第42話 さあ、換金しよう

   ◆◇◆◇◆




 街に戻ると、すでに祝勝会が始まっていた。

 みなで武勇伝が語り合われている。

 ゴブリン20体を相手に1人で大立ち回りしたドワーフや、ミノタウロスを倒したという若い4人組のパーティーなど。


「ワシに向かってくるゴブリンを、バッタバッタと切り倒してのぉ!!」


「追ってくるミノタウロスを連れて、崖から飛んだんだ。ぼくは世界樹の根に掴まったけど、ミノタウロスは真っ逆さま!」


 楽しげな雰囲気の中、討伐隊メンバーの金髪剣士と俺とナグはギルドマスターを呼んだ。

 まさか魔蝕崩壊の事は、秘密にしておく訳にいかない。


「なんだい、ボクは今忙しいんだよ―――はい腹踊り!!」

「いいから来て下さい、ギルマス」

「もー、なんだんだよ一体~」


 騒ぐ冒険者たちからギルドマスターを、なんとかギルドの端に引っ張ってきて、ボス討伐で何があったか話す。


 すると、酒精で紅潮していたギルドマスターの顔が、みるみるうちに青くなった。


「ま、魔蝕崩壊? ・・・・・・・・お、起きたのかい?? ――――――――本、当に?」

「はい」


 金髪剣士が肯く。


「なにが出たんだい! ・・・・・・チャリオットビーストなら―――カ、カオスボックスとか」

絶望の箱パンドラ


 俺がモンスターの名前を返すと、


絶望の箱パンドラァァァァァァ!?」


 叫んだギルマスを、酒場の冒険者達が見た。

 口を押さえたギルドマスターが、俺たちに声を潜め、


絶望の箱パンドラって、そんな馬鹿な。約400年前、絶望の箱がダンジョンで出た時は、国が一つ消えかけたんだよ!? ―――4度再編した討伐隊がどれも全滅。どうしても倒せなくて、ついには絶望の箱がダンジョンからこちら側に転移。国から民が避難―――王家が、当時すでに伝説になっていた魔術師ユーロラーク・ユイルミを呼び寄せて、なんとか退治して貰って事なきを得たという――――なのに、どうやって倒したんだい!!」

「それは・・・」


 金髪剣士が言い淀む。

 なので俺が代わりに言ってやる。


「デイン・デイライトが叩き斬った」


 金髪剣士が「おいおいマジかよ、こいつ」という顔で此方を見た。


「そうか、デイン君が―――」


 言っているギルドマスターは、俺を睨んでる。

 あれは、嘘つけこのヤロウという目だ。


「まぁ全員で頑張った」

「そうかい――――――」


 まだ疑ってやがる。


「ああ、あれだ。【召喚】のゲートで斬った」

「―――なんだいそれ」

「私のせいにするんですか!?」


 契約できない召喚師の蝕み子というのが知れ渡っているナグは、召喚術師として名声を少し上げておいた方がいい。あくまで〝普通の召喚士の出来ることで〟だが。

 翼を仕舞ったヤナヤを頭に乗せていたナグの丸い瞳に見られながら、俺はギルドマスターに「〖ナグ斬剣〗と言うのだが」と言って説明する。


「―――なるほど・・・【召喚】のゲートにそんな使い方が」

「・・・あの〖ナグ斬剣〗は止めませんか?」

「ああ、だから絶望の箱パンドラでも切り裂ける」

「・・・あの〖ナグ斬剣〗は止めませんか?」

「分かった、そう報告しておくよ」

「・・・あの〖ナグ斬剣〗は止めませんか?」

「ありがとう――〖命名ネーミング〗〝ナグ斬剣〟」

「―――なんて凶行を行うんですか、セウルくん!?」

「ナグの名前を、歴史に残そうとしてるだけだ」

「歴史が黒い!?」


 何か言っているが無視をしておく。

 ギルドマスターは、やれやれとため息をつく。


「ま、ナグ君がいなかったら、ボクも再編成討伐隊に入って死んでいたかも知れないんだ。礼を言うよ、君は命の恩人だ」

「なぜ俺を見ながら言う」

「あとその代わりと言っては何だけど、今後このギルドのボス討伐隊には必ずセウル君に入ってもらう、これは絶対だよ」

「ふむ」

「そうしたら突発的に魔蝕崩壊が起きても、対応できるかも知れない。死人ぬ筈だった人間が沢山生き残れるかもしれない。まぁ魔蝕崩壊なんてそうそう起こるものじゃないんだけど」


 確かに、魔蝕崩壊がポンポン起こっていたら、冒険者もこんなに悠長に金儲けなんてしていられない。


「ただ、対応したのはナグの召喚術師としての腕だがな」

「で、ここで普通は冒険者としてのランクがあがるんだけど」

「いらない」

「ロファ、セウルのことぉ、Bランクにしちゃおうかなぁ~」

「きつい」

「・・・・」


 ロファは俺を睨んでから、盛大なため息。


「・・・・まあ、約束だし蝕み子の法術使いだしね。じゃあ今後はボス討伐隊に、ボクも入るからね」

「え」


 不意を突かれた俺が、マジで嫌そうな声を挙げると、ロファにぶん殴られた。

 なにしやがる。


「じゃあナグも入れてもらわないとな」


 俺が言うと、全員から「絶対、隠れ蓑にする気だコイツー!」という顔が向けられた。

 いや、コイツがいなくてレベルが上がると困るだけだ。

 そんな事を考えていると、不意に金髪剣士が、俺たちに頭を下げた。


「でも僕からも、二人にお願いするよ。これでも死ぬのは嫌だからね」

「臆病者め」

「面目ない」


 俺の言葉に金髪剣士が、困った顔になる。

 ちなみに〝冒険者は臆病であれ〟というのが俺の持論だ。

 ギルドマスターが腕を組んで、ナグを見ていった。


「じゃあナグ君はDにしないとね」

「わ、私がDですか!?」


 ナグがビックリして、ヤナヤを頭から滑落させかかる。

 なるほど、ナグがゴージャスを超えてしまった。

 これは益々、面倒は済ませておいたほうがいい。


「その強さは有るからね」


 ギルマスが、足をバタバタさせているヤナヤを戻してあげながら微笑んだ。

 話が済んだみたいなので、俺はこちらのやることを早めに済ませることにした。


「ギルマス、素材と〈世界石〉を換金をしてくれないか」

「急ぎかい?」

「まあな」

「わかったよ。じゃあ、ヒルダー!」

「はあい」


 奥から出てくる赤縁あかぶちメガネの受付嬢。


「なんでしょうかギルドマスター」

「セウル君が換金してほしいらしい」

「あら、セウルくんですか! じゃあこちらに♥」


 手のひらでカウンターを示す受付嬢に、導かれる俺とナグ。

 そして向かい合った所で、受付嬢が首をかしげる。


「えっと、あれ?? そういえば換金する物はどこでしょうか―――」


 そして、


「あ! ―――忘れてきましたねぇ~♥ 待ってるんで取ってきて下さい ル オ ル くん♥」


 なんだかニヤニヤされながら謂われた。


 そんな様子を酒場で見ていたゴージャスが「あいつ等マジでちゃんとボス討伐したのか?」などとつぶやいている。

 仲間のゴージャス女には、


「ねぇ、ナグも活躍したらしいよ? というか〈召喚契約〉できたんだって。戻ってきて貰った方が良いんじゃない?」


 とも言われていたが。


「はっ! いらねぇよ」


 などと鼻を鳴らしていた。


 俺は受付嬢に向き直り、


「換金する物はココにある」


 ナグを引き寄せる。

 「あん」とか変な声を出すな。


「・・・・・・・・・はい? いくらなんでもギルドで人間は買い取れませんよ・・・セウルくん、悪質な冗談は止めてください、見損ないますよ」

「違う、ナグ頼む」

「えっと、こうですか?―――」


 ナグは俺に向けて、


「【召喚】ゲート開け」


 〈ゲート〉を開いた。

 「何をする気なんだろう?」という、受付嬢を含めたギルドにいる全員の視線を感じながら、俺はゲートの中からダンジョンで手に入れた物を根こそぎ出していく。


「モータルグリズリーの素材が2頭分、チャージャーボアの素材が1頭分、ミノタウロスの角が4本」

「「「――――え?」」」

「世界樹の実150個」

「「「―――は!?」」」

「〈世界石〉大4個 中25個 小200個」

「「「―――ちょ!!」」」


 ギルド内がざわついている。

 受付嬢は目をしばたたかせながら、カウンターの上に収まりきらず床にまで置かれた素材を見回した。


「なんで2日でこんなに集められるんですか!! しかもFランクとEランクの人間二人で、モータルグリズリー!? チャージャーボア!? ミノタウロス!?!? というか世界樹の実とかどうやって採ってきたんですか!! それより、今どこから出したんですか手品ですか!?」

「モンスターと世界樹の実は頑張った。量はナグの〈ゲート〉に幾らでも入るから、一度も街に戻る必要がなかったんだ」

「「「あ――――――――――――――――っ!」」」


 酒場から、驚愕の声が挙がる。


「ナグって子―――優秀じゃねぇか! ――――しまった・・・・っ、追い出された時、声かけておけば!」「優秀なんてもんじゃねえよ!! ――荷物をもっと持てればって何回思ったことか! ――――というか結局召喚できたんだろ? なんて事だよ、勿体ねえ―――!!」「しかもボス戦でも大活躍したって。分かってたらもう、引く手数多だよ。つか滅茶苦茶美人になってるし・・・!! あんな美人でプロポーションの良い子がパーティー居れば、俺だってテンション上がるのに―――っ!」「私、戦士だからあの子のくれるステータス上昇ほしいのよね・・・」


 そこでだった。ゴージャスだった。


「――ナグ―――お前、帰ってきていいぞ!」



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