魔法と異能力のファンタジー世界で復讐の旅を始めたら、最初の森で仲間になった相手が復讐相手だったけどそのまま旅を続けました。

山下 勝也

第1話プロローグ


世界は突然狂ってしまった。

真っ暗な村に突如として眩いばかりの光と耳を劈くような怨嗟の声が村中に響き渡った。



数時間前はそんなことが起こるとは知るよしも無く、無邪気で天真爛漫な一人娘のナターシャという女の子が茅葺屋根の家に4人家族で住んで居た。


「おばぁちゃん、お母さんがご飯できたって!早く行こ!」


祖母は「そうかい」と頷くとこれは直ぐに動かないと思い。「ご飯冷めちゃうよ・・・。あのね、今日の晩御飯は私も手伝ったんだよ!」と大切なことを伝えた。

すると笑顔になり「そうなのかい!、ナターシャちゃんがお手伝いしたなら急がないとねぇ」と小さな手を掴みながら食卓へと向かった。祖母の部屋を出てすぐ奥の暖簾をくぐるとそこが居間になっている。



そこには母と父が待って居た。

2人は急いで席に座ると父が笑顔で両手を元気よく振りながら場の空気を盛り上げた。


「それじゃあみんな揃ったところで、結婚記念日を祝して僕と妻とナターシャの3人で食事を用意したんだ!!」


不器用ながらその場の空気を盛り上げ、叔母にも楽しんでもらおうと作り笑いを浮かべながら、父が頑張っているそぶりを見せると母がすぐに娘の頑張りアピールをした。


「ほら見てください!、このホタテのバターソテー、ナターシャと2人で調理したんです!」母は自慢げに料理を紹介した。するとナターシャは空腹でヨダレを流しながら叔母を見つめていた叔母はそんな姿を見て愛おしく思い食事の前の合唱を始めた。

「それじゃみんな手を合わせて」


私達は食卓で手を合わせ神に祈りを捧げた。

「神に祈りを。生物に感謝を。そしてуби́йство [ウビーイストヴァ]国王様に感謝を込めて、頂きます!」





楽しい結婚記念日パーティーはあっと言う間に時間がたち、まだ5歳のナターシャは口の周りに様々なソースを付着させて眠たくり、スプーンを握りながらこくりこくりと首をゆっくり振っていた。


父はそんな様子を見てナターシャを抱き抱え寝室のベッドまで運んだ。

すると祖母も席から立ち上がり部屋へと戻って行った。



ナターシャを寝かしつけ、父と母はラジオを聴きながらお酒を嗜んだ。母は、お酒で気が緩み父に相談をした。


「どうしたら、お義母さんと仲良くなれるかしら」


母は祖母とあまり仲良くないことに悩みを抱えていた。


「大丈夫だよ。ナターシャにはあんなに心を許してくれてるんだ。それに母さんは感情を見せるのが苦手なんだよ」と話しながらお酒を飲んでいた。

突然放送が切り替わり、ラジオから悲報を聞かされる

「私はウビーイストヴァ王国国王サムイル・フォン・ウスペンスキーだ。今日はとても天気がいい。雲ひとつなく星が綺麗に見えている。だから私は今決めたのだ。我が国に属している村人は全て殺す。以上だ。」


ラジオの音声がぶつりと止み、ザーザーと言う音が部屋中に鳴り響いた。父は口を開けて焦りながらも提案をする。

「ナターシャを起こそう早く逃げないと」

「無理よ!お義母さんもいるのよ?逃げ切れるわけないわ」

「でも、早くしないと・・・。」


話合いをしていると窓から真っ白な光が差し込み一瞬にして全てを飲み込んだ。そして大きな音と共に地響きが村中を襲った。


運の良いことにナターシャの家は爆音がした位置より離れていたので少しの猶予があった。父はいつもは見せないような真面目な顔を浮かべた。「恐らく国王の異能力部隊だろ、この距離なら直に家まで来てしまう。」母は混乱のあまりテーブルの上で頭を抱えるしかなかったが、そんな母を父は抱きしめた。「ナターシャだけには生きてもらいたい」父は今にも泣き出しそうな声を堪え震えながら母にそう伝えると母は頷いた。


父は一心不乱にナターシャを起こしに寝室へと向かった。

「ナターシャ!ナターシャ!起きろ!起きてくれ!」

「ん?お父さん?慌ててどうしたの?」

父はナターシャを抱き抱えて居間まで走った。

そこには、収納スペースに何かを入れている母と椅子に座り祈りを捧げている祖母がいた。

「水と非常食は入れて置いたわよ。」

ナターシャは何が起きたのか分からないまま、居間の下にある小さな収納スペースに押し込まれた。


「良いかい?ナターシャ今からここに人が来るかもしれないけど何があっても外に出たらダメだ。声を抑えて我慢してね」

頷くとすぐに蓋を締められた。だが気になってしまい少し開けて、隙間から見ていた。


銃声の音が1発聞こえた。


その瞬間目の前にいた母と祖母は倒れてピクリとも動かなくなった。


父はけたたましい怒鳴り声を上げた。

「なぜだ!なぜ僕たちは殺されないといけない!答えろ!王国兵士!」父はどこにいるかも分からない兵士に大声を上げて訪ねた。


まっくらな玄関の奥から、とすん、、とすん、、とゆっくりち近づく白髪の男の姿が見えた。


「お前が妻と母を殺したのか」

男は表情を変えることなく答えた

「そうだ。」

父は私のいる居間から目をそらせる為にわざと大声を上げて襲いかかった。

「ふざけるなぁあああ」

すると父の拳はなぜか男の頬をかすめた。その瞬間男の左手に鷹のタトゥーが見えた。


「すまない。」男は呟きながら、銃口を父に向けて撃った。父はそのまま倒れた。男は周りを確認し誰もいないことがわかるとそのままどこかえ消えていった。


これがナターシャに起きた10年前の出来事であり、後に殺戮戦争と言われる。そして現在ナターシャは15歳を迎えて復讐の旅に出るために準備をしていた。


平日の昼下がり自宅の屋根の上で日記を読み返し、うとうとしているナターシャ。

「ナターシャ、ナターシャ!」

白く小さなふさふさしたしっぽのリスがナターシャに話しかけに来てくる。



「フェイ!こんな場所まで探しに来てくれたの?」フェイを見るなり両手で持上げ空にかざして直ぐに胸に抱きしめる。



この小さな生き物はフェイと呼ばれている。リスの中でも突然変異種であり、フェイだけが毛並みが真っ白でしっぽがとても大きくもふもふしているのがフェイの特徴である。


遡る事10年前ナターシャが絶望して薄暗い家の居間から出ることが出来ずに膝を抱えて心を閉ざしていた。

服は汗と涙などでボロボロになっていた。


そこに駆け寄りもふもふのしっぽで気を引き、ナターシャの心に寄り添った唯一の家族のような存在である。

「ね?フェイ、私のこと10年前どうやって見つけたの?」ふと気になりフェイに訪ねてみた。


「あの頃は今の村長であるガイムさんの使い魔として生き残った人を探していたのよ。そうしたらずっと泣いている子を見つけて気づいたら・・・近づいていたのよ。」

「そう、だったんだね⋯」

フェイは私の顔をじっと見つめはじめた。


「どうしたの?フェイ?」

フェイは後ろ向きになって小さなふさふさした、しっぽを左右に振りながら寂しそうな表情で話し始めた。

「これから、復讐の旅に出るだるだなんて⋯ずっとこのままこの村で生きてもいいと思うのよ」それもその通りである。わざわざ旅に出なくても平和なこの村で生きていても、バチは当たらない。



「ごめんね、フェイもう決めたことなの。」と理由も言わず目をそらすことしかナターシャにはできなかった。

「そう、もういいわ、私も、もちろん着いてくからね」嬉しくなり「ありがとう」と言いながらふさふさのそのしっぽに顔を着けてすりすりした。


「そうだ、ナターシャあんた村を出る前に村長に会うこと忘れてないでしょうね?ガイムさんに話を通さないと村から出られないからね」

私はすっかり忘れていて昔の日記を読み返していた。「それで、、今日もその日記を書いていたの?」ナターシャはフェイのことを忘れてすぐに村長のガイムさんの家まで走って行った。


私がガイムさんの家に着くとへとへとのフェイが遅れてやって来た。

「あんた、、急に走らないでよ、、」

「ごめんね!急がないと日が暮れると思って走っちゃった!さっき何か言おうとしてた?」

「もういいわよ」と拗ねてポケットの中に入っていった。




「おや?来たようだね」ガイムさんの自宅に尋ねると来ることをわかっていたかのように待っていた。


玄関をくぐると、そのまま居間まで案内された。無言のまま座布団に座ると、ガイムさんはゆっくりと話し始めた。


「今更両親の復讐の旅なんてやめなさいなんて、野暮な事は言わないよ。

ただ1つこの村について話させもらう。

この村はギェーニイ王国で作られた魔法具の力で完全に守られているが欠点がある。」魔法具のことは知っていた。


そのおかげで10年間この村は王国に見つかることなく平和に暮らしてきたからである。だがそんな魔法具に欠点とは何だろと恐怖と好奇心で私は息を飲んだ。

「それは村から出ることが出来ても入ることは出来ないことだ。」ナターシャはもう二度と村には帰って来れない。


つまり永遠に村の人達と別れることになる。そんな現実に目眩を覚え始めた。


その時だったポケットからフェイが飛び出してきた。

「ちなみに!私が話せているのはこの首輪のおかげよ!この首輪も同じギェーニィ王国の魔法具なのよ!だからね!ナターシャ貴方はもう一人じゃないのよ⋯私がずっとそばに居るからね」

私は1人では無い安心感からか、涙が止まらなくなりフェイを抱きしめた。



「私はフェイと一緒に旅に出るので寂しくありません!」ガイムさんはほっとしたのか少し笑ってくれた。


そんな気がした。

「分かった。それじゃ最後に聞いておこうどうやって復讐をするつもりだい?」何も考えたことが無いわけじゃない。


ただナターシャには知識がなくどんな風にどんな感じになど具体的に考えることが出来なかった。

言い訳すら出てくることなく「それは⋯その⋯」その瞬間ガイムさんは聞いたことも無いくらい大声で笑い始めた。


フェイは少し呆れた口調でガイムさんに怒り始めた。

「もう、ガイムは幾つになっても意地悪をするのね!あんただってギェーニィ王国から旅に出た時何にも考えてこなかったじゃない」ガイムさんは笑い声を堪えながら本題を話してくれた「悪かったな。

昔の自分を見ていたようで少し意地悪をしてしまった。


そこでだ!

何も考えがないのならまずは、ウビーイストヴァ王国のメイドとして雇ってもらい、そこで復讐相手を探すのはどうだろうか?相手の特徴は分かっているなら時間をかけてじっくり探せばいい」


「それがいいわね!ナターシャ私もサポートするからまずはガイムさんの作戦でやって見ましょ?」


「うん!そうしよ!」ナターシャは考えた復讐の果てに何があるのだろうか?


復讐をしたとしても何も意味が無いのでは?


そうやってモヤモヤして俯いていた。


ガイムさんは


とん、とナターシャの肩に手を置いた。



ナターシャは驚きガイムさんを見つめた。


「復讐後のことは、旅の中で見つければいい。世界は広い復讐の旅で得るものも沢山ある。その中でナターシャがやりたいと思ったことをやればいい。それが人生だ。」


ナターシャはガイムの言葉に涙ぐみ決意を固めた。

「ありがとうございます。ガイムさん」私は決意を新たに村から旅立ちました。


これがナターシャの旅の物語の始まりである。

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魔法と異能力のファンタジー世界で復讐の旅を始めたら、最初の森で仲間になった相手が復讐相手だったけどそのまま旅を続けました。 山下 勝也 @akb0048ka

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