死んでしまうとは情けないと言われても困ります
うをの目 そば太郎
第1話 プロローグ 初めての来世
意識が覚醒した。
ひどい二日酔いをしたかのように体がだるく、何とか状況判断しようとするが頭がうまく回らない。
最初の感じた違和感は、重力が弱い事だ。
プールの中で浮いているような浮遊感がある。
周りを見渡すが壁がなく、無限に広がる白い空間の中にいる。
どこだここは、まだ夢の中なのか?
夢の割りに妙にリアルだな。
壁とか隔てるもの何もない不思議な空間だ。
左右だけでなく、上を見ても、下を見ても何もない白い空間が広がる。
地面すらないので、どちらが上でどちらが下だかわからない。
俺の前にはいくつもの光の玉が並んでいる。
球は大きさ、色、揺れ方など様々だ。
光の列は意匠がこっている大きな門の所まで続き、一定の時間がたつと少しだけ門の方へ進む。
ははん、これはあれだなここは夢の世界じゃないな。
死んだ後、魂になって最後の審判的を受ける奴だな。
その列にどうやら俺も並んでいるようだ。
鏡もないので断言できないが俺もあの光の球、つまり魂だけとなっているのか。
そっか、俺は死んでしまったのか。
この後、天国か地獄に行くのかな。
弱ったな、前世でちゃんと善行を積んでいたのだろうか。
よほどひどい死に方でもしたのか、全く記憶がないな。
物理的にもない頭を振り絞って思い出すと、僅かにスーツを着て誰かに話しかけている映像が頭の中に出てきた。
普通のサラリーマンなのかな?
我が事ながら、思い出した映像がなんかどれもうさくさいな。
どれも多くの人達の前で、何かを語っている。
なんか詐欺とか、怪しげな投資セミナーにも見えてきた。
頼むぞ、信じているぞ、前世の俺。
馬鹿な事を考えていると並んでいた列が少しずつ進み、いつの間にか門が目の前までやってきた。
「次の方どうぞ」
緊張していると門の奥から中年の声がしてきた。
「失礼します」
恐る恐る、門のなかに入るとどこかの会議室のような場所だった。
パイプ椅子と少し離れた所に折りたたみの安い机が置かれており、机の上は資料がばっさり散らばっている。
なんか、面接会場みたいだな。
机の上にある一昔以上前の古いブラウン管のパソコンをいじっている、おっさんがいた。
おっさんはくたびれたスーツに、ろくに寝られていない疲れ切った顔、まさにブラック会社に勤めている社畜のようだ。
「ああー新人か、では失礼。
死んでしまうとは情けない、次の生を選びなさい」
「はぁ?」
低いテンションで、やる気なさそうにわけのわからない事を言っている。
「先代が決めたルールで、これを言わないといけないんだ」
男はうんざりとした、表情をしながら近づいてきた。
「そうなんですか?」
「先代はのりが軽かったからな、本当に勢いでルールを作らないで欲しい。
愚痴ったな。
早速だけれど時間もないし、次の生を選びな」
そう言ってなにやら、タブレット的な黒い板を手渡される。
「あなたは閻魔様なのですか?」
うだつが上がらなそうなおじさんだが、この人が俺を天国行きにするのか、地獄行きにするのか決める閻魔様なのだろうか。
「閻魔?
まぁ似たようなものか。
ある意味閻魔でもあるし、神様でもラスボスでもなんでもいいけれど、あえて言うなら邪神だ」
「邪神?」
このくたびれた安っぽいスーツを着ている人が邪神?
「まぁ好きに質問してもいいけど、後20秒ぐらいしかいよ」
「え、何がですか?」
邪神のおっさんが、タブレットを見るように指さしている。
『ポイント 0
転生先 スライム 0』
ポイントは0、転生先にはスライムの表記しかなかった。
「はい、時間切れ。
まぁ最初だし選ぶも何も無いからな」
邪神のおっさんが呟くと視界が急に暗くなり、意識がなくなった。
再び意識が覚醒する。
あのおっさんがいた会議室でも、何もない白い空間ではなく、今度は青い空に地面がちゃんとある。
ただ先程までと違って、重力を全身で感じている。
地面にへばりついているみたいだ。
どうにか体を動かそうにもうまくいない。
足とか腕の感覚がなく、今までどう動かしていたのか思い出せない。
そう言えば次の生を選べとかおっさんが言っていたが、まさか本当にスライムに転生したのか?
かろうじて動かせる体を見ると、皮膚がない青緑色の粘液物になっている。
まじか、異世界に転生できたんだ。
そしてゲーム序盤にでてくるお馴染みのスライムになったのか。
ライトノベル定番、最弱のスライムからの成り上がりが始まるのか!
なんかそう思うと、急にやる気がでてきたな。
よし我が覇道の為に、まず何から始めようか。
再度物理的にもない頭を絞っていると、地面から震動が伝わってくる。
なんだ、地震か?
何かが近づいている?
そう思っていると視界が影で覆われた
そして気がつくと、また白い空間であの光の球の列に並んでいる。
え、また死んじゃったの?
嘘でしょ。
俺の覇道はもう終わり?
「次の方どうぞ」
動揺しているといつのまにか列の最前列の方に並んで、門の中からおっさんの声が聞こえた。
「死んでしまうとは情けない、次の生を選びなさい」
そう邪神のおっさんが、疲れ切った顔で再度宣言してきた。
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