第16話 魔王

 カレン先輩がシリウスを継承して、学園は後期の授業が始まろうとしていた、後期の初日には、入学式がある。


「いよいよ入学式か、楽しみだな」


 前世ではずっと病院暮らしだったから、入学式は初めての経験だ、こっちの入学式はどんな感じなのだろうか?

 僕は、期待を胸に寮から講堂に向かった。




「アスター! ここに居たのね」


 講堂の席に座っていると、ステラが声をかけてきた、入学式に座席の指定はなく、各々が自由に座っていた。


「ステラか、アラン見なかった?」

「見てないわね、何しているんだか……」

「少し心配だね」


 アランは寮に居なかった、まだ元レグルス領から帰ってきていないのだ。

 アランは四星フォースターズではない一般の生徒だから、レグルスに狙われることはないだろう、だが魔人の襲撃にあった可能性もある。

 僕が深刻な顔をしていると、


「まあ、アランなら大丈夫でしょ、結構強いし」


 ステラが僕の隣に座りながら言った。


「そうだね、アランなら大丈夫だよね」


 僕は自分を納得させ、入学式が始まるのを待った。




 僕は入学式を楽しみにしていたが、実際始まってみると、退屈だ、シリウス叔父様の長い話が終わり、新入生代表が登壇する。


「新入生代表って、誰なんだろう?」

「さあ? 誰も知らないらしいわよ」


 誰も知らないって、そんな事あるのか? 普通は二十一星のステラが選ばれそうなものだけど……

 そんな事を思っている内に、新入生代表が登壇する。

 登壇した人物は、身長が低く、子供にしか見えない、見た目は、ショートの黒髪に赤い目をした、肌は褐色の少年だった。


「この学園は余が支配する! 異議があるものは前に出よ!」


 少年はとんでもない事を言い放った、ジャック叔父様も先生たちも呆然としている。

 関わってはいけないタイプの人だな……

 僕が目を逸らしていると。


「そんなのミモザさんが許さないわ!」


 女学生の一人がそう言った。

 あの子は初授業の時の子か……ステラ、可愛そうに……


「私は別に許さないとか思ってないわよ」

「ふん、ミモザの継承者か、面白い……うん?」


 ヤバい、こっちを見たぞ……


「ミモザにフォーマルハウトか! 面白い、二人まとめて相手をしてやろう!」


 この子、僕がフォーマルハウトって事を見抜いたのか?


「フォーマルハウト? 誰の事でしょうか、僕はただのハウトですが」


 流石に苦しいか……?


「余に嘘を吐くか……フォーマルハウト!」

「ハウト君が、フォーマルハウトなの?」


 周囲の生徒がざわめきだす。

 くっ、もう誤魔化せないか……仕方ない、どうせレグルスに顔はバレているんだ。 


「確かに僕はフォーマルハウトです、嘘を吐いた事は謝ります、ごめんなさい」

「では余と決闘せよ!」

「いやです!」


 僕は即答した、戦う理由が無いからだ、学園を支配とか言っていたけど、子供の戯言だろう。


「初日から飛ばし過ぎですよ、ヘリオス君」

「お前に君付けされると気持ち悪いな……」


 ジャック叔父様がヘリオス君? を諫める。

 二人は知り合いなのか?


「分かった、だがいずれ戦ってもらうぞ! フォーマルハウトよ!」

「は、はい、ははは……」


 僕はヘリオス君の圧に押されて、了承してしまった。




 一波乱あった入学式だったが、その後つつがなく終了し、僕とステラは、学園長室に呼び出されていた。


「すまん! 二人とも、ヘリオス様が暴走するとは思わなかったんだ」


 ジャック叔父様が、頭を下げる。

 ヘリオス様? ジャック叔父様が様付けする程の人物なのか?


「魔王様は本当に……突拍子もない事をなさる……」


 ブラーエ先生も学園長室に来ていた。

 それより、魔王様? ヘリオス君は魔王なのか?


「そう言うな、プルートよ、支配するってのは、この学園を守ってやるって意味だったんだ」

「生徒の前で、その名前を呼ぶのはやめて下さい……学園では、ブラーエ先生と呼んで下さい……」

「すまんすまん、ブラーエ先生!」

「はぁ……」


 ブラーエ先生は大きくため息を吐く。

 ブラーエ先生がプルート? 魔人、いや魔将なのか? 意味が分からない。


「ブラーエ先生は魔将なんですか? なんで学園で先生をやっているんですか?」


 僕はブラーエ先生に質問する。


「それは……」

 

 ブラーエ先生が言い淀むと、


「余が順を追って説明しよう、まずは魔人と人の戦争から説明する必要があるな、それを起こしたのは、主戦派と呼ばれる四人の魔将だ、プルートが王国にいるのは、それを終結させるための工作の一環って所だ、戦争を起こすことは議会では却下されたのだが、四人の魔将が勝手に始めてしまった、そこで十年前にプルートを送り出し、王国との間で策を講じた、苦渋の決断だったが仕方なかった」


 ヘリオス君は遠い目をして言った。


「四人の魔将の動きを余がスパイをして、プルートがそれを王国に伝える、そうしている内に、最初は勢いのあった魔将の軍勢も、やがて劣勢となっていった、プルートの開発した魔道具で二十一星は死者を出すことなく、このまま戦争が終結すると思われた、そんな時だ、レグルスが死んだのは、レグルスが死んでから戦況は一変した、二十一星の半数を失い、事態を重く見た余は、余が死ぬことで戦争を終結させたのだ」

「なぜ、戦況がひっくり返ったのでしょう?」


 僕はヘリオス君に質問する。


「魔道具の弱点に気付いたのだろう、魔将クラスが複数で相手をすれば、転送魔法を阻害する事が出来るのだ、王国にいたスパイは、プルートが始末していたが、それでも二十一星の位置情報が筒抜けだったようだ、奴らはレグルスの持っていた魔道具を使って、次の相手を殺し、その相手から奪った魔道具で更に次の相手を殺していった、安全を担保する、転送の札が完全に裏目に出てしまったのだ」


 各個撃破されていったって事か……


「そして、余が死ぬ事で、停戦協定が結ばれ、いったん戦争は終結した」

「なぜ、ブラーエ先生は戦争が終結した後も、学園にいるんですか?」

「魔界の門の警備だよ……」


 ブラーエ先生が答える。


「王都に魔界の門があるんですか?」

 

 もしかして、母さんが心配していたのは魔界の門のことなのだろうか?


「ああ、王城の地下にある……」

「何で、そんな所にあるんですか!」


 僕は驚いた。

 いくら何でも危険すぎるだろう。


「魔界と王国は、戦争前は友好的だったからな、上層部しか知らない事だが」

 

 ヘリオス君が答える。


「でも危険なんじゃ……」

「大丈夫だ、王国側から封印を解除しない限りは、門が開く事はない、封印を守るために、余も転生したのだ、プルートもいる、心配はいらん」

「そうですか……」

「ところで、部屋の外で聞き耳を立てている奴ら、入ってこい!」


 ヘリオス君が叫んだ。


「ははは……」

「ごめんなさい、気になって……」


 メグとカレン先輩が部屋の中に入ってきた。


「それにしても、君が魔王なの?」


 メグはヘリオス君に興味津々だ、そんなメグをカレン先輩が諫める。


「こらメグ、困っているでしょう」

「むぅ……」


 メグはカレン先輩の言う事を素直に聞いて、ヘリオス君から離れる。


「フォーマルハウトよ、やっぱり余と今から戦え」

「はい?」


 僕はヘリオス君の提案に素っ頓狂な声を上げてしまった。


「三人も女子おなごを侍らせて、それを守り通せる力があるのか試してやろう」


 魔王には全てお見通しなのかもしれないな……


「分かりました、勝負しましょう」


 こうして僕はヘリオス君と戦う事になった。




 校庭に来た僕達、ブラーエ先生が周囲に防御魔法を展開する。

 これだけの魔法を長時間展開させるのも、申し訳ないな……


「いつでも、いいぞフォーマルハウトよ!」

「では、遠慮なく!」


 僕はドゥーちゃんとフォーマルハウトの力を開放した。

 よかった、まだドゥーちゃんの力が使える。

 そして僕は、一瞬で間合いを詰め、木剣でヘリオス君の首元を狙う。


「甘い!」


 ヘリオス君は木剣で僕の一撃を軽々受け止めた。


「これならどうだ!」


 僕は雷魔法をヘリオス君の全方位から打ち出し、ヘリオス君が防御魔法で対処している隙を突いて、最大限の魔力を通した木剣でヘリオス君の頭を目掛けて振り下ろした。

 防御魔法はあっさりと引き裂かれ、ヘリオス君は木剣で僕の攻撃を受け止める、その瞬間、ヘリオス君の木剣はバラバラになってしまった。


「ははは、見事だ!」


 ヘリオス君は降参と言わんばかりに両手を上げる。

 勝ったのか? 魔王に?


「魔王様が……こうもあっさり負けを認めるとは……」


 ブラーエ先生も驚いているようだ。


「本気でしたか?」


 僕はヘリオス君に尋ねる。


「もちろん、余は手は抜かん、だが二つの星霊の力を使う者がいるとはな……」

「ははは、僕にも何で使えるのか分かりません」


 実際、分かっていないから、僕は正直に答えた。


「アスター凄いじゃない! 魔王に勝っちゃうなんて」


 ステラが僕に駆け寄って、そう言った。


「いや、ヘリオス君は本気だって言っていたけど、実際はどうか分からないよ、ヘリオス君、攻撃してこなかったし」

「それでも、魔王に負けを認めさせるって、凄いよ、アスターくん!」


 メグも僕を褒める。

 褒められて悪い気はしないけど……


「アスターくん、お疲れ様」

「カレン先輩、ありがとうございま……」


 言いかけた、その時カレン先輩が、僕を抱きしめた。


「先輩!? いきなり何を?」

「魔王に勝っちゃうなんて、アスターくんは凄い、大好きよ」


 積極的すぎないか、カレン先輩!


「ちょっと、カレン先輩!」

「カレン、離れるんだ!」


 二人が騒ぎ出す。

 そうだ、この場を収拾できるのは、ジャック叔父様しかいない!

 僕はジャック叔父様の方を見る。


「ようやく、カレンも婚約者としての自覚が出てきたか、孫の顔を見れる日も近そうだ……」


 ジャック叔父様はうんうん頷きながら、僕達の方を見ていた。

 駄目だ、仕方ない、彼女たちが満足するまで、僕は何もしないでいよう。


「やはりモテモテだな、フォーマルハウトよ」

「校内でイチャイチャするのは……よくないが……」


 ヘリオス君とブラーエ先生が茶化す。


「その女子おなご達は強いが、もしもの時はちゃんと守ってやれよ、お前にはその力があるからな」

「言われなくても、そのつもりです」


 僕はヘリオス君の目をしっかりと見て、そう言った。


「ふっ、そうか、心配はいらなさそうだな、プルー……いや、ブラーエ先生、今日も王都を見て回るぞ、ついて来い!」

「本当に……人使いが荒いですね……」

「そう言うな、行くぞ! ははは!」


 ヘリオス君と、ブラーエ先生はそう言うと、去って行った。


「カレン、そろそろ変わりたまえ!」

「メグ先輩、私が先ですよ!」

「アスターくーん」


 どうしよう、この状況……でも、三人とも僕が必ず守るからね。

 僕は心の中で、彼女たちにそう誓った。

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