第5話 星霊研究部

 二日目の授業が終了した。


「えー、生徒諸君には、部活動に入ってもらう、これは強制だからね……」


 ブラーエ先生は、そう告げると立ち去った。

 部活があるのか、どんな部活があるんだろう?


「アスター部活だってよ、どうする?」


 アランが隣に来てそう言った。


「見て回らないことには、なんとも……」

「それもそうだな! 俺は剣術部があったらそれにするぜ!」


 アランはやる気満々に言った。


「僕は運動系以外にしようかな」


 僕がそう言うと、アランは少し残念そうな顔をしてから。


「そっか、別々になるけど頑張ろうぜ!」


 そう言いながら、アランは去っていった。


「僕も、見て回らなきゃな……」


 椅子から立ち上がり、教室を後にした。


 


「色々見て回ったけど、いまいちピンとこないな」


 僕は呟きながら、歩いていると、黒いローブを着た人物に話しかけられた、背は低く、フードを深く被っていて、顔は見えない。


「部活をお探しなら、いい所があるよ」


 見るからに怪しいが、声から女性であることが分かる、僕は身構えながらこう言った。


「流石に怪しすぎませんか?」


 すると、黒いローブの女性は、フードを脱ぎながら、こう言った。


「ごめん、ごめん、こうでもしないと、興味を引けないと思って」


 黒いローブの女性は、小動物のような可愛らしい金髪の少女だった。


「星霊研究部、興味ない?」


 彼女は顔を近づけてそう言う、いや近すぎる。


「顔が近いです、先輩?」


 僕がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にした、しばらく取り乱していたが。


「コホン、星霊研究部興味ない?」

「興味ないです」


 僕はそう言った、本当は興味があるけど、少し様子を見るためにそう言った。


「ぐすん、お願いだから入って、入ってくれたら私の初めてあ、げ、る」

「は、初めてって何ですか……?」

「初めての、ビ、ン、タ」

「いりません、それじゃ」

「わーん、初めてあげるって言ったのに酷いよ!」


 なんてことを口走るんだ、この先輩は。


「分かりましたから、星霊研究部、入りますから、勘弁してください」


 こんなことなら最初から入るって言えばよかった、僕は周りに人が居ないか確認する、良かった居ない、僕の尊厳は守られたようだ。


「じゃ、これにサインしてね」


 切り替えが早いな、僕は言われた通りにサインする。


「わーい、大好き」


 先輩はいきなり僕に抱き着いてきた。


「せ、先輩、冗談はやめてください」


 すると先輩は、僕の耳元でこう囁いた。


「これからよろしくね、アスター・フォーマルハウトくん」


 僕は驚いた、なぜ彼女が僕の名前を知っているのか? 


「何で知ってるのかって顔だね、それはね……」

「それは?」


 僕は彼女の答えを待つ。

 彼女は僕から離れてこう言った。


「私の星詠みに見通せぬ物はないのだよ、はっはっはっ!」


 星詠み、この国では限られた者にしか使えない能力のはずだが、彼女がその一人なのか?


「自己紹介がまだだったね、私はマーガレット・スピカ! 君にはメグと呼ぶことを許そう!」


 テンション高いな、メグ先輩


「僕もアスターでいいです、メグ先輩、それと僕の本名は内密にお願いします」

「無論だよ! アスターくん!」


 そうして僕は、星霊研究部に入部することになった。

 



「さて、アスターくん! まずは君の星霊を見せてくれ!」


 僕たちは星霊研究部の部室に来ていた。


「えーっと、フォーマルハウトは無理ですよ」

「ちがーう! 手の平星霊だよ!」


 なぜ彼女がドゥーちゃんの事を知っているのか、気になったが、星詠みの力なんだろうと自分を納得させた。


「でもドゥーちゃんは気まぐれなので……」


 僕がそう答えると。


「ドゥーちゃんと言うのか! ドゥーちゃん出ておいでー、怖くないからー」


 彼女はドゥーちゃんを呼び出そうとしているが、一向に出てくる気配はない。


「フム、出てこないなら仕方ないか」


 彼女はあっさり諦めた。

「じゃあ、初回くらいは真面目に研究しようか!」


 初回くらい? 普段は不真面目なのだろうか?


「アスターくんは二十一星の現状、どこまで理解してる?」


 これは星霊の研究なのか?


「えーっと、二十一星は、五年前の大討伐でほぼ壊滅して、現在二十一星を継承する者は十人しかいないでしたよね?」

「その通り! 大討伐のおかげで魔王が討伐され平和にはなったが、今度は隣国に対する戦力が不足しているね、四星フォースターズのレグルスも空位だ」

「なぜ、継承させないのですか?」

「答えは簡単! 誰も厄介事はやりたがらなーい、特に生死に関わるからね、継承するのは変人くらいさ!」

「先輩は変人なんですか?」


 僕がそう言うと、彼女は語気を強めてこう言った。


「私が変人なら、アスターくんも変人だな! 変人コンビ結成だ!、はっはっはっ!」


 やっぱり、彼女は変人なのかもしれない。


「それで、二十一星の現状と精霊研究、何か関係するのですか?」


 僕は話題を戻す。


「二十一星は誰でも継承できる状態だ、そこでアスターくんだよ!」


「僕がどうかしましたか?」


「アスターくんは二つの星霊と契約してるよね、つまり……」

「僕なら、複数契約出来るかもってことですか?」

「そう! 普通は一人に一つの契約だけど、アスターくんは例外だ! そしてその原理を研究すれば、

私も複数契約出来るかもしれない!」

 

 彼女の言葉に、正直胸が躍った。


「だから早く、ドゥーちゃんを出したまえー」

「だから無理ですってば」 


 この勢いならドゥーちゃんを解剖でもしそうだな。


 


「そういえば、星霊研究部に顧問とか居ないのですか?」

「あー顧問、顧問ね」


 彼女は露骨に顔を逸らす。


「メグ先輩?」

「非公認の部だからね……」 


 彼女は小声で何かを言った。


「何て言ったんですか?」

「実は、今まで非公認だったから、顧問は居ない! 二人になったからやっと公認されるよー」

「えっと、部活動は強制参加だから、非公認ならメグ先輩は部活に入ってないことになりますよね?」

「ふふん、一等星の称号を持つ者は部活に入らなくても良いのだよ!」


 彼女は胸を張って言った。


「では、私は顧問を捕獲してくるから、またね、アスターくん!」


 そう言うと、彼女は大急ぎで部屋から出て行った。

 嵐のような人だったな、僕はそう思い部室を後にした。

 後日ブラーエ先生が、椅子に縛られたまま部室に連行された。

 変人が変人を呼んでしまった。


「変人トリオ結成だ!」


 高らかにメグ先輩が叫んだ。変人にしないで……。



 



 部室を後にした私は鼻歌交じりに廊下を歩く。

 やっと私を理解してくれる人が、現れたのが本当に嬉しい。

 星詠みでこの日を見た時から、ずっと待ちわびていた、これでやっと私は一人じゃなくなる、私をちゃんと見てくれる人がいる、それだけで、胸が躍った、彼に失望されなかっただろうか、一抹の不安はあったが、そんな心配は不要だった、彼はとても優しかった。


「ちゃんと見ててね、それだけで私は満足なんだから……」


 誰も居ない廊下で私はそう呟いたのだった。

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