不香の花
北畠 逢希
プロローグ
僕は知らなかった。
いや、知らないままでいようと、気づかないふりをしていたのかもしれない。
春のように温かいぬくもりに包まれたあの日から、ある気持ちが僕の中に生まれていたことに。
それは君という存在そのものに対して抱いていた。
必要性や価値を超えた、特別なこだわりだ。
人はそれを、何と呼ぶのだろうか。
僕はその答えを知りたいと思わない。
永遠に解かないと、ここに誓う。
【I hope you will be happy forever】
/『馬酔木が僕をなき者にする』
◆
あの日は、生まれてから16度目に迎えたクリスマスの夜だった。
お気に入りのワンピースに身を包み、大好きな人と手を繋ぎながら、幸せなクリスマスを過ごしていたのだ。
いや、過ごすはずだった。
『―――いいかい。俺が合図を出したら、きみは走って逃げるんだ』
『嫌っ…!足手まといになるのは分かっているけれど、離れたくない…!!』
幸せな時間を壊したのは、突然に現れた殺人鬼。
連続殺人犯であり、行方をくらましていた、ある男。
一緒に走って、人通りの多いところに行けば、大丈夫。
あの日、私はそう言って、手を引いたのだけれど―――
『―――柚羽。きみは、誰の女?』
『っ…』
何を今さら、そんなことを。
そんなこと、分かり切っているじゃない。
私は、あなたの――――
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