行こうよ! アヌビス兄さん @sesyato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画