第14話 継承

 屋敷がレグルスに襲撃された翌日、僕は三人に僕の力について説明する事にした。


「僕には前世の記憶がある、生まれ変わった時に星神様から、七つの願い事を叶える能力を貰ったんだ」


 僕は元は異世界の人間である事は隠した、異世界の事まで話すと、この場が混乱しそうだったからだ。

 いつかは話す事になるかもな……

 僕は心の中でそう思い、三人の反応を待った。


「つまり、私が助かったのは、その力のおかげなのね」


 母さんがそう言って、僕を抱きしめた。


「恥ずかしいよ……母さん……」


 僕が照れていると、母さんは優しく微笑んで、こう言った。


「ありがとう、アスター」


 母さんを助ける事が出来て、本当に良かった。


「七つと言う事は、あと何回使えるんだい?」


 メグが僕に聞いてきた。


「あと二回ですね」


 僕は正直に話した。


「凄いわよ、アスター! なんでも願いが叶うなら、あと二回、何を願うつもりなの?」

「それは、その時になってみないと……」


 僕は言い淀む。


「その言い方、何か含みがあるわね」

「急に意識を失った事と関係があるのかい?」


 ステラとメグが僕を問い詰める。


「ドゥーちゃんが、言ってたんだ、もう力は使わないで欲しいって、リスク無しに願いが叶うと、本当に思っているのかとも言われた」

「そう……」

「ふむ……」

「七回目の願いを叶えたら、多分僕は死ぬんじゃないかな……」


 僕には漠然とした予感があった、それほどまでにドゥーちゃんの顔は深刻に見えたからだ。


「じゃあ、もう絶対使っちゃダメだからね!」

「願いが叶っても、アスターくんが死んだら元も子もないだろう! その力は使うの禁止だ!」

「アスター、お願いだから、使わないでね」


 三人は僕の事を心配して、こう言っているが。

 それでも、もしもの時は……


「分かった、もう使わない、約束するよ」


 僕は三人に嘘を吐いた。




 数日して、ベガさんが屋敷を訪ねてきた、僕は、母さんのいる応接間に、彼女を案内する。


「申し訳ありませんでした!」


 ベガさんはいきなり頭を下げ、謝罪する。


「謝らなくていいわ、ベガさん、サロスが怪我したのはあなたのせいじゃないわ」

「しかし……」


 ベガさんは母さんの正体を知っているのだろう、そうでなければ、必死になって母さんに頭を下げたりしないだろう。


「それより、王都がどういう状況になっているか、説明してちょうだい」

「分かりました、学園でフォーマルハウト様、シリウス様、私の三人でいた所にレグルスが襲撃してきました、私たちは全力で応戦しましたが、結果として、フォーマルハウト様とシリウス様が負傷しました、間一髪の所、私の弟が加勢する事で、なんとか退ける事ができました」


 父さんだけじゃなくて、ジャック叔父様も怪我したのか? ブラーエ先生のおかげでレグルスを撃退できたのか、あとでお礼を言っておかないとな。


「そう、王都への被害は?」

「それは、ございません」

「なら、不幸中の幸いね……」


 なんだろう? 王都に何かあるのか?


「それと、手紙を預かっております」

 

 ベガさんは母さんに手紙を渡した、母さんはそれを見ると、僕に言った。


「アスター、ステラとメグちゃんにすぐ支度するように言って、王都に出発するわよ」

「え!? は、はい」


 母さん、王都に行って大丈夫なのか? 

 そう思いながら、僕はステラとメグを呼びに行った。




 僕達は、大急ぎで支度を済ませ、屋敷の前に集合した。


「フォーマルハウト領の国境警備は、私にお任せ下さい」

「ベガさんは残るんですか?」

「はい、私は四星フォースターズではないので、レグルスに狙われる心配は無いでしょう、国境の警備に二十一星がいないのは、まずいので」


 ベガさんが居れば、安心だろう。


「それじゃ、留守を頼んだわね、ベガさん」

「はい!」


 母さんがベガさんに、そう言った、そして僕達は馬車に乗り、王都へと出発した。




 王都への道中で、母さんが僕達にお札を渡してきた。

 これはレグルスが持っていたのと、同じお札か?


「これを使えば、一度だけ転送魔法が使えるわ、もしもの時は使いなさい」

「転送魔法? そんなの初めて聞いたよ」


 僕は母さんに疑問をぶつける、魔法は一通り知っているが、転送魔法なんて聞いた事が無かった。


「このお札は、ある人が研究した物よ、大討伐の時に二十一星に支給された物の残りよ」

「もしかして、このお守りにも、このお札が使われているの?」


 母さんがステラを庇った時、お守りが光り、母さんはいきなり現れた、転送魔法に違いないだろう。


「そうよ、条件を満たせば、対象を転送する事ができるの」

「ソフィアお姉ちゃん、ずっと守ってくれてたって事なの?」

「あなたたち二人に渡した、お守りは、ピンチの時に私を転送するようにしていたから、そうかもしれないわね」


 母さんは優しく微笑みながら言った。


「これ使ったら、レグルスを呼べないかな?」


 メグが恐ろしい事に気付く。

 逆もあるかもしれない、転送されて、各個撃破、最悪のパターンだ。


「それは無理ね、転送するには、その者が同意してないと出来ないから」


 なら大丈夫か。


「それで、お札の使い方は?」

「自分自身を転送させる時は、お札に転送先をイメージして強く念じれば、転送されるわ」


 これで、もしもの時は、逃げる事が出来るか……


「それにしても、母さん、王都に行って大丈夫なの?」


 母さんは死を偽装した、王都に行くのは危険なのではないだろうか?


「まあ、領地に残るのも、今は危険だし、アスターと一緒に王都に行った方が安全だと思うわ」

「そ、そうだね、でも生きているのがバレたらまずいんじゃ」

「大丈夫よ、この魔道具で顔を隠すわ」


 母さんは、仮面を取り出した。

 余計に怪しいと思うんだけど……

 母さんが、顔に仮面を被ったら、母さんの顔が別人に変貌した。

 

「これなら、大丈夫でしょ」

「おお! 凄い! お母様、私にも被らせて下さい!」

「暴れないの、メグ先輩」


 確かに、これなら大丈夫そうだ、母さん、今度こそ、守ってみせるよ……

 僕は心に誓った。


「それで、あなたちには、実戦経験が足りてないと思うの! だから、王都まで、私が鍛えてあげるわ!」


 王都までの五日間、僕達は地獄の日々を送った。




 王都に入る時、審査は殆どされなかった、父さんとジャック叔父様が根回しをしてくれたのだろう。


「さあ、別邸に向かいましょう」


 母さんがそう言った。

 別邸があるなんて、初耳だぞ。

 王都はレグルスの襲撃があったにもかかわらず、平穏そのものだった。

 被害があったのは学園の方だけだからか?


「着いたわ、ここよ」


 目の前には別邸というには質素な、と言うかボロい家が建っていた。


「何て言うか……」

「ボロいな!」


 ステラは言いとどまったのに、メグは率直な感想を述べる。


「三人とも、早く入りなさい」


 母さんに促された僕達は、家の中に入る。


「凄いな……」


 僕の目の前には、ボロ家からは想像できないほどの、綺麗な装飾で彩られた内装が広がっていた。


「地下に行くわよ、アスター、二人はくつろいでいて」

「「はーい」」 


 僕は言われるがまま、地下室へ向かう。


「よう、早かったな」

「サロス!」


 母さんはベッドにいた、父さんに抱きつく。


「心配かけたな、ソフィア、アスター」

「案外元気そうで良かったよ」

「おいおい、俺の事も心配してくれよ!」


 僕は椅子に座っていた人物に驚いた。


「ジャック叔父様!?  その足は?」

「ジャック、大丈夫なの?」

「大丈夫だ、しかし、俺も焼きが回ったな……」



 ジャック叔父様の右足は切断されていた。


「少々早いが、カレンにシリウスを継承させないといけないな」


 ジャック叔父様は、冗談かどうか分からない事を言った。


「でも、ジャック叔父様ならまだ……」

「無理だ、次レグルスに襲われたら、間違いなく俺は殺されるだろう、これは、カレンに自分の身を守る力を与えるためだ」


 どうやらジャック叔父様は、本気みたいだ。


「いいのか、ジャック? シリウスは例の儀式があるだろう? それにカレンちゃんは……」

「いいんだ、カレンは相手を見つけたって言っていた、シリウスが学園から動けなくなっても、俺は、娘を失いたくないんだ……」


 立ち入った話に、僕は何も言う事が出来なかった。

 しばらくすると、ジャック叔父様は、話は終わりだと言わんばかりに、杖をつきながら出て行ってしまった。


「ちょっと、ジャック、待ちなさいよ!」


 母さんはジャック叔父さんを追いかけて、地下室を出て行った。


「アスター、残りの一割、今すぐ継承させる」

「えっ、そんな事して、レグルスに襲われたらどうするの?」


 僕は父さんに問いかける。


「一割しか使えない、俺が戦うより、十割使えるアスターが戦った方が、勝率は高いだろう?」

「そうだけど……」

「俺が襲われて死ぬのはいい、だが、アスターが襲われた時、一割が足りずにアスターが死ぬのは嫌なんだ! 分かってくれ! 頼む……」


 父さんの涙を浮かべながらそう言った。

 そんな顔しないでよ、父さん……


「分かった、残りの一割貰うよ、父さん」


 僕は返事をした。

 

「今まで、ありがとう、フォーマルハウトよ……」


 父さんがそう言うと、僕に星霊の力が流れ込んできた。


「これで完全に継承完了だ」


 父さんが行ったのは、自身の契約を強制解除するものだ、契約を解除すれば、残りの力が勝手に契約者に流れ込む仕組みになっている。


「父さんも母さんも、必ず僕が守るよ」


 僕は決意を口にした。


「ありがとう、アスター、だけど俺は、お前が生きていればそれだけでいい」


 父さん、ありがとう……それでも僕は、大切な人を守りたい、僕の願いはただそれだけだ。

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