第18話
千回目の悪夢を見た。
化物に変異した俺は、人間の内臓をうまそうに食していた。引き裂いた口には、ベットリと血糊がついていて、赤黒く汚れている。
俺は、その『もう一人の自分』をただ黙って後ろから見ていた。
見ていることしか出来なかった。食い散らかした肉片が、周囲に飛び散る。
ピチャッ………。
ピチャッ……。
腐ったピザに見えた。
どうしたら、この悪夢から覚める?
『 夢? バカか、お前。これは、現実だよ 』
振り向いた俺はーーーー。
赤い涙を流しながら、笑っていた。
……………。
こわい………。
こわいよ……………。
いつか、きっと……俺は、大切な人をこの手で殺すだろう。
「タマちゃん……?」
薄く目を開けると、七美が俺の頭を撫でていた。ここ最近は七美も忙しく、二週間ほど会っていなかった。
いつの間に来たんだ?
どうして?
そんな疑問も今はどうでもよかった。
「しばらく側にいて」
「うん……分かった。だから、安心して寝ていいよ」
七美は、もぞもぞと俺の布団の中に入ってきた。彼女の首筋からは、落ち着く甘いシャンプーの香りがした。
「一人で寝るから、怖ーーい夢を見るんだよ。だから……ね? 私と一緒に寝よ」
布団の中で七美が、俺の手を優しく握ってくれた。一本、一本、その指をマッサージしてほぐしてくれる。
「七美…………」
俺は、赤ん坊のように彼女の胸に顔を埋めた。それだけで全身を包まれているように安心出来た。
「大きな赤ちゃん………。私の赤ちゃん……もっとママにくっついて」
「………………」
「そん……な……吸い方……ダメ…。んっ! 悪い子……」
「………………」
七美は、甘える俺を引き離した。
「お願いだから無理しないで。私のせいで、アナタを苦しめてるのは分かってる。本当に……本当に………ごめんね……」
三十分後。七美は静かに部屋を出ていった。玄関の扉が静かに閉まる。
布団の中で、今も手の甲で光る彼女の涙を見つめ。
俺は、どうしても彼女を引き留めることが出来ず、その悲し気な後ろ姿を夢と現実との間で見ているだけだった。
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