第9話

「帰んの?」


「それ以外ないし。それより手、離して」


「離したら逃げるだろ」



ジリジリと太陽が照りつける中、有川が私をまっすぐ見下ろし言う。


有川が背後に背負う太陽が眩しすぎて直視できないけど、有川の顔が一ミリも笑っていないことはわかる。


さっきまで大笑いしてたくせに。



「栗原、これだけは約束しろよ」



約束……。


その言葉に胸がズキッとするのを感じながら、下唇をギュッと噛む。



「休部するのはわかった。でも、辞めるなよ」


「……」


「そんだけ。呼び止めて悪かった」



じゃあな、と言って有川は私の手を離すと軽快な足取りで行ってしまった。


部活に行かなくなってほんの数週間なのに、あの背中がすでに懐かしい。



有川とは種目が同じなこともあり、お互いアドバイスをしながら切磋琢磨してきた。タイムが伸びなかったり落ち込んだ時は励まし合ったこともあった。


だからいきなりなんの相談もなく休部届なんて出したら怒るのも無理はないと思う。逆だったら私も同じ行動をとっていただろう。


だけど私は決めたんだ。もう陸上をすることも、守れない約束をすることもやめるんだと。

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