4.手探りの状況。
「うー……さすがに、体内に取り込まれた毒の浄化は、難しいかと」
「やっぱり、そんな簡単にはいかないか?」
「まことに残念ながら、ですね」
リィンの病状について俺が訊ねると、カノンはさすがに眉をひそめて答える。
「アタシの聖霊力で浄化できるのは、その状態から邪なるものを取り除ける場合です。おそらくリィンさんの毒はすでに血肉になって、身体の一部のようになっているかと」
「なるほど、な。だとすると必要なのは、薬……か」
彼女の説に対し、こちらは次の案を出した。
聖剣少女は悔しげに頷きながら、しかし気持ちを切り替えるように言う。
「それでも、病状の進行は遅らせられるはずです!」
「だったらリィンの傍にいてくれ。解毒薬については、こっちで考える」
「分かりました!」
そうなれば、やるべきは役割分担だ。
伯爵令嬢の看病はカノンに任せ、俺は解毒方法の手掛かりを探そう。こちらがそのように提案すると、カノンは迷うことなく頷いた。そして、
「あの、リクさん。おひとつ、お願いしても良いですか?」
「ん、どうした」
次いで彼女は、どこか遠慮がちにそう口にする。
訊き返すとカノンは少しだけ目を伏せ、静かに頭を下げるのだった。
「リィンさんのための薬、どうか見つけてください。アタシは――」
ゆっくり面を上げ、青の瞳を揺らして。
聖剣少女は切実な声色で、告げた。
「あの子に、生きていてほしいです」――と。
それを聞いて俺は思う。
考えると、こいつの真剣な願いは出会ってから初めてだ。
それが自分の身のためでなく、誰かの命のため。意外というわけではないのだが、このような事態になることはあまり想像していなかった。
だが、思いはこちらも同じ。
むしろよりいっそう、気合いが入るというものだった。だから、
「あぁ、任せろ」
俺はあえて明るく笑顔を作って、そう宣言する。
こうして手探りながら、一つの戦いが始まったのだった。
◆
「……とはいえ、何も情報がないのはキツイな」
――だがしかし、勢い勇んで始めたにもかかわらず手がかりはなしだ。
そのような状況では、調査も暗礁に乗り上げるのも当たり前。カノンの力を信用していないわけではないが、時間が無限というわけでもなかった。
焦燥感ばかりが募っていくが、冷静さを忘れてもいけない。
「それに、もう一つの頼み事もある。厳しいな」
加えて、カノンに告げていないもう一つの問題もあった。
アルディオ伯爵曰く、この街のどこかに『魔族と通じている裏切り者』というのがいるらしい。俺も魔族であるが、もちろん違うというのは当然として。いったいその人間は、そのような行いをして何の益を得るというのだろうか。
「いいや、いまは考えても仕方ない。それよりも――ん?」
一人で無理矢理に納得し、行動しようとした。
その時だ。
「ゴーナンさんに、街のみんな……?」
ふと視界の端に、市民代表のゴーナンと話し込む人々の姿を認めたのは。
以前とは違う面々。みな真剣な表情を浮かべているが、いったいどうしたのか。
「どうしたんですか、みなさん」
「あぁ、リクさん! ちょうど良いところに!」
俺が声をかけると、一気に明るい表情になったのはゴーナン。
彼はいつものように手揉みしながら、やや早口にこう語るのだった。
「風の噂で拝聴しました。リィン様の体調が優れない、と」
「あぁ、みんなも聞いたのか」
「えぇ……この街の者はみな、アルディオ伯爵の治世には感謝しておりますので」
その言葉に対して、街の人々全員が示し合わせたかのように頷く。
彼らの表情、その真剣さは本物だと確信できた。これだったら、何かしらの協力を仰いでも良いのかもしれない。そう考えて、何か知恵はないか訊ねると――。
「旅の人、もしかしたらオイラ知ってるかもしれねぇ!」
一人の武骨な印象を受ける男性が、思い出したといった表情で手を上げた。
そして、とても懐かしい名前を口にするのだ。
「アメリアの花、ってのが群生してる場所があるんだよ」――と。
それはいつか、魔王様と話した時。
煎ずればどんな病をも治す薬となる、とされた花の名だった。
「そ、それはどこですか!?」
「そんなに遠くはねぇ! 一晩あれば、行けるはずだ!!」
これは間違いなく、渡りに船というもの。
俺はその男性に詳しい場所を聞き、急いで出立の準備を始めた。
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