第4話 艶美


私は鼻歌を歌いながら戻って来る。

それから椅子に腰掛けた、と同時に先輩も戻って来る。

そして同じ様に腰掛ける。

前田先輩が目を丸くしながら見てくる。


「何だお前ら?かなり陽気だな」

「俺は別に普通だがコイツが陽気だな。一体何故か知らないが」

「私ですか?陽気とかそんなの無いです。アハハ」

「...?」


先輩は首を傾げながらコーヒーを飲む。

私は知っている。

先輩はコーヒーは甘ったるくするのを。

そして先輩はミルクを入れないと飲めない。

私、何でも知っている。


「...んで。...どうするよ?」

「何がだよ」

「お前、復讐も無しに生きる気か?」

「復讐も無しに生きる気かってお前。今、何も思い浮かばねぇし」

「そうか。それじゃまあ仕方が無いな」

「傷心ですか?先輩」

「それはまあな」


私以上に先輩を知らない人は居ない。

この人の態度も何もかもを知っている。

なのに...私の兄は。

私達から幸せを奪っていった。

許さない。


「...どした?お前。何だか辛辣な顔をしているぞ?」

「あ。何でも無いですよ?先輩。アハハ。...何でも無いです」


あの2人は地獄に落ちてもらわないといけない。

そう思いながら考える。

確かにSNSに投稿すれば一発で全て終わる。

だがそれは同時に...それで終わってしまう事。

そんなの面白みもクソもない。


「もう直ぐテストだよなぁ」

「そうだな。お前、勉強はしているのか」

「してねぇな」

「しろよ。馬鹿かお前は。大会も出れなくなるぞ」

「ああそれは...っていうか俺、補欠だしな」

「いや関係ねぇ...」


そんな会話を聞きながら私は笑みを浮かべる。

裏では物凄く禍々しいドス黒い何かが渦巻いているが。

気にしては駄目だ。

今直ぐにでもぶち殺したいけど。



「まあ...傷心は仕方がないが...その分...復讐も考えないと」

「俺はそういうタチじゃねーよ」

「お前甘すぎ」


そして私達はファミレスでお腹いっぱいになってから。

前田先輩と途中の道まで話しながら帰宅する。

私は楽しげな先輩の姿を見てから...笑みが止まらない。

何というか幸せだ。


「んじゃまあ俺はこっちの道だから。...そいじゃな」

「ああ。...前田」

「何だよ」

「サンキューな。お前のお陰で気持ちの切り替えが出来た」

「俺は何もしてねぇ。お前奢れ。今度」

「忘れてくれ。今の言葉は」

「ぁん?」


前田先輩はジト目をしながらも苦笑する。

気持ちを前向きに、とでも言いたそうな顔で、だ。

私はその姿を見ながら挨拶して別れる2人を見ていた。

それから一緒に帰宅する。

うん。


「先輩」

「...何だ?」

「キスしても良いですか?」

「...は!!!!?」


先輩は愕然とする。

何か全く我慢出来ない。

というかイケナイ事だって知っているけど。


でも良いよね?仮にも兄が先輩の彼女を寝取ったんだから。

私が先輩を寝取り返しても。

薄暗い空を見上げて先輩を見る。


「大人のキスしてみませんか?実験で。どれだけ気持ち良いか」

「いや。冗談はよせ。...全く。そういう事をするにはまだは...」


私はどさっと鞄を落とす。

それから先輩の口に口を押し当てる。

そして私は先輩の口の中に舌を入れた。

そうしてからキスを交わす。


「ブハァ!な、何をしてんだお前は!!!!?」

「キスですよ?見て分かる通り」

「ば、馬鹿!お前な!外だぞ!?」

「外ですね。で?この辺りは結構人通り少ないんですよ。この時間は」

「お前な...好きでもない相手に...!」

「好きでもない相手...?...面白い事を言いますね。好きでもない相手に私がキスをするとでも?」


そうして私は紅潮しながらそのまままた熱いキスを交わす。

先輩の...吐息がやらしくなってくる。

うふふ。

すると絶句した声がした。


「何をしているの」

「...羽島...純夏?」

「ねえ。何をしているの?貴方...その人は私の彼氏なんだけど」

「純夏...」


それは羽島純夏(はしますみか)だった。

制服姿でポニテにして居る。

美少女。

いや。

憎らしい相手。


因縁の相手と言える。

誰かって?それはもう言葉で表されているが。

この人は私の先輩の彼女だ。

つまり。


「アハハ。彼氏ぃ?...いやいや別に構わないですよね?羽島純夏さん。貴方だって浮気していますし」

「な」

「...!」


私は羽島を嘲笑うかの様に見る。

羽島は眉を顰めながら私の目を見てくる。

その光景に私は真顔になった。

それから口角を上げてゆっくり私は答える。


「だったらまあキスしようが何だろうが関係ないですよね。貴方は仮にも男性と浮気した。なら私は浮気し返すだけです。ただそれだけ」

「...」

「待て。山吹...さ、流石に説明を」

「アハハ。この女に説明なんて要らないですよ。先輩」


羽島に向く様に私は先輩から離れる。

すると羽島は「...」となったまま私を見てくる。

私はその顔にニヤッとした。


「羽島純夏さん。あくまで貴方は浮気した。私、彼の精子をもらいます」

「せいぃ!?」

「...」


羽島は悔しそうな顔をしながら震える。

何故そんな顔をするのか分からないけどどうだって良いや。

そう思いつつ私は飯島を見る。

すると羽島は歯を食いしばってから私を見た。


「そうはならないでしょ。貴方も今、大罪を犯した...」

「大罪って何ですか?馬鹿ですか?」

「...貴方...」

「私は許しませんよ。貴方を」


そして私は先輩の手を握る。

それからその右手を私の胸に押し当てる。

先輩は硬直した。

えへへ。

暖かいや。


「...」


羽島は何も言わず本当に心底悔しそうな顔でそのまま場を去った。

それから私は目の前の先輩にまたキスをする。

そして笑顔になる。


「気持ち良いですね。先輩♪」

「...お前な...」

「...でもまあ今日はこれぐらいにしましょう。盛り上がりが冷めました」


それから私は先輩から離れる。

そして私は改めて決意する。

先輩が欲しい。

だって先輩が好きだし。

だからこそ歪んでいる全てを修正しなくてはならない。

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