四天王最弱と呼ばれた俺、魔王軍を離脱した直後に勇者の捨てた聖剣を拾う。~今さら戻るつもりなんてないので、まずは辺境で自由に過ごしたいと思います~

あざね

オープニング

プロローグ 四天王最弱の魔族、聖剣と出会う。






「くくく、南の四天王――リクがやられたか」

「だが奴は我ら四天王でも最弱……」

「ほんっと、魔王軍の恥さらしよねー」




 勇者に敗北した翌日のこと。

 俺はそのことを魔王様に報告するため、急いで魔王城へと向かった。すると聞こえてきたのは、他の四天王たちによる笑い声。魔王軍の上官詰め所、その一室からだ。

 彼らはこちらの存在に気付いていない。

 だからこそ、そんなことを言って笑うことができるのだろう。



「………………」



 でも、戦ったからこそ俺は知っていた。

 勇者の力。いいや、正確にいえば勇者の手にある聖剣の力は本物だ。大精霊から授かったとされるそれによって、俺はいとも容易く敗北。逃げ帰るしかなかった。

 それでも、きっと他の四天王は聞く耳を持たないだろうと思う。

 最弱とされる『人型魔族』として生まれ、蔑まれてきた俺の言葉なんて――。



「そろそろ、潮時なのかもしれないな」



 だったら、もうここに居場所なんてないと思った。

 幸い人間との違いは赤い瞳と、少し尖った耳くらいなもの。認識阻害の魔法を使えば、人の暮らしに紛れて生きていくことも可能だった。

 もう、魔族として生きるのはこりごりだ。

 そこまで考えた俺の足は、自然と魔王城から外へと向かっていたのだった。







 人間と魔族の戦争が始まって、早数年。

 四天王に末席ながら抜擢されてから頑張ってきたが、俺に対する当たりは冷たいものだった。能力ではなく、魔王様のお気に入りだから、とされて陰口を叩かれ続ける。無視をしていても、耳に入ってしまえば関係なかった。

 だけど辞めると決めてしまえば、いっそ清々しいもの。



「とりあえず、南に行くか。あそこなら、土地勘もあるし」



 そうとなれば今後の方針だった。

 俺はひとまず、自分の領地であった南へ向かうことにする。元々ガラではなかったので、他の四天王のように人間を支配などはしていない。もちろん一部魔族との小さな諍いはあったが、それも個人的なレベルのものばかりだった。

 したがって、あの土地で俺の顔を知る人間はろくにいない。



「さて、最後はこの森を抜ければ――ん?」



 そんなこんなで、道中の森を歩いていると。



「…………え、なんで?」



 俺は大きな切り株に、乱暴に突き立てられている『それ』を見つけた。

 あまりの出来事に夢かと思って、何度も目をこする。しかし、そこにあるのは間違いなく――。



「勇者の『聖剣』……だよな?」



 俺を一方的に打ちのめした勇者が、手にしていた『聖剣』だった。

 何故それが、いまここにあるのだろうか。そう考えて、しばし硬直していると、



『もしもし、そこのお兄さん。アタシを拾いません?』

「うおわ!? 誰ぇ!?」



 唐突に、そんな声が頭の中に響くのだった。

 妙に馴れ馴れしい中性的なそれに驚いていると、声の主は続ける。



『誰、って目の前にいるじゃないですか。切り株の剣ですよ、剣』

「剣……って、聖剣はもしかして喋れるのか?」

『おや、アタシを聖剣とご存知――』



 俺が聖剣を見つめていると、そいつは何かに気付いたように言った。



『あぁ、よく見ればお兄さん魔族ですか! しかも、四天王の!!』

「あー……そうだよ。お前に、一方的にやられた奴な」



 俺は少しだけ自嘲気味に言うと、聖剣は首を傾げたような声で語る。



『そうなんです? すみません、アタシあの時は眠っていたので』

「眠っていた? なんでさ」

『そうそう聞いてくださいよ、お兄さん!!』

「お、おう……」



 かと思えば、途端に酒場で絡むオッサンみたいな口調になった。

 そしてヒドく憤慨した様子で、こう話す。



『あのバカ勇者なんですけどね、本当にアタシのことを下に見てて手入れもしないんですよ!? アタシがいなかったら、所詮は一般人レベルの力しかないのに!!』

「……そ、そうなのか」

『そうなんです! だからお兄さんとの戦闘時は寝てたんですけど。それでまた喧嘩になって、言い合いしてたらアタシを切り株に突き立てて放置ですよ!?』

「そ、それはまた災難だな……」



 どうやら、勇者サイドでも色々と問題が発生していたらしい。

 不遇な扱いというか、認められない境遇というか。この聖剣の立場とか経験は、俺が魔王軍で味わってきたものと似ているような気がした。

 だから思わず、このように提案する。



「だったら、さ――」



 普通ではまずあり得ない。

 あり得てはいけない、そんな選択だった。



「さっきの話に乗るからさ。一緒に行かないか?」――と。



 しかし、聖剣はとかくサッパリとしていた。

 軽く転がるように笑うと、まるで頷くような間を置いてから言うのだ。



『オーケーです! よろしくお願いしますね、お兄さん!』――と。



 こうして、魔族と聖剣のヘンテココンビが生まれて。




「そういえば、名前は? 俺はリク」

『アタシの名前は、カノンです。よろしくお願いしますね、リクさん』

「あぁ、よろしくな。カノン!」




 妙ちくりんな珍道中が、始まるのだった。



 

――

おそらく人間関係メインになります。

カクヨムコンに参加しますので、応援いただけますと幸いです。

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