3年間、聖女を偽ることになりました。ドッペルゲンガーです。

廿楽 亜久

第1話 偽聖女。聖国へ帰還する

01

「救済の旅を完遂された聖女イザベラ様のお帰りである!!」


 良く通る声と共に、離れていても振動が響くような音楽が始まり、色とりどりの花びらと歓声が、一斉に自分に向かって湧き上がる。


 言われた通り、笑顔で手を振り、馬車が通り過ぎるのを待つ。


 笑顔は苦手というわけではない。

 ただ、「おかえり」「ありがとう」と投げかける言葉に、少しだけ心がピリつく。


「よくぞ、お戻りになられました。イザベラ様」


 王宮の城門を越えて、ようやく歓声が小さくなれば、今度現れたのは、鎧を着こんだ騎士。


「国王がお待ちです。こちらへ」


 歓声こそないが、全身に突き刺さる視線を感じながら、騎士について、城内を歩き、待っているというエシャロット国王の元へ向かう。


「緊張されておられるのですか?」

「へ? えぇ。久しぶりだから、少し、ね」


 聖女イザベラは、瘴気が溢れた世界を救うため、世界中に存在する精霊樹を巡礼し、世界を浄化して回った。


 今まで、何人もの聖女が挑戦しては、失敗し、命を落としたそれを、聖女イザベラは達成し、世界に平和をもたらした。

 その偉業を、国を挙げて祝福し、イザベラは聖女どころか、世界の救済者として、絶対的な地位を手に入れることだろう。


「心配はいりません。イザベラ様は、世界を救われたのですから」

「たくさんの人が力を貸してくれたからよ」


 以前と同じ表情、言葉を口にすれば、騎士は嬉しそうに表情を歪めた。


「精霊樹巡礼の儀より、ただいま戻りました。エシャロット国王」


 玉座に座るエシャロット国王へ、深々と頭を下げた。


「よく戻った。聖女イザベラ」


 すると、エシャロット国王は玉座から立ち上がると、側近たちの驚きの声など気にする様子もなく、先程の自分と同じように深々と頭を下げた。


「世界を救ってもらい、感謝する」

「エシャロット国王……そんな……!!」


 国王が頭を下げるなど、少なくとも公式な場において、あってはならないことだ。

 だが、エシャロット国王は、頭を上げると、柔和な笑みを浮かべた。


「世界を救ってくれた者へ礼を尽くせぬのでは、それこそ不徳というものだ。明日からは、またしばらく面倒をかけてしまうが、今日は城でゆっくりしてほしい」

「そんな、悪いです」


 世界を救ったことを知らせるためのお披露目、国内外の聖女への感謝を伝えたいという気持ちに答える必要もあるため、今までとは異なった忙しさになることは容易に想像ができる。

 エシャロット国王の申し出は、今日くらいは、ゆっくりと休める環境を整えたいという好意に違いない。


 正直に言えば、とてもありがたい。


「そう言ってくれるな。幼い時から知っている、イザベラを見送ることしかできない不甲斐ない者が、せめてできることをと用意したのだ。受け取ってくれるとありがたい」

「……では、ありがたく頂戴いたします」


 それはズルいだろう。

 そんな言葉を言われたら、イザベラなら絶対に断れない。


「よく、無事に帰ってきてくれた。イザベラ」


 は笑顔を作ることしかできなかった。

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