第15話
「新美さん、受け付けお願い!」
「はーい!」
本格的な文化祭の出し物に初めは慣れなかったけれど、数分したら慣れた。
受け付けはあまり接客が少ないから、比較的楽な仕事。それにしてもお客さん多いな〜。
珍しいからかお客さんが多い。
『陽茉莉ちゃん、転けないようによく見て歩くんだよ』
頭に直接響いてくる声。ノアさんのような声がするが、ノアさんの姿は見えない。
(もしかして、きつねさ、、、)
あれ?今、何て、、、。何て言おうとしたの?狐?どうして?
思い出せない。
モヤモヤする気持ちを残したまま、文化祭は終わった。
「もう真っ暗、、、」
街灯の少ない道を歩きながら呟く。ノアさんに人道りの少ない道から帰ったら駄目って言われていたのに、遠回りしたからか私以外に他の人はいない。
農道を歩いていると大学生くらいだろうか、体格の良い男性に声をかけられた。
「あの、ハンカチ落としましたよ」
ポケットからハンカチを取り出す大学生。だが、よく見ると私のハンカチではなかった。
「違いますけど、、、」
「だって、俺のやつだから」
「え、、、」
「なぁ、良いだろ?一人なんだろ?」
「え、、、あ、、、」
声が出ない。恐怖で震える。少しでも気を抜けば崩れ落ちそうだった。
(な、なにこの人、、、)
しかもちょっとお酒臭い。
じりじりと距離を縮められ、私も同じ分だけ距離を離す。大通りはすぐそこだ。
このまま走って逃げたかったけど、あまり刺激しないほうが良いような気が、、、。
「なぁ、来いって」
「嫌です」
「良いから来い!!」
腕を掴まれ、咄嗟に持っていた通学鞄で応戦しようとした刹那―――。
「あれ、ナンパ中かな?」
低い声が聞こえる。
グギッと嫌な音がした。
「うわぁぁぁっぁぁ!!」
「でもごめんね、その子は渡さないよ」
突然現れたノアさんによって男子大学生の腕は、みるみる有り得ない方向に曲がっていっていく。
酔っているとはいえ、男子大学生は体格が良い。そんな男が、いかにも細身で非力そうなノアさんに逆らえない。
大人相手の子供みたいに抑え込まれてしまっている。
(ノアさん、、、?)
悲鳴を上げる男を、彼は薄い笑みを浮かべて見下ろしていた。
「この子を誘ってどうするもりだった?誘拐?それとも、、、」
「うわっ、うわぁぁぁぁ!!」
全く笑みを崩さないノアさんに、少し恐怖心を覚える。
「や、やめてくれぇぇぇ!う、腕がぁぁぁ!」
悲鳴を上げる男。
「や、やめて!」
あまりにも見ていられなくて、ノアさんに向かって叫ぶ。
「ああ、そうだよね。暴力は良くないよね」少し和らいだ声だった。
良かった、やめてくれる。ノアさんが離したら近くの病院まで連れて行こう。
パッと手を離し、悲鳴が止んで、緊張の糸が緩んだその時。
「じゃあ、代わりにマジックをかけてあげるよ」
目が開いた。初めて見る瞳は綺麗な黄金色に輝いていた。
「、、、三、二、一」
―――ぱちん。
指を鳴らす乾いた音と共に、目の前にいた男が消えた。
「え、、、消えっ」
「ほら見て〜陽茉莉ちゃん。足元に鼠がいるよ」
ちょこちょこと地面を歩き回る鼠を指指す。まさかとは思うけど、、、マジックで変えた?
「いや〜、よく動く鼠だねぇ」
突然の出来事に声を出せずに立っていた。
「知ってるかい?鼠は見付けたら駆除しないといけないんだよ」
そう言って鼠に足を持っていく。踏み潰す気だ、、、!
「や、やめて!」
ノアさんの細い目がもっと細くなる。
「どうして?君をナンパした挙句、良からぬことを企てようとした輩なのに?」
「で、でも、、、」
背中に薄らと冷たいものを感じながら、鼠を見ているノアさんを見上げた。
「まぁ、君が戻せって言うなら戻すよ」
ほっと胸を撫で下ろす。
だが、いくら待ってもノアさんは元に戻す気配がしないのだが、、、。
「、、、戻さないの?」
「ん?そのうち時間が経てば戻るよ」安心させるように、子供に言い聞かせるような口調で言う。
「そのうちって何時?」
「さぁ、数時間後かもしれないし、数日かもしれないし」あえて言葉を濁すノアさん。
まずは助けてくれたお礼を言わないといけないのに、それすら出来ずに立ち尽くしていた。
ノアさんは口端を上げ、何時ものように笑っていた。そう、笑顔だけなら何時も道りなのだが、何か違うと思うのはどうしてだろう。
「今日のノアさん、、、少し変?」
「僕はこんな感じだったじゃないか、昔からずっとね」
(そうだっけ?)
不思議なもので、そう言われるとそんな気もしてきた。
ノアさんは何時もこんな感じで私に対して優しかった。昔からずっと。
昔というのが何歳の時か分からないが、昔から。
「はぁー、それにしても君は何でこんな街灯も少ない場所を歩いているのかな?」
「えっと〜、、、」
逃げ道を探すように目を泳がせる。
「まぁ、続きは後で聞くとして、今は遅いから帰ろうか」
「で、何であんな道から帰ってきていたのかな?」
向かい合うようにして正座で座る。
「えっと、近道かと思って、、、」
「本音は?」
「中々遅くに外出なんてしないから、その、散歩がてらに、、、」
一生懸命、言葉を繋ぐとノアさんは大きなため息をついた。
「まぁ、怪我していないようで良かったけど、、、今度からは夜遅くに通らないこと!分かった?」
「はい、、、」
夜道には気を付けよう、、、。
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