聖夜

@comecomecat

第1話


(もう限界。)

夜羽はまだ首も座らない赤子を抱きつぶやいた。

何も敷かれていない12月下旬のフローリングの床にぺたんと座り、やわらかいコットンのパジャマの前をはだけさせ、乳房をあらわにしたままただ天井を見ていた。

どのくらいそうしていたのだろう、気づけば音のない赤色灯に窓へと視線を導かれていた。

窓の桟にはしずくが溜まっている。しずくの伝った道がいくすじもガラスに這い、そのしずくの道ひとつひとつにゆがんだ夜の街が映り込んでいた。

(この子さえいなければ。)

何度思った事だろう。

私の人生はこれからだった。波に乗っていた。望めば叶う人生、お化粧も、夜遊びも、旅行も、全部全部まだこれから楽しめる年だった。お金がなければ、稼げばいい。この世にはいくらでも仕事があった。

母乳で潤った唇をぼんやり開けたまま、いつのまにか赤子はすやすやと眠っている。

音のなかった赤色灯は数が増え、いつの間にか騒々しく部屋の中まで染めていた。

夜羽は赤子を片手にぎゅっと抱えカーテンを閉めに立ち上がった。

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