12話

 

 ナーガオークから再び放たれ飛んできた水の矢が、ベルヴェールはひらりと躱して一瞬前までベルヴェールの身体があった場所を通りすぎていく。


 

「フシュルルルルゥ!」


 ――瞬ッ!!

 

 今の一撃で、ベルヴェールをどうにか出来たとは思えなかったが、ベルヴェールとしては反射で動いたのだから今更の話だろう。

 


 ――瞬


 ――シュン


 

「フシュルル!」


 

 まさか自分の一撃を、こう何度も回避されるとは思わなかったのか、ナーガオークとも呼ぶべきモンスターは驚きの行動を見せる。


 

「フシャールル!!」

 


「って、またか!?」


 

 驚きの声を上げているナーガのオーク後ろから、再び水の矢が……それも十本近く飛んでくる。


 それも、ベルヴェールに飛んできているだけで十本近く、そしてグリフォンには、その倍の数を同時に、別々の場所へと放っているのだ。

 ナーガオークにしてみれば、敵はベルヴェールだけではなくグリフォンもいる。

 いや、外見だけで判断した場合、ベルヴェールよりもグリフォンの方が強敵と認識されるだろう。

 


 ――破ッ

 ――――シュン

 ――瞬っシュンっーー!!

 ――破……破々。

 ――瞬ッ!! 

 ――破ッんパンー!!

 ――シュン

 ――破……破々……パン!!

 ――――瞬っシュンっーー!!

  

 

 それだけに、グリフォンには二十本近い水の矢が飛んでいくのをベルヴェールは視界の隅で捉えた。

 だが、当然グリフォンがそんな程度の攻撃を受ける筈もなく、その攻撃の全てを回避している。

 ベルヴェールもまた、魔剣の黒刀と双刃の槍をそれぞれ振るって自分に飛んでくる水の矢を吹き飛ばす。


 

 ――シュン

 ――破ッ――瞬ッ!!

 ――シュンっーー!!

 ――破……破々。

 ――瞬っシュンっーー!!

 ――シュン――瞬ッ!!


 

「数が多すぎだろ! 何匹いるんだ!?」


 

 最初の、ナーガオークが放ってきた”水の矢”は、だけだった。


 一人で一本だけ水の矢を放つことが出来るのなら、それこそ、ベルヴェールに十本。

 グリフォンに二十本。

 つまりのオークナーガが存在することを意味している。


 しかし、気配を察知、“”する限りでは、とてもではないがそれだけの数の敵がいるとは思えない。




(つまり、一人一本じゃなくて一人で何本も水の矢を放っている? ……改めて観察するベルヴェール。ナーガと、”メイジ”がして“水の矢”を増やし放っているのか……それなら!!)




 そう考え、ベルヴェールは魔剣の黒刀で再度放たれた水の矢を防ぎながら、双刃の槍を投擲する。


 

 ――瞬っ!!!!

 吹!! ーーシュンっーー


 

 ――破ッんパンー!!

 ――瞬ッ!!

 ……パン!!

 シュンっーー!

 ……!――シュン

 ――破……破々……パン!!

 ――瞬っシュン……シュン

 ――破ッ――シュン

 ――破……破々。


 

 ――驚っ!! 怒轟ーードーーン怒怒怒……

 怒轟ッドーーン!!

 


 万全の状況ではなく、右手の魔術も使用中の“赤い”魔剣の黒刀を振り回しながらの投擲だ。

 当然のようにその威力は通常の投擲よりも落ちてはいるが…… 


中々、ナーガナーガと、いい戦いってか?? ……とッ!!」

 ベルヴェールのダジャレ?? ……違い無くゼロツーとの融合の影響だろう。


 

 ――瞬っ!!ー吹ッ 驚轟ーー!!

 ――ドーーンーー!! 

 ――怒轟ー! ッ……!



 連鎖していく“”の暴力的な小爆発。

 “雷”、“火”、“爆発”の連鎖と“重力加算”のスペクトラム、双刃の槍は再びベルヴェールの左手に戻り。

 再び投げ続ける。

 右手では、黒刀で“水の矢”を捌き。

 左手てでは投擲を……まるで戦場の指揮者だ。



「フシャアッ!!!! …………」



 先頭にいたオークナーガの胴体を貫くには十分なだけの威力を持っていた。


 それどころか、オークナーガの身体を貫いた””は威力を弱めることなく、その奥にいる別のオークメイジ、アーチャーの身体も複数貫き、ベルヴェールの耳には悲鳴が伝わってくる。



「ブブオゥゥゥ……」

「……ブモォッブヒブヒ」

「フシャアッ…………」



『ブオゥゥゥオオオッー!!』



 (オーク、あごめんじメイジ) 

 ベルヴェール間違いない融合でのゼロツーの影響を受けている……何故なら、しょうもないからだ。


 

【けして作者の趣味ではない!! 断じてだ!!】

 


 ……

 ベルヴェールは、グリフォンと特殊個体の、オーク達との戦いで“”したオーク達なら、まだしも、“”オーク達の、事が心のどこかで引っかていた。

 それは、恐らくだが、回復魔術を使う個体が居るのをこの目で見たからである。

 だが、今はとにかく“”で、ナーガオークやメイジ、アーチャーを貫き、一時的に攻撃が弱まったところで、ベルヴェールは再び双刃の槍を手元に戻し……次の瞬間、一気に上空から垂直下に降下しながら前に出る。


 当然だがベルヴェールの一撃はグリフォン含めて、向かって攻撃していた後衛のオーク達に対してもダメージを与えている。

 ナーガオークに関しては、アーチャーと、メイジオークの後衛組のが倒れた今や、遊撃の手も止んでいた。


 そんな状況でベルヴェールが前に出たのだから、グリフォンもまた攻撃の回避に専念するようなでは無く攻撃に転じる。



「グルルルルルルルゥ!」



「はあああああああああ!!」



 グリフォンが大きく鳴くと同時に、グリフォンに向かって氷の矢が二十本生み出される。



 

 ベルヴェールは突然の事で一瞬動きが止まる。


 

 (は!? ……氷?? どういう事だ? メイジ、アーチャー、ナーガは、しとめ……でも、ケルピー……もしくは、回復役”仮称”は水属性か光の属性魔物だし、水属性なら氷も使えたりするのか?? ……)



 一方。

  


 オーク達が氷の矢を放ってくるのなら、グリフォンはアースニードルという土の槍で反撃する。


 ベルヴェールが敵に突っ込んでいくのなら、グリフォンは先の言葉を思い出し自分は後方から援護。

 特に打ち合わせをした訳ではないが、ベルヴェールとグリフォンはこの状況で一番期待された行動を行う。


 【ポジションチェンジ】

 ……当初考えていた配置になる。

 “前衛”ベルヴェール。

 “後衛”グリフォン。 

 ベルヴェールが考えた陣を予定通りここで、初めて行う事になる。


 

 ベルヴェールとグリフォン、そして特殊個体、率いるオーク達との””の戦い。

 ベルヴェールとグリフォンは、“アラウネ女王クイーン”と“ジェネラル”を狙う。

 “アーチャー”と“メイジ”何より“ナーガオーク”、相手の事が、今後に生きるだろう。

 


 だがしかし……

 まだ、姿がわからぬ“指揮個体”や“回復役”、そして、恐らく“氷オークの他に、特殊個体のオークを手探りで探して居た。

 他にも……

 やキングと気が抜けない。



 そして”グリフォン”と、”オーク達”を開始してから既には経っている。 

 だというのに、まだまだ”これから”とオーク達、グリフォンの威嚇の声が、聞こえる。 

 

 

『フブオオオッー!!』『ブオオオゥゥゥグァ』



「ルルルルルルルゥ」


 

 ベルヴェールも、先程のグリフォンと同様に敵に突っ込んでもよかったのだが、ここは魔巣窟の森の中。


 木と木の間が結構な距離があるとはいえ、それでも体長は五、六mを越えるグリフォンが長柄の武器と、剣を持ったベルヴェールと一緒に暴れるとなると、少し、いやかなり手狭で狭い。



 ベルヴェールを思う。

 共に存分戦わせたいと思っだが、グリフォンは現状を把握し後方からの援護に回ったのだろう。

 それに“。”

 

 ただし、後方からの援護だとはいえ、それはグリフォンに攻撃力がないということを意味しない。

 放たれた二十本の氷の矢は、ベルヴェールとグリフォンは上手く躱し、手負いのオークナーガの身体に次々と突き刺さる。


「ふしゃぁっ!」

  


「っ何!?」

「……グっ?? グルルルウゥ」




 自分に向かって飛んできた”氷の矢”に対して、ナーガオークは断末魔でと呼べる声を出して“氷の矢”に対し、メイジオークと協力して三十本近い“水の矢”を放つ。

 ナーガオークが””という魔法、スキルを使うのは知っていたが、それでもこの状況で攻撃してくるとは思わなかったのだ。


 何しろ現在、地表に降り立ったベルヴェールとグリフォンはオークナーガの集団の中にいる。

 この状況で攻撃をすれば、当然だが同士討ちになる可能性があった。

 実際、ベルヴェールとグリフォンが回避した”水の矢”と”氷の矢”は少し離れた場所にいる後方のオークナーガにも突き刺さり、悲鳴を上げていた。



『フブオオオッー……』

 


(仲間諸共!?)



 こうして集団で活動していることから、社会性を持っているのモンスターなのは確実だろう。 

 それだけに、仲間に攻撃が命中してもいいからベルヴェールとグリフォンに向かって攻撃をしてくるといったような真似をするというのは、ベルヴェールにとっても完全に予想外だった。


 とはいえ、そのような行動を取るとは思わなかったので驚いただけで、そのような行動をしてくるのであれば、ベルヴェールとしては相応の行動をすればいいだけなのだが。


 氷の矢が命中して悲鳴を上げたオークナーガの胴体を、ベルヴェールは素早く間合いを詰めて、魔剣の黒刀で一閃する。


 ――斬!!

 (まずは

 

 そのすぐ隣にいた別のオークメイジの首を、そのまま、双刃の槍の遠心力でで薙ぎ払い。


 ――散……斬ーー……

 (そして……)

 

 最後に、一番後方にいたアーチャーの心臓、魔石部分を完全に、”双刃の槍“”で突き刺す。


 ――砕者っ貫!! 砕……

 (


 後者の一撃は、まさに致命傷と呼ぶに相応しいダメージを与え……それどころか貫かれたことにより、首の骨や肉が砕かれて首は周囲にこぼれ落ちる。



 ――落、ボトッ……と、上方に一閃し、肩を切り開き、アーチャーオークの首が落ちるのだった。




 だが……


 ――轟!!



「……………………グガア!!」

「…………はっ!?!?」


 続いて放たれたのは、鋭い斬撃ではなく強力な一撃を放つスキル。

 それも”ベルヴェールが放ったのではなく”、が、“”に対して放った一撃。


「グギャア!」


 

 (は!?)

 一瞬の事で、たじろぐベルヴェールと、痛みに対して苦悶の、声と表情のグリフォン。

 当たりまえだ。

 グリフォンに””。

 それは……

 “”だったのだから……

 


「………………」

 

 

 ベルヴェールは改めて考え……いや。

 もはや見て分かる。

 胴体を切断して“死んだ”と思った。

 オークのが、放った一撃だった。

 


 (……氷も使えるのかよ)


 

 ナーガは一閃で切ったのが悪かったのか自身の水魔法を使って身体を繋げた様子。

 だが他の二匹アーチャー、メイジは無事に命を狩り取れたようだ。

 

 

 そして、””が、だろう、ひときわ目立つなんてもんじゃない。

 むしろ、逆だオークに気がつく。

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