4.「ありふれたおはなし」藤泉都理さん

タイトル:ありふれたおはなし

キャッチコピー:野球帽子。返しに行くから貸してもらえないかな?

作者:藤泉都理さん

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093089749548655

評価:★3

味のご希望:激辛

あらすじ:友達が連れてきた弟と主人公女子の、年月を経た恋物語。


初めに、自主企画に参加してくださったことに感謝申し上げます。

BL的な色が強いと思い込んでいた藤泉さんがおねショタを書いてくださるとは思っていなかったため、拝読したときには大変感激しましたが、そのことは講評には含めません。

また、激辛ご希望とのことなので、自分にも刺さりそうなことを書いていきます(半べそ)

引用部分が多くなるかもしれません。

ご了承ください。


[講評]

おねショタ度は高めです。

主人公の萌黄もえぎちゃんと友達の成美なるみちゃんが十三歳という年齢のときから、お話が始まります。

ストーリー運びや現実との整合性についていくつか引っかかる点があったため、そのあたりについて書きたいと思います。



冒頭では一人称に思えましたが、三人称なんですね。

「萌黄が立ち上がって成美の横に~」という文章が現れるまで一人称だと思っていました。

私はここで違和感を覚えちゃったので、以下に例文を書きます。

ただの例文なので、「はぁ、そっすか」とハナホジ的に思いながらなんとなーくうっすらほんのり参考にしてみてください。


◇原文◇

 ありふれた話である。

 遊ぶ約束をしていた友達の成美が公園に弟を連れてきた。

 お姉ちゃんなんだから弟の面倒を見てあげてと、両親に押し付けられたとぷりぷり怒っていた。

 何でも両親は久しぶりにデートをしに日帰り温泉へと出かけたとの事。


「家でいっぱい遊んであげてるのに、何で友達と遊ぶ時まで遊んであげなきゃいけないわけ。意味わかんないんですけど」

「まあまあ、偶にはいいじゃない。ぼく、何歳?」

◇原文ここまで◇


◇三人称の例◇

 ありふれた話である。

 萌黄が遊ぶ約束をしていた友達の成美が、公園に弟を連れてきた。成美はぷりぷり怒った顔を萌黄に向ける。

 母親に「お姉ちゃんなんだから弟の面倒見てあげて。じゃあ、久しぶりにお父さんと日帰り温泉デート行ってくるわね」と言われたとのことで、眉根を寄せる成美を萌黄は「まあまあ」と軽くいなし、視線を下ろして弟を見た。


「家でいっぱい遊んであげてるのに、何で友達と遊ぶ時まで遊んであげなきゃいけないわけ。意味わかんないんですけど」

「偶にはいいじゃない。ぼく、何歳?」

◇三人称の例ここまで◇


三人称だと文字数が多くなるという例になってしまいました、すみません。

最初の一文から、「ありふれた話である」という物語の一部始終を見通している神視点(※)をぶっこむのは大いにアリで、つかみとしてとても良いです。

タイトルどおりですしね。

ただ、神視点で始まるのであれば、やはり冒頭からがっつり三人称とわかるほうがいいんじゃないかなぁと。

余談ですが、もし一人称で書くのなら、「ありふれた話かもしれない」「ありふれた話だと思う」というように、主人公が主観的に考える言葉を持ってくるといいかもしれないですね。

※「神視点」Googleさんの説明

神の視点とは、天上から俯瞰する視点で情景を見たり、登場人物の行く末まで見通せたりする視点です。作家の視点とも呼ばれ、物語の創作者である作家が物語の世界を見透かしていることを意味します。



萌黄ちゃんと成美ちゃんが、公園で遊ぶ約束をしていた点について。

現実との整合性のことです。

十三歳なので中学生ですよね。

中学生って公園で遊ぶかな……?

お話の中では自然に書かれていますが、何となく不自然さを覚えました。

(萌黄ちゃんと成美ちゃんの年齢を確認しちゃいました)

自分のことを思い返してみると、中学生のときに友達と公園でおしゃべりしたことは何度かありました。

ただ、それは「学校で使う◯◯を一緒に買いに行った帰りにコンビニで肉まんを買って公園でおしゃべりしながら食べた」くらいだったという記憶がありまして。

公園で遊ぶのは小学生まで(自分が使ってきた公園という遊び場を年下の子に譲る感じ)というイメージが強いんです。

すみません、私の記憶が元になっているので的外れかもしれませんが、萌黄ちゃんと成美ちゃんが公園で遊ぶ確固とした理由があるとよかったかな……。

例えば「ごめん、今日は二丁目の公園で待ち合わせでいい? お菓子持っていくから、ベンチでおしゃべりしよ」と成美ちゃんから電話がかかってくるとか。

もしこういう記述が入っていても、特に問題なくお話は進められると思います。


【ここから先ネタバレあります! ご注意を!】






成美ちゃんが萌黄ちゃんの家に急いで駆けつけるシーンについて。

淡々としすぎている気がします。

久し振りに三人が揃うという盛り上がり部分なので臨場感が出てほしいところです。

「友達で同級生の成美は息を荒くさせたまま、少年の隣に立った」のであれば、成美ちゃんのセリフ「ごめん。萌黄。まさか本当に。あんたの家に行くとは~」は、息を荒くしているように思わせるといいんじゃないかなと思います。

句点を多くすることで荒い息を整えないまま成美ちゃんが話している様子を表しているのかもしれませんが、ちょっと弱いかな……。

他の文章でも句点が多く使われていますが、こういう場面では読点や三点リーダーが効果的だと思うのです。

例としては「ごめん、萌黄……はぁ、はぁっ……、まさか、本当に」などと入れたりすると、より「急いで駆けつけた」感が出ると思います。

(ただの例なので「はぁ、そっすか」とハナホジ的に以下略)



萌黄ちゃんの「………とりあえず、勉強を頑張る。前に」というセリフについて。

「頑張る。前に」と句点が入っているため、「前に」って何だろうと思ってしまいまして。

「勉強を頑張り始める前に野球帽を入れられる透明な箱を探そう」という意味なんですよね。

「勉強を頑張る」という決意表明は句点という区切りを置いて表すのが効果的なので、とても良い。

しかし直後に「前に」が入ると、読み手は「?」となります。

その次の文章を読むと、ああそういうことかとわかりますが、「~勉強を頑張る。でもその前に」とか、こんな感じで書いていただけるとありがたかった(笑)

お話はとても良いので、こういう小さい引っかかりがもったいなく思えます。



このお話は三人称のため主人公の萌黄ちゃんの心の声が()内に表されていますが、()に入っていない心の声もある。

「これはお邪魔だったかな。」です。

読み専だった頃、三人称の悪役令嬢ものでよく見ました。

いわゆるラノベ文体ですね。

私は特に違和感なく読めるのですが、最初から最後まで貫き通すほうがいいと思います。



ラストシーンについて。

悪くないと思います。

悪くはない。でも、特段良いというわけでもない。

()内の心の声で終わるの、もったいない……。

ラスト前に萌黄ちゃんと凱翔くんの手と手が触れ合うのは素敵!

でも、もっと絡ませちゃえばよかったんじゃないかなって思っちゃうんです。

「お姉ちゃんにはナイショ」とか言わせて……(妄想中)

うん、私の妄想でした、失礼しました。

本当にごめんなさい。



これ書こうかどうか悩んだんですけど、激辛ご希望なので書いちゃいます。

私は藤泉さんの文章好きなのですが、小説としての粗が見えてしまっているので、それを抑えて基本に忠実に書いてみるのもいいと思います。


まず、三点リーダーついて。

通常二個セットで使います。

例えば「そうなんだ……なんで……」とかですね。

また、無言を表す場合は「…………」と四個セットで使います。

もともと印刷所の都合(?)で二個セットで使い始めたらしいんですよね。

今はそれが一般化している。

その「一般」を無視すると、読み手が「何か違和感ある」と感じてしまうおそれがあります。

個人的にはいくつでもいーじゃんと思ったりするのですが、無視はしないほうがいいです。


同じように、「!」「?」のあとに文章がくる場合の全角スペース、これも省略しないほうがいいです。

例えば「そうなんだ! なんで? いつもと違うよね?」とか。

一般的には全角スペース(半角じゃないよ!※)を入れるんですよね。

これについても何でもいーじゃんと私は思うのですが、やはり無視しないでしっかり入れておくほうがいいです。

全世界に公開される、誰が読むかわからない作品なので「一般的なこと」を取り入れておけば、得はあっても損はありません。

読んだ人が藤泉さんの作品をお手本にして小説を書き始める可能性だってあるのです。

(※半角スペースは、読み手の環境によっては無視される場合があります。全角スペースが無難です)


句点多めなのは藤泉さんの文章の特徴なので、ある程度はいいと思います。

ただ、この作品にはちょっと多すぎるかなという印象を受けました。

読み手が読んだときに最も効果的になるように使うって、けっこう重要じゃないかなと。

どうしても句点を多くしたい箇所以外はもう少し控えると、お話に緩急がついたりしてもっと良くなりそうだなと思うのです。


[総評]

というように激辛で書きましたが、基本のお話は素敵な題材だししっかりおねショタになっているし、すごいと思います。

短いお話なのに登場人物たちの個性が見えてくるのも、成美ちゃん・凱翔かいとくん姉弟が仲良しなのがよくわかるのも、萌黄ちゃんの心情の変化が細かく描写してあるのも大好き。

凱翔くんが成長して身長が伸びたという点が取り上げられているのも良いですよね……!

おねショタの基本ですから!

「◯センチ伸びた!」ってね、男子は誇らしげに言うんですよねっ!

ああ、良い……!!

野球帽というアイテムが使われているのも、凱翔くんの日常感が見られて素敵です。

その分、やはり作中にブレがあるのが気になっちゃう。

もったいないなぁって。

これはね……、特に視点やら人称やらについては、何作も書いた経験がある方も陥る罠だと私は思っています。

自分にも刺さる(っω<。)

(激辛なので目にカプサイシンが刺さりました)


あ、例文は本当にただの例として書いただけなので、本当にうっすら何となく参考程度に、みたいに考えておいてくださいね!


良いおねショタ(ショタおね)で、大変おいしゅうございました。

ありがとうございました。



[私信]

おにショタも好きです(コソコソ)

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