第19話償いと誓い


目を覚ますと、一番初めに知らない天井が目に入りました。

なぜこのような所にいるのか分からず、上体を起こし、周りを見ると、白い壁に覆われた小部屋の中のようです……


部屋を観察していると、壁がスッーと溶け出し、

見覚えのある街並みが広がりました。

ゲームオーバーになると、街の教会に飛ばされるみたいですね……

茫然と景色を眺めていると、私を呼ぶ声が聞こえました。


「お嬢様?」


まるでゲームに来た時の巻き戻しみたいですね……

そう思いながら、ダンジョン内の出来事への感謝と謝罪を伝えようとすると、

先にユキナが沈鬱そうな表情で口を開きました。


「お嬢様もゲームオーバーになってしまわれたのですね……

最後までお守りすることが出来ず、申し訳ございません。」


私がユキナに謝ろうとした矢先に、ユキナから先に謝罪され、さらに土下座までされました……

しかも、公衆の面前で行っている為、非常に注目を浴びています。


「ち、ちょっと、ユキナ。頭を上げて下さい!」


「ユキナは私を庇いゲームオーバーになっただけなので、全く悪くありません。」

「私の方こそ未熟でごめんなさい」


お互いに謝罪をしていると、横から呆れた声が聞こえました。


「あのー、2人共、謝罪は良いけど場所を移しましょうか……」


ユーピョンさんの呆れた表情が心に刺さります……


「この2人はいつもこんな感じだから。

少し慣れ過ぎて、ツッコミが遅れたわ……」


フィルちゃんはなぜか悔しそうに言ってますが、私達はコントをしてる訳ではありませんからね……


「とりあえず、この前のカフェに移動するで。

視線が痛い……」


師匠のもっともな一言で、街の往来で騒いでしまった事で、凄く注目を浴びていることを思い出しました……

私達は逃げるように、前に師匠と来たカフェへ移動しました。


「やっと落ち着けるな……」

「何も注文せんで居座るのはアカンから、とりあえず好きなもん頼み」


「その言い方は奢ってくれるの?」


「当たり前やろ」


「ダメです! いつも師匠に出していただいてるので、

今回は師匠の分も私が支払います!」


「気にせんでええよ。

前にも言ったやろ、可愛い女の子に奢るのは男の甲斐性やって」


「でも……」


「本人もそう言ってるし、ご馳走になりましょうよ。

フェリシアちゃん、あまり断ると逆に失礼になるわよ」

「それにね、フェリシアちゃんにみたいに可愛い子に貢げてパンダ君も幸せなはずよ」


「えぇ!?……そんな事はないとは思いますが……」


「フェリシアちゃん、ユーピョンさんの言うことはそこまで間違ってないから、あまり気にせんで好きに頼んで」


「……分かりました。師匠、ありがとうございます。

ご馳走になりますね」


少しでも師匠に恩を返そうと思っていましたが、

師匠とユーピョンさんに押しきられ、

またご馳走になってしまいそうです……


話が纏まり、師匠が店員さんを呼ぶために手を上げます。

すぐに店員さんが来られて、各々好きなものを注文していきます。


「俺はコーヒーとチーズタルトで」


「私は緑茶とパウンドケーキにするわ」


「私は……前にも思いましたが、ここのメニューはどれも美味しそうで迷ってしまいます……

決めました! こちらのレモンティーと師匠と同じチーズタルトにします!」


「では、私もお嬢様と全く同じものをお願い致します」


「そうね、私はアールグレイとこちらのミルフィーユ、それとモンブランとチーズタルトでお願い」


「ちょっ…!? ケーキ3つも食べるんかいな!?」


「なに? ダメなの?」


「いや、アカン事はないけど……」


「だってゲーム内でいくら食べても太らないもの。

それだったら沢山食べたいじゃない!」


「さ、左様で……

フェリシアちゃんとかはケーキ1つで大丈夫なん?」


「ここで食べ過ぎちゃいますと、夕食が食べれなくなりそうで……

そうなると、家のシェフが悲しんでしまいますから……」


「…家にシェフがおるんか……ホンマにお嬢様やねんな……」





暫くすると、ケーキとお茶が運ばれてきて、チーズタルトの光沢がなんとも美味しそうです。


「そう言えばフィルちゃん、緑茶があって良かったですね!」


「そうね。現実世界のカフェだと茶葉の管理の問題で専門店以外置いてないものね」


「ゲーム内ならではですね!」






他愛もない話をしながら、チーズタルトを半分ほど食べ終わったタイミングで、

師匠が先ほどのダンジョンでの振り返りについて話し始めました。

ちなみにユーピョンさんは既にケーキを2つ完食していました……


「そろそろ、先のダンジョンの振り返りでもしようか」

「始めに言っておくけど、全滅したのは誰の責任でもないで。

スケルトンエクスキューショナーは災害みたいなもんや」


「はい!」


「どうしたフェリシアちゃん?」


「師匠は誰のせいでもないと仰ってくれましたが、

今回は私のミスが大きいと思います!」


「続けてみ」


「今回私の大きなミスは3つあると思います。

1つ目はユキナの腕が切り落とされた時に、思わず反撃しようと足を止めてしまい、逃げるのが遅くなった事です。

2つ目はサーチを怠って、アサシンの接近に気付けず、

ユーピョンさんがやられてしまった事です。

3つ目はユーピョンさんがやられて仇を討とうとした私を庇い、ユキナがやられた事です。」


「パーティーリーダーなのに、皆さんの足を引っ張ってしまい本当に申し訳ございません。」


「よし、今のフェリシアちゃんの話を聞いて、反論していこうか」


「えっ……反論でしょうか?」


「せや。今回俺は部外者みたいなもんやし、

君ら3人がフェリシアちゃんの懺悔を否定したって」


「では私から言わせて頂きます。

私がやられたのは、全て私の能力が足りてなかったせいです。

お嬢様の責任は一切ございません。

今後も精進致しますので側に置いていただけないでしょうか?」


「もちろんです! 私も頑張りますので一緒に強くなりましょう」


「では、私がやられた件は、全て私の責任という事でよろしいですね」


「強引過ぎます! 私の……「それと、」えっ…?」

「前々から申し上げていますが、お嬢様は優しすぎます。

自身が傷付いても何も思わないくせに、大切な人が傷付くと、すぐにカッとなる癖は玉に瑕ですが……」

「優しさはお嬢様の良いところではありますが、もう少し抑えて頂けるとこちらとしても助かります」

「それと…………………………………………………」


私が反論しようとすると、それを許さないとばかりにユキナが畳み掛けてきます……

そにしてもここぞとばかりに説教してくるのは、止めてほしいです……


「……………………………………………ちゃんと聞いていますか?お嬢様!」


「き、聞いています……」


「まあ良いでしょう。私からは以上です。」


「なんか反論と言うよりはお説教やったな……

フェリシアちゃんのHPが尽きかけてるけど、

次ユーピョンさんいこうか」


「私からは1つだけ。あの全力で逃げてる場面でサーチ使える人がいたら、ソイツこそバケモンよ!

だから私はフェリシアちゃんが悪いなんて、1ミクロンも思ってないわ」


「ですが……」


「フェリシアちゃん。またユキナさんのお説教聞きたい?

あれは事故よ、悪い人なんていないわ。」

「私からは以上ね」


「最後にフィルちゃん、何かあるか?」


「シアとは付き合いも一番長いし、言いたい事はないわね。

ただ1つだけ、ユキナさんが言ってた通り、いい加減身内に何かあったら熱くなるのはやめなさい。

幸いゲーム内で私達が傷付いても問題ないし、傷ついた仲間を見ても平常心を保てるように特訓ね」

「あなたが今回の事で責任を感じてるのであれば、出来るわよね?」


「はい……」

「でも、私は誰一人傷付いてほしくありません!」


「無理ね」

「お嬢様。それは無理です」


「やってみなければ、分からないじゃないですか!」


「フェリシアちゃん。傷付いて欲しくないって事はダメージを一切受けないって事と同じよ。

それが出来るのであれば、ヒーラーって必要ないでしょ?」


「あっ……」


「仲間が傷付かない事は出来ないけど、傷付いた仲間を癒す事は出来るのよ。

それに、死んでしまっても蘇生出来るスキルがあるから、

パーティーが全滅しない限り、まだ終わりじゃないの」

「フェリシアちゃんはヒーラーでしょ? 

傷付いて欲しくない気持ちは分かるけど、傷付いた仲間を癒せるように頑張りなさい」


「ユーピョンさんありがとうございます。

今後の目標が出来ました!」


「どんな目標なの?」


「私は絶対にパーティーを全滅させない事を誓います!」


「良い目標ね。応援してるわ」




それから私達はスケルトンエクスキューショナーに出会った不運を嘆いたり、お互いを褒め合ったり、時には反省したりしました……





「じゃあ、次は今後の話をしようか」


「強くなりたいです!」


「そうやろな、じゃあ強くなる為にやるべき事が、大きく分けると4つあるねんけど何か分かるか?」


「ロールの熟練度を上げます!」


「正解や、他は?」


「スキルを取ることね」


「それも正解。あとは?」


「装備かしら。だって私達、装備を半分も着けてないじゃない」


「正解。あとはプレイヤースキルを上げる事やけど、これは一旦置いて、一番手っ取り早く強くなれるのはどれやと思う?」


「装備を整える事でしょうか?」


「じゃあ装備を整えるには、何をしないとアカンか分かるよな?」


「ルピ稼ぎね」


「そうや。だから明日からルピ稼ぎにラピス岳に行くで!」


「明日では遅いです! 今から行きましょう!」


「意気込みは買うけど、今日はガッツリダンジョンに籠ってたから疲れてるやろ?

それに、後1時間近くデスペナ残ってるやろうし……」


「デスペナですか……?」


「シア。デスペナルティの事よ」

「HPがゼロになると、最後に立ち寄った街の教会で復活するのだけど、その時に2時間全ステータス半減のペナルティを受けるのよ」


「そうなんですね……」


「明日は何時に集合するの? 私は日曜日で仕事ないからいつでもOKよ」


「私は午前中に用事があるので、午後からなら大丈夫よ」


「私も午前中は薙刀の稽古で難しいですが、午後からだと大丈夫です!」


「私の予定はお嬢様と一緒です。」


「じゃあ14時からにしようか!」


皆が待ち合わせの時間に首肯していると、師匠は今思い出したかのように、楽しい顔で伝えてきます。


「そうそう、明後日の午前中に大型アップデートがあるみたいやな」


「大型アップデートですか……?」


「アップデートで、新しいロールやスキルが増えたり、マップの拡張がありそうやわ。

まあ、何と言ってもハーフアニバーサリー関連のイベントが一番気になるところやで」


「イベントですか……どんな内容なのでしょうか…?」


「こればっかりはアップデート後じゃないと分からんな……」

「じゃあそろそろ解散するか」


「では本日はこれでお暇させて頂きます。」

「また明日ね」





こうして私のゲーム2日目が終わるのでした……













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