第4話 艶美
☆
私は鼻歌を歌いながら戻って来る。
それから椅子に腰掛けた、と同時に先輩も戻って来る。
そして同じ様に腰掛ける。
前田先輩が目を丸くしながら見てくる。
「何だお前ら?かなり陽気だな」
「俺は別に普通だがコイツが陽気だな。一体何故か知らないが」
「私ですか?陽気とかそんなの無いです。アハハ」
「...?」
先輩は首を傾げながらコーヒーを飲む。
私は知っている。
先輩はコーヒーは甘ったるくするのを。
そして先輩はミルクを入れないと飲めない。
私、何でも知っている。
「...んで。...どうするよ?」
「何がだよ」
「お前、復讐も無しに生きる気か?」
「復讐も無しに生きる気かってお前。今、何も思い浮かばねぇし」
「そうか。それじゃまあ仕方が無いな」
「傷心ですか?先輩」
「それはまあな」
私以上に先輩を知らない人は居ない。
この人の態度も何もかもを知っている。
なのに...私の兄は。
私達から幸せを奪っていった。
許さない。
「...どした?お前。何だか辛辣な顔をしているぞ?」
「あ。何でも無いですよ?先輩。アハハ。...何でも無いです」
あの2人は地獄に落ちてもらわないといけない。
そう思いながら考える。
確かにSNSに投稿すれば一発で全て終わる。
だがそれは同時に...それで終わってしまう事。
そんなの面白みもクソもない。
「もう直ぐテストだよなぁ」
「そうだな。お前、勉強はしているのか」
「してねぇな」
「しろよ。馬鹿かお前は。大会も出れなくなるぞ」
「ああそれは...っていうか俺、補欠だしな」
「いや関係ねぇ...」
そんな会話を聞きながら私は笑みを浮かべる。
裏では物凄く禍々しいドス黒い何かが渦巻いているが。
気にしては駄目だ。
今直ぐにでもぶち殺したいけど。
☆
「まあ...傷心は仕方がないが...その分...復讐も考えないと」
「俺はそういうタチじゃねーよ」
「お前甘すぎ」
そして私達はファミレスでお腹いっぱいになってから。
前田先輩と途中の道まで話しながら帰宅する。
私は楽しげな先輩の姿を見てから...笑みが止まらない。
何というか幸せだ。
「んじゃまあ俺はこっちの道だから。...そいじゃな」
「ああ。...前田」
「何だよ」
「サンキューな。お前のお陰で気持ちの切り替えが出来た」
「俺は何もしてねぇ。お前奢れ。今度」
「忘れてくれ。今の言葉は」
「ぁん?」
前田先輩はジト目をしながらも苦笑する。
気持ちを前向きに、とでも言いたそうな顔で、だ。
私はその姿を見ながら挨拶して別れる2人を見ていた。
それから一緒に帰宅する。
うん。
「先輩」
「...何だ?」
「キスしても良いですか?」
「...は!!!!?」
先輩は愕然とする。
何か全く我慢出来ない。
というかイケナイ事だって知っているけど。
でも良いよね?仮にも兄が先輩の彼女を寝取ったんだから。
私が先輩を寝取り返しても。
薄暗い空を見上げて先輩を見る。
「大人のキスしてみませんか?実験で。どれだけ気持ち良いか」
「いや。冗談はよせ。...全く。そういう事をするにはまだは...」
私はどさっと鞄を落とす。
それから先輩の口に口を押し当てる。
そして私は先輩の口の中に舌を入れた。
そうしてからキスを交わす。
「ブハァ!な、何をしてんだお前は!!!!?」
「キスですよ?見て分かる通り」
「ば、馬鹿!お前な!外だぞ!?」
「外ですね。で?この辺りは結構人通り少ないんですよ。この時間は」
「お前な...好きでもない相手に...!」
「好きでもない相手...?...面白い事を言いますね。好きでもない相手に私がキスをするとでも?」
そうして私は紅潮しながらそのまままた熱いキスを交わす。
先輩の...吐息がやらしくなってくる。
うふふ。
すると絶句した声がした。
「何をしているの」
「...羽島...純夏?」
「ねえ。何をしているの?貴方...その人は私の彼氏なんだけど」
「純夏...」
それは羽島純夏(はしますみか)だった。
制服姿でポニテにして居る。
美少女。
いや。
憎らしい相手。
因縁の相手と言える。
誰かって?それはもう言葉で表されているが。
この人は私の先輩の彼女だ。
つまり。
「アハハ。彼氏ぃ?...いやいや別に構わないですよね?羽島純夏さん。貴方だって浮気していますし」
「な」
「...!」
私は羽島を嘲笑うかの様に見る。
羽島は眉を顰めながら私の目を見てくる。
その光景に私は真顔になった。
それから口角を上げてゆっくり私は答える。
「だったらまあキスしようが何だろうが関係ないですよね。貴方は仮にも男性と浮気した。なら私は浮気し返すだけです。ただそれだけ」
「...」
「待て。山吹...さ、流石に説明を」
「アハハ。この女に説明なんて要らないですよ。先輩」
羽島に向く様に私は先輩から離れる。
すると羽島は「...」となったまま私を見てくる。
私はその顔にニヤッとした。
「羽島純夏さん。あくまで貴方は浮気した。私、彼の精子をもらいます」
「せいぃ!?」
「...」
羽島は悔しそうな顔をしながら震える。
何故そんな顔をするのか分からないけどどうだって良いや。
そう思いつつ私は飯島を見る。
すると羽島は歯を食いしばってから私を見た。
「そうはならないでしょ。貴方も今、大罪を犯した...」
「大罪って何ですか?馬鹿ですか?」
「...貴方...」
「私は許しませんよ。貴方を」
そして私は先輩の手を握る。
それからその右手を私の胸に押し当てる。
先輩は硬直した。
えへへ。
暖かいや。
「...」
羽島は何も言わず本当に心底悔しそうな顔でそのまま場を去った。
それから私は目の前の先輩にまたキスをする。
そして笑顔になる。
「気持ち良いですね。先輩♪」
「...お前な...」
「...でもまあ今日はこれぐらいにしましょう。盛り上がりが冷めました」
それから私は先輩から離れる。
そして私は改めて決意する。
先輩が欲しい。
だって先輩が好きだし。
だからこそ歪んでいる全てを修正しなくてはならない。
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