02

 エシャロットとの話し合いは、予定通り、協力を取り付けることができた。


 セント・バルシャナ聖国自体、聖女や聖女候補がいることで成り立っているところがある。

 その聖女、しかも世界を救った聖女が、死ぬ事態など、協力せざる負えないところはある。


 あまり顔には、出さないようにしていたエシャロットでも、さすがに3年で死ぬと伝えた時は、動揺していたし、その後は恐ろしい位に表情が読み取りにくくなった。


「イザベラ。君の事だ。予知に偽りはないのだろう。だが、無理はしないでほしい」


 ――――でも、知ってる。その表情かおは。


 悲しみと怒りを押し殺した表情。


「…………はい。ありがとうございます」


 知ってるんだ。

 その表情に、アイツがどんな表情をするか。


*****


「クリミナ。少し残れ」


 イザベラが部屋を出た直後、エシャロットがクリミナを呼び止めた。


「私の要件は済んだが?」

「私の要件は済んでいない」


 先程までの、イザベラへ対する態度とは異なり、明らかに怒りを押し殺しているエシャロットに、イザベラも少し困惑したように振り返っていた。


「お説教、かしら?」

「ン゛ン゛……エシャロット王が、そこまで器の小さな方ではないはずだが……」

「心配しなくていい。少し、酒に付き合えと言ってるだけだ」

「…………」


 ”酒に付き合え”という言葉に、シエルがじっとエシャロットの方へ目をやれば、今度はめんどくさそうに息をついた。


「お前が心配するようなことはない。心配なら、イザベラを送り届けた後に戻ってこい」

「ふむ……では、そうさせて頂きます。灰被りの君。私の魂をひとつ、供に」


 エシャロットには礼を、クリミナへは、投げキスを残し、閉じられた扉。

 エシャロットは、クリミナに物申したそうな視線を向けるが、クリミナは投げられたキスと共に見事に無視すると、手に小さく息を吹きかけ、小瓶を現せた。


「それは?」

「夢見心地になれる魔法の薬だ」

「酒か、暗殺か、はたまた本当に魔法薬か……」


 真実も嘘も冗談も、常識が違うのなら、警戒のしようもない。

 エシャロットの前に置かれたグラスには、華やかな香りの立つ透明な液体が少量。そこへ、水差しの水を注ぎ入れれば、水の中に虹色の輝きが煌めいた。


「…………」


 見たものを虜にするような輝き。

 こんなものが世に出ていれば、話題にならないはずはなく、つまりは、ほぼ確実にクリミナ独自の魔法薬ということだろう。


 水面が揺らぐたびに、煌めく輝き。口に含めば、芳醇な花の蜜の甘い味が広がる。


「案外、あっさり飲んだな」

「お前をここに留めた時点で、毒だろうが、飲む覚悟だ」


 この魔女を、国に留めておくことに反対する意見は多い。

 その筆頭は、もちろん、教会だ。


 好奇心で、神秘を暴こうとする魔女を、教会が許すはずもなく、信心深いセント・バルシャナ聖国の国民も快く思うはずはなかった。

 それでも、城に部屋を設け、留める許可を出したのは、偏にそれだけの価値があるからだ。


「お前が持ってきた話だ。最初から、そのつもりだろうが……どこまで、聖女の健在を偽れる?」


 セント・バルシャナ聖国が、小国にも関わらず、他国から攻められないのは、唯一の聖女を信託を受けることのできるからだ。

 それだけ、聖女の力は強大なものだ。


 もし、その力が使えなくなったともなれば、この国の最も大きな交渉カードが無くなる。

 それは、外交を担っているエシャロットにとって、最も重要なことで、この魔女を国に留めている理由のひとつでもある。


「教会の連中が騒がず、外部の国からの入国を絞り、この国にいる限り、3年はなんとかなるだろう」

「方法は?」

「集団幻覚」

「…………わかった。最悪の場合、その手段を取ろう。疫病か、なにか神事で可能そうなものを探しておく」

 

 本当に、その手段をイザベラが選ぶほどに衰弱してしまったのなら、数十年の外交に響きかねないが、受け入れる他ないだろう。


「……イザベラを治す方法は」

「ない」


 この魔女ならば、もしかしたら……と、口にした言葉。

 だが、はっきりと否定され、クリミナは心底呆れたような視線で、エシャロットを見下ろした。


「旅に出た時に諦めた命だろ。今更、未練がましく縋りつくな」

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