不香の花

北畠 逢希

プロローグ

僕は知らなかった。

いや、知らないままでいようと、気づかないふりをしていたのかもしれない。


春のように温かいぬくもりに包まれたあの日から、ある気持ちが僕の中に生まれていたことに。


それは君という存在そのものに対して抱いていた。

必要性や価値を超えた、特別なこだわりだ。

人はそれを、何と呼ぶのだろうか。


僕はその答えを知りたいと思わない。

永遠に解かないと、ここに誓う。


【I hope you will be happy forever】


/『馬酔木が僕をなき者にする』




あの日は、生まれてから16度目に迎えたクリスマスの夜だった。


お気に入りのワンピースに身を包み、大好きな人と手を繋ぎながら、幸せなクリスマスを過ごしていたのだ。

いや、過ごすはずだった。


『―――いいかい。俺が合図を出したら、きみは走って逃げるんだ』


『嫌っ…!足手まといになるのは分かっているけれど、離れたくない…!!』


幸せな時間を壊したのは、突然に現れた殺人鬼。


連続殺人犯であり、行方をくらましていた、ある男。


一緒に走って、人通りの多いところに行けば、大丈夫。


あの日、私はそう言って、手を引いたのだけれど―――


『―――柚羽。きみは、誰の女?』


『っ…』


何を今さら、そんなことを。

そんなこと、分かり切っているじゃない。


私は、あなたの――――

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