Scene8 巻子は夫の死に涙して、愛憎の煩雑さを表す
「
以前、
夫に向かって、殺してやると宣言した人だとはとても思えなかった。
「
ロゴス様が
すると、
「あら、気を
ロゴス様は慎重に頷く。
「ええ。存じ上げています」
「あたし、言い訳なんてするつもりはないんです。本当にあの人を殺してしまいたかった。他の女にあの人を奪われるくらいなら、あの人がまだあたしを見ている内に、この手で終わらせてしまいたかった。あの日、あたしの手にナイフがあったら、夫の命を奪った犯人は、きっとあたしでした」
「でも、そうはならなかった。あの人は、あたしの知らないところで殺されて、あたしの手が届かないところに逝ってしまったんです。あたしはずっと……、愛していたのに」
「えっとぉ……、でも、
私はつい、空気を読まずに言ってしまう。ロゴス様が責めるような視線を、ちらりと向けてきた。
「
と、早口でまくし立てたところで、
「……夫の、気を引きたかっただけなんです」
「旦那さんと
ロゴス様が尋ねる。
「ええ。二人は子供の頃から付き合いがあったらしくて、
しばらくの沈黙のあと、ロゴス様はさらに訊く。
「貴方は事件の犯人について、誰が疑わしいと考えていますか? これは警察からも尋ねられたでしょうが」
「さあ……。夫は路地裏で殺されたそうですから、きっとどこぞの変質者か、酔っ払いにでも襲われたんじゃないでしょうか。あたしには分かりませんけれど……」
「例えば、紙谷さんが犯人だとは思いませんか?」
ロゴス様は鋭い語気で問い掛ける。
一瞬、
「……いいえ。夫が彼女との間にもトラブルを抱えていたら、どんなにマシだったでしょうね。でも、夫はあの女のために、私と別れるとまで言いました。そんな彼が、
「このあと、何かご予定が?」
ロゴス様は彼女の様子を
「ええ。大切な用事が」
「今日は、あたしたちの結婚記念日なんです。だから、お祝いの準備をしに行かなくちゃ」
そう言って、彼女は儚げな微笑みをぎこちなく浮かべた。
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