第19話
番条さんの奴隷となり、一ヶ月が経過した。長年勤めていたバイトをキッパリと辞め、奴隷業に専念することを決めた。
今は、一日の大半を主(彼女)と過ごしている。
一番驚いたのは、奴隷となった次の日。担任から、彼女と同じクラス、しかも隣の席へ強制的に移動させられたことだ。
俺だけ転校生扱いみたいな感じで、周りからは嘲笑されるし、かなり恥ずかしい思いをした。
放課後は、なかなか帰ろうとしない番条さんと一緒に勉強したり、マンガを読んだりして時間を潰した。家よりも学校の方が落ち着くと彼女が言うから、そこは仕方なく我慢した。
「………………」
「………………」
「んっ!………ぅ…………はぁ…」
「…………?」
いつも二人だし、番条さんは物静かで話す方ではないから、消しゴムを転がす音が聞こえるほど俺達がいる空間は静か。
あの奴隷選抜で、結局合格した奴隷は俺一人だし………。
ほんと、一人ってなんだよ………。
「…ふぅ…………」
「……………??」
番条さんは、副会長という高ポジションにも関わらず、学校側から専用の部屋を与えられていない。その時点で、生徒だけでなく先生達からも相当なめられていることが分かった。
奴隷として、主がぞんざいな扱いを受けていることに抗議した方が良いのか?
まぁ…………いいか。面倒くさいし。
確か、会長や二川さんは教室三個分ほどある豪華な専用部屋を持っていて、好き勝手やっているとか。
「はぁ…………」
「………はぁ……」
「はぁ~~」
「…………はぁ~~~」
「真似するなっ!」
「真似するよっ! フフ…………」
最近、番条さんは笑うことが多くなった……気がする。まぁ相変わらず、理解に苦しむ行動も多いけど。
「トイレ……行きたい……」
「うん」
「青井くんも……私の個室まで…入るの?」
「入るかっ!! アホ」
「……良かった……聞かれるの……恥ずかしい……」
「早く行けよ。俺は、廊下で待ってるから」
「うん………」
早足で女子トイレに駆け込む番条。まさか、我慢してたのか?
頭をかきながら、ふと気になった窓の外。広い校庭で部活に精を出す運動部員。今までバイトばかりで部活をする余裕などなかった俺は、青春を現在進行形で謳歌している彼等を羨ましく思っていた。
帰り支度をして、いつものように番条さんと一緒に下校。しばらく歩き、二人が別れる目印の小さなオモチャ神社が見えてきた。
珍しく、番条さんが自分から話しかけてきた。
「青井くんは、とっても良い人……。会長が好きになる気持ちも分かる。………昔ね、会長と約束したの。あなたを守るって。あなたを守る為に私は副会長になった。青井くんを私の奴隷にしたのも会長の筋書きなんだよ? スゴいよね……。あの人には、未来が見えてる」
「守る為にって……。一体、何から俺を守るんだ?」
「会長はね………神華の悪魔達から青井くんを守ろうとしてる。二人の関係が、パパさんにバレたみたいだよ……。好きだから、これ以上そばにいられない。死ぬほどツラい決断だけど……これは、彼女の意思だから……」
番条さんは、俺の少し前で振り返ると前髪を『両手』で上げた。初めて見る彼女の素顔。目が大きく、童顔で愛くるしい顔だった。
でも、色の違う左右の目は悪魔的でーーーー。金縛りにあった時のように指一本さえ動かせない。
「ごめんね………青井くん。本当に……」
番条、やめてくれ!
頼むからーーー。
『 彼女の記憶を消します。すべて 』
俺に死刑宣告をした番条は、いつまでも幼児のように泣きじゃくっていた。
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