第7話

ぽつぽつ、ぴちゃぴちゃ。

大人なら最悪、、、、とため息をつきそうな雨も、無邪気な子供にとっては遊び場になる。

それは勿論、傘をくるくる回しながら通学路を歩いている陽茉莉も同じだった。

「あめあめふれふれ、うれしいな〜」何処かで聞いたことのある歌を上機嫌に歌いながら、水溜まりをわざと踏む。

ぴちゃり。水が跳ねるが気にせず歩く。

お気に入りの黄色の長靴にお揃いの雨ガッパ。そして今日の主役になる大きな水玉模様がプリントされたピンク色の傘。

買い物に行った日、母にせがんで買ってもらった新しい傘がようやく使える日を、陽茉莉はどんなに待ち望んだか。

それはもう、大量のティッシュでふれふれぼうずを窓にぶら下げていたくらい、雨が降るのをまだかまだかと待っていた。

『楽しそうだね』

「うん!きつねさんもたのしい?」

『陽茉莉ちゃんが楽しいなら、僕も楽しいよ』

「そっか〜!」

赤色のランドセルに付けている狐の根付から声が聞こえる。

その根付は、陽茉莉の唯一の友達だった。


「ない、、、、ひまりのかさ、きえちゃった、、、、」

母におつかいを頼まれてスーパーに行って買い物を済ませて、傘立てに自分の傘がないのを見る陽茉莉。

何処を覗いても見付からないピンク色の傘。

半ば泣きそうになりながら出て行くお客さんに聞いても「知らないなぁ」と言われ帰って行く。

お気に入り傘がない今、あれほど待ち望んでいた雨を見てもちっとも楽しくない。

ぽつ、ぽつ。

陽茉莉の目から大粒の涙が零れ落ちた。

「泣かないで、陽茉莉ちゃん」

突然頭上から聞こえた声を聞いて見上げると、傘をさしていたのは陽茉莉にしか見ることが出来ない大切な友達。

「ひまりの、、、、かさ」

困った時に何時も助けてくれる心強い人。

「ほら、傘を持ってきたよ。陽茉莉ちゃん」

大きい手に小さい手を重ねて、二人で帰路につく。

「あめあめふれふれ、うれしいな〜!」

「あれ?そんな歌詞だったかな?」

「ひまりもわかんない!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る