第8話

「あ、噂をすれば有川」



栞奈が指差した先には、体育館の前で友達四人とじゃれ合う有川の姿。相変わらずみんなの中心で、クラスでもムードメーカーな彼は、さっき私に見せた顔とは打って変わって楽しげに笑っている。


今までだったら自分から話しかけて、一緒に部室まで行く流れだ。


だけどさっきの件もあるし、できればここは気づかれず帰りたい。どうか見つかりませんようにと、祈りながら急ぎ足で前を通り過ぎようとした時。



「栗原」



祈りも虚しく、通りすがりざまに呼び止められた。しかも予想外なことに、腕まで掴まれてしまい逃げるに逃げられず観念して足を止める。



「あのさ、栗原……」


「ごめん。栞奈、先行ってて」



さっきの続きだと咄嗟に判断し、言いかけた有川を遮るように栞奈に声をかける。こんなところで暴露されては困る。



「うん、わかった。喧嘩もほどほどにね」



それをどう受けとったのか、栞奈はニヤニヤとしながら駆けていく。しかも有川の友達まで茶化すように「ごゆっくりー」なんて言いながら散り散りバラバラ消えていく。


きっとみんないたらないことを想像しているんだろう。でも、有川をそんな風に見たことはない。むしろ今は鬱陶しいくて仕方ない。

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