終末からの再戦世界

如月 梓

第1話

「あ、ありえん…。魔王軍四天王の一人たるこの儂がこんな人間の小僧に負けるだと…」


羊の頭部に大柄な体躯、背中には蝙蝠のような羽を持ったいかにもな、悪魔が全身から血を流しながら倒れこむ。


周辺のなぎ倒された木々や、えぐれた地面が戦闘の激しさを物語っていた。


「これで終わりだ、お前が今までに殺してきた人々に死んで詫びろ!」


黄金に輝く剣を振り上げた青年が悪魔を見下ろしている。


戦闘は今まさに終わりを迎えようとしていた。


「クハハハハ、所詮儂は四天王最弱。儂を倒したとて、残る三人の四天王がいずれ貴様らを殺すだろう。地獄のそこで楽しみしておるぞ勇者…」


悪魔の最後の捨て台詞を聞きながら、青年が剣を振り下ろす。


その一撃がとどめとなり、大柄な悪魔の目は光を失った。


「やりましたね、アレックス。ようやく四天王の一人を倒せました。」


シスター服を着た少女が青年へと駆け寄る。


その顔は戦いの疲労を残しながらも喜びに満ちていた。


「これで四天王最弱かよ、やってらんねぇぜ。」 


「でも、私達なら戦えるってわかったわ。」


大きな盾を持った戦士の青年と、魔法使いの少女がアレックスと呼ばれた青年の背後に座り込む。


二人の顔にも疲労が浮かんでいたが、それ以上にどこか誇らしげな様子だった。


「ああ、俺たちの力は四天王にも届いた!この調子で旅を続けていけばいつか必ず魔王にだって僕たちの力は届くはずだ!」


アレックスの言葉に戦士は肩をすくめた。


「まあ、まだ一人目だけどな。」


「はは、たしかにそうだな。まだまだ、俺たちの戦いはこれからだ。」


その時だった。


アレックスがその言葉を言った次の瞬間、唐突に青年の目の前の景色が歪み始める。


「あれ…、これは一体的…」


疲れが出たのだろうかと目をこするが、故障したテレビのように歪みはひどくなっていく。


何が起こっているんだと顔を上げ、仲間たちを見ると彼らも同じように目をこすったり瞬きを繰り返したりしている。


どうやらこのように見えているのは自分だけではないらしい。


魔法使いの少女が焦ったように何かを騒いでいる。


「asdfghjkl;zxcnmv,b.qweerityop@」


彼女の紡ぐ言葉が意味を持たない文字の羅列となって世界を流れていく。


「は?一体何がどうなって…」


更に世界の歪みはひどくなっていく。


目に映る映像は途切れ途切れになり砂嵐のような音が響き渡る。


目に映る世界が、視界の端から粒子のように崩壊し空へと消えていく。


つい先程倒した四天王であった怪物の死体も粒子となって崩壊し、空気中へと溶けるように消える。


「なんなんだよ…これ…」


何が起こっているのかもわからないまま、世界はどんどんと崩壊していく。


そして、世界だけでなく仲間たちの体すらも指の先から光の粒子となり始めた。


仲間たちは必死になって何かを訴えかけているがその言葉は雑音のように意味を持たず、アレックスには届かない。


仲間たちは最後までアレックスに叫び続けたが、何一つ届かないまま、光の粒子となって崩壊した。


待ってくれと仲間に伸ばした腕までも光の粒子となり始める。


「待ってくれよ…、何なんだよこれは…」


突然訪れた終わりに、呆然と嘆くことしかできない。


しかし、いくら嘆こうと世界の崩壊は止まらない。


アレックスは何が起こったのかもわからないまま、世界の消滅とともに光の粒子となって溶けていった。



◇◇◇



暗闇の中アレックスが目を覚ます。


アレックスの目の前の空中には、一つの文章が表示されていた。


『世界「聖剣の勇者の冒険」は打ち切られ終了いたしました。

お疲れさまでした勇者アレックス。あなたの次の旅に幸多からんことを。』


「は?」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る