第34話
今週の土曜日に決定したパパとの食事会。日に日に、タマちゃんの元気がなくなってきた。食欲もないみたいで、痩せ細ってきている。
「ハハ…ハ………」
意味もなく、突然笑うようになった。
「私の方からパパに断っておくね。だから、もう……心配しなくても大丈夫だよ。ごめんなさい」
タマちゃんの頭を撫でようとした私の手を強めに振り払い、
「ガキ扱いするなっ! 今、逃げたら……一度逃げたら……逃げ癖がつく。だから、余計なことするな。俺なら、大丈夫だからさ」
「うん。……分かった。じゃあさ、気分転換に久しぶりにデートしない? 明日は、祝日だし」
金曜日。デート当日。
好きな映画を見たり、美味しい物を食べたら、少しは元気になるかな……。少しでいいから、元気になってほしいな。
同じマンション、しかもお隣さんだけど、私達は駅前で待ち合わせをした。
約束の時間まであと三十分。
「ねぇねぇ。今、暇?」
久しぶりのデートだから、すっごく楽しみです! 気合い入ってます!!
「暇ならさぁ、僕と一緒に美味しいケーキ食べに行かない? 新しい洒落た店だし、キミも気に入ると思うよ」
タマちゃん、まだかなぁ……。まさか、遅刻するつもりじゃないよね?
「ねぇ、聞いてる?」
それにしても、さっきからうるさい邪魔虫だなぁ。強力な殺虫剤持ってくれば良かった。
「ハハ……。僕、もしかして無視されてる? ねぇ、少しはこっち見てよ~」
私の肩に触れる………。
「おっ! やっと見てくれたぁ。雑誌とかで僕のこと見たことない? モデルとかやってるんだけど。たまぁにテレビにも出てるし」
「この手、何?」
「えっ!? いや、ちょっと触っただけじゃん」
「モデルって生き物はさ、素手で猛獣に触るの?」
「な、なな、なんっ!?」
私の黒いお目々を見たモデル男は、震えながら、目の前で失禁した。
「私だったら、喰われる前に逃げるけどなぁ~」
ダダダダダダ!!
モデル男が消えて、数分後ーーー。
何も知らないタマちゃんが、欠伸をしながら呑気にやって来た。
「もうっ! 遅いよ。今、何時だと思ってるんですか!!」
「九時五十分だろ。約束の十分前。いつからいたの? 来るの早すぎない?」
「タマちゃんが来ない間に虫が来て、うるさくて大変だったんだから……」
「虫? ふ~ん。あっ、そういえばさ、この辺に新しくケーキ屋さん出来たみたいだけど、行く? 結構、美味しいみたいだし」
タマちゃんが、わざとらしく私の頭や肩を手の甲で虫を払う仕草をする。
「うん……。行く」
タマちゃんと手を繋いで、普通の道をただ歩いてるだけ。
それだけでーーー。
言葉に出来ない幸せが満ちてきて、泣きそうになった。
「私の方が、元気を貰っちゃったね」
「えっ? 何か言った?」
今日食べた甘さ控えめケーキに誓って、明日は絶対にタマちゃんを守るからね!!
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