第9話 欺瞞の言葉

01

 教会の夜は、早い。

 町はまだ明かりも多いが、教会の中は、既に灯りが減っている。


 ちなみに、シエルは、教会まで俺を送り届けると、本当に爆速で道なき道を帰った。

 別に心配しなくても、あの魔女にどうこうできる気がしないが、当人が気になるというなら、何も言わないのが吉というものだ。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「今日は泊ってこなかったのね」


 確かに、以前は城に泊まらせてもらったが、何度も城に泊まることは、さすがに聖女でも難しいだろうと思ったが、なんとも微妙な表情を見て、なんとなく察してしまった。

 きっと、クリミナのところに泊まる事が多かったのだろう。


 むしろ、『城に行く』というのは、クリミナに会ってくるという隠語で、ここにいる聖職者たちにとっては、いい気分ではないのだろう。

 ここに数日いるが、クリミナの影も形も感じなかった辺り、相当嫌われている。


「えぇ。少し、大司教と話したいことがあって……まだ起きてたかしら?」

「えっ……大司教様ですか?」


 大司教の名前といるであろう部屋の場所は、先程シエルに教えてもらったが、もちろん顔はわからない。

 なので、できるだけ集められる情報は集めておきたい。


 俺の質問に、少し困惑したように確認する彼女に頷けば、おずおずと思い出すように視線を逸らすと答えてくれた。


「……それなら、ハンス様がまだいらっしゃったかと」

「ありがとう」


 イザベラと教会は仲良くないというのが本当なら、その中枢である大司教ともなれば、もっと直接的にイザベラと仲良くないかもしれない。

 ……旅をしてた時は、全然仲がいいように見えたけどな。


「失礼します」


 しかし、あの魔女よりマシな対応をされるのは、事実だと思う。

 だから、こればかりは、俺ひとりでどうにかしないといけない。


「イザベラか。また、あの魔女と悪だくみをしているようだな」

「…………」


 ヤッバイ……思った以上に、あの魔女、嫌われてやがる。


 もしかして、さっき困惑されたのは、クリミナ(冒涜者)と悪だくみをした直後に、大司教に会いたいと言ったからか?

 だとしたら、イザベラが嫌われてる理由の七割が、あの魔女のせいだろ。

 三割くらいは、まぁ……イザベラも結構とんでもないことするし、自分のせいかもしれない。


「……必要であるなら、彼女を力を借りることに躊躇いなどありませんから」

「変わらないな。神を冒涜する魔女など、神の力の前では無力だというのに」


 嫌悪感を隠すつもりなどない言葉に、少しだけ腹の中が疼く。


「では、その神の力が弱まっているというなら?」

「何を言って……いや、まさか……」


 一度は眉を潜めていたが、何かを察したように目を見開いた。

 王は知らなかったが、クリミナが知っていた資料の出どころは、どうやら教会だったらしい。


 だから、やっぱり、イザベラがもう救われないことを知ってて送り出したんだ。

 そして、いつか救われると、本気で信じて、イザベラの妹のマリアーナまで、送り出そうとしていた。

 そう思えば、腹の虫は疼く。


 でも、構わないのだと変わらず微笑んでいたイザベラの顔に、瞼を閉じると、小さく頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る