四天王最弱と呼ばれた俺、魔王軍を離脱した直後に勇者の捨てた聖剣を拾う。~今さら戻るつもりなんてないので、まずは辺境で自由に過ごしたいと思います~
あざね
オープニング
プロローグ 四天王最弱の魔族、聖剣と出会う。
「くくく、南の四天王――リクがやられたか」
「だが奴は我ら四天王でも最弱……」
「ほんっと、魔王軍の恥さらしよねー」
勇者に敗北した翌日のこと。
俺はそのことを魔王様に報告するため、急いで魔王城へと向かった。すると聞こえてきたのは、他の四天王たちによる笑い声。魔王軍の上官詰め所、その一室からだ。
彼らはこちらの存在に気付いていない。
だからこそ、そんなことを言って笑うことができるのだろう。
「………………」
でも、戦ったからこそ俺は知っていた。
勇者の力。いいや、正確にいえば勇者の手にある聖剣の力は本物だ。大精霊から授かったとされるそれによって、俺はいとも容易く敗北。逃げ帰るしかなかった。
それでも、きっと他の四天王は聞く耳を持たないだろうと思う。
最弱とされる『人型魔族』として生まれ、蔑まれてきた俺の言葉なんて――。
「そろそろ、潮時なのかもしれないな」
だったら、もうここに居場所なんてないと思った。
幸い人間との違いは赤い瞳と、少し尖った耳くらいなもの。認識阻害の魔法を使えば、人の暮らしに紛れて生きていくことも可能だった。
もう、魔族として生きるのはこりごりだ。
そこまで考えた俺の足は、自然と魔王城から外へと向かっていたのだった。
◆
人間と魔族の戦争が始まって、早数年。
四天王に末席ながら抜擢されてから頑張ってきたが、俺に対する当たりは冷たいものだった。能力ではなく、魔王様のお気に入りだから、とされて陰口を叩かれ続ける。無視をしていても、耳に入ってしまえば関係なかった。
だけど辞めると決めてしまえば、いっそ清々しいもの。
「とりあえず、南に行くか。あそこなら、土地勘もあるし」
そうとなれば今後の方針だった。
俺はひとまず、自分の領地であった南へ向かうことにする。元々ガラではなかったので、他の四天王のように人間を支配などはしていない。もちろん一部魔族との小さな諍いはあったが、それも個人的なレベルのものばかりだった。
したがって、あの土地で俺の顔を知る人間はろくにいない。
「さて、最後はこの森を抜ければ――ん?」
そんなこんなで、道中の森を歩いていると。
「…………え、なんで?」
俺は大きな切り株に、乱暴に突き立てられている『それ』を見つけた。
あまりの出来事に夢かと思って、何度も目をこする。しかし、そこにあるのは間違いなく――。
「勇者の『聖剣』……だよな?」
俺を一方的に打ちのめした勇者が、手にしていた『聖剣』だった。
何故それが、いまここにあるのだろうか。そう考えて、しばし硬直していると、
『もしもし、そこのお兄さん。アタシを拾いません?』
「うおわ!? 誰ぇ!?」
唐突に、そんな声が頭の中に響くのだった。
妙に馴れ馴れしい中性的なそれに驚いていると、声の主は続ける。
『誰、って目の前にいるじゃないですか。切り株の剣ですよ、剣』
「剣……って、聖剣はもしかして喋れるのか?」
『おや、アタシを聖剣とご存知――』
俺が聖剣を見つめていると、そいつは何かに気付いたように言った。
『あぁ、よく見ればお兄さん魔族ですか! しかも、四天王の!!』
「あー……そうだよ。お前に、一方的にやられた奴な」
俺は少しだけ自嘲気味に言うと、聖剣は首を傾げたような声で語る。
『そうなんです? すみません、アタシあの時は眠っていたので』
「眠っていた? なんでさ」
『そうそう聞いてくださいよ、お兄さん!!』
「お、おう……」
かと思えば、途端に酒場で絡むオッサンみたいな口調になった。
そしてヒドく憤慨した様子で、こう話す。
『あのバカ勇者なんですけどね、本当にアタシのことを下に見てて手入れもしないんですよ!? アタシがいなかったら、所詮は一般人レベルの力しかないのに!!』
「……そ、そうなのか」
『そうなんです! だからお兄さんとの戦闘時は寝てたんですけど。それでまた喧嘩になって、言い合いしてたらアタシを切り株に突き立てて放置ですよ!?』
「そ、それはまた災難だな……」
どうやら、勇者サイドでも色々と問題が発生していたらしい。
不遇な扱いというか、認められない境遇というか。この聖剣の立場とか経験は、俺が魔王軍で味わってきたものと似ているような気がした。
だから思わず、このように提案する。
「だったら、さ――」
普通ではまずあり得ない。
あり得てはいけない、そんな選択だった。
「さっきの話に乗るからさ。一緒に行かないか?」――と。
しかし、聖剣はとかくサッパリとしていた。
軽く転がるように笑うと、まるで頷くような間を置いてから言うのだ。
『オーケーです! よろしくお願いしますね、お兄さん!』――と。
こうして、魔族と聖剣のヘンテココンビが生まれて。
「そういえば、名前は? 俺はリク」
『アタシの名前は、カノンです。よろしくお願いしますね、リクさん』
「あぁ、よろしくな。カノン!」
妙ちくりんな珍道中が、始まるのだった。
――
おそらく人間関係メインになります。
カクヨムコンに参加しますので、応援いただけますと幸いです。
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