4.一方その頃。
「四天王たちよ、リクを知らないか」
「え……?」
「魔王様、アイツがいかが致しましたか?」
「勇者に敗北したと報告を受けた後、連絡が取れないのでな」
――一方その頃、魔王城。
目深にフードを被り、仮面で素顔を隠した魔王ガイアスは四天王に訊ねた。
曰く、話があるためリクを呼ぼうとしたが応答がない、と。彼は仮面越しでも分かる程に悩ましげな雰囲気を醸し出し、そのことに他の四天王は困惑した。
そもそも、あの日の幹部たちは彼の噂話をしたが本人に聞かれたと思っていない。
そんな折だった。
「リク様、ですか? あの方なら、詰所の前で思いつめた表情をしていましたが」
「なに。それは、いったい何時のことだ?」
「勇者に敗北した翌日です」
「……ふむ」
一人の従者がふと、そのように口を挟んだのは。
その者はしばしばリクと親しく会話し、あの時にも彼の姿を見たという。それに対してガイアスは、しばし思案した後に四天王へ改めて問いかけた。
「詰所の前、何か覚えはないか?」
「え、あー……?」
「ないです! なにも!!」
すると、一人――女性の四天王がやけに大きく声を上げる。
他二名の四天王は困惑したが、とりあえず口裏を合わせることにした。
「そうですね。私たちに、覚えはありません」
「右に同じく」
「……そう、か」
その答えに対し、魔王は何か引っかかりを覚えたらしい。
しかし、あえて何も言わずにこう通達した。
「それでは、今後もしリクの行方が分かったら報告しろ。……いいな?」
「は、はいぃ!!」
そして、その指示に震えたのはやはり女性の四天王だけ。
魔王は彼女の答えを聞き、執務室へ戻った。
「おい、どうしたんだメリッサ。そんなに慌てて――」
「貴方たち馬鹿じゃないの!? どう考えても、私たちの会話でしょ!!」
「……む、それはまさか……?」
そして、一人が女性魔族――メリッサへ訊ねる。
すると彼女は怯えながらも、どこか怒鳴るように叫んだ。そこでもう一人が、メリッサの考え至った可能性に行き当たる。
最初に訊ねた者も、さすがにそこまで無神経ではなかった。
「つまり、この状況ってのは――」
三人の頬に、冷や汗が伝う。
リクは魔王ガイアスの肝入りだというのは、周知の事実。そんな彼が自分たちの会話を耳にして、自ら魔王軍を去ったのだとすれば――。
「…………」
「…………」
「…………」
そこまで全員が思い至った瞬間、重苦しい沈黙が降り立った。
だがすぐに血相を変え、声を揃えて叫ぶのだ。
「「「さ、探しに行かなければ……!?」」」――と。
日暮れの魔王城。
そこでは四天王たちが半べそをかいていたのだった。
◆
「……で、普通の魔物に負けて帰還した、と?」
「はい。その……はい、そうです」
「…………」
――また一方、王都では。
国王ジュダスによって、勇者らしき青年が詰問されていた。
その勇者は先ほど、道中のたいしたことのない魔物によって倒され救急搬送。国王の謁見の間に通され、完全に委縮してしまっていた。
そんな青年に対して、ジュダスは訊ねる。
「……して、聖剣カノンはどこだ?」
「え、あー……」
彼の腰には、旅立ちの日にあったはずの聖剣はなかった。
それもそのはず。あの聖剣は、彼自身が森の切り株に突き立てたのだから。しかし勇者は当然、それを正直に進言できるはずもなかった。
だがしかし、ジュダスは勘付いていたのだろう。
その上で勇者に対して、こう告げた。
「当然、失うわけがなかろうな。あの剣がなければ、お前は掃いて捨てるほどいる一兵卒と大差ないのだから。そして、もし本当に失くしたのであれば――」
「な、なくしたので、あれば……?」
「用済み。それどころか、聖剣を失した罰で極刑だな」
「………………」
絶句する勇者。
そんな彼の表情に、確信したのだろう国王は通達した。
「数日以内に、聖剣カノンを持ってくるように」――と。
そして、自らの私室へ戻っていく。
片膝をついたまま、勇者の青年は涙目になって唇を震わせて呟く。
「さ、探さないと……!?」
こうして、両陣営による捜索活動は幕を上げたのだった……。
――
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