第14話

生徒会役員専属の奴隷たちーーーー。


元々彼等は、『奴隷』と呼ばれるような虐げられる身分の人間じゃない。むしろ、その逆。カースト上位の勝ち組だ。自ら望んで奴隷の身分に落ちるのは、彼等の遥か高みにいる絶対的な存在、会長や二川さんを異常なほど崇拝しているからに他ならない。



圧倒的なカリスマ性を放つ会長や二川さんは、常に何人もの奴隷を所持していた。奴隷は、彼女達の世話人であり、命を投げ出す覚悟を持っている最強の盾でもある。

奴隷というより………ボディーガードに近い存在かもしれない。

もちろん、危険と隣り合わせの奴隷には、それなりの見返りも用意されている。進学や就職でかなり優遇されるだけでなく、卒業時に主人から莫大な謝礼金を貰える。上手く使えば、その金だけで一生暮らせるほどの大金だ。


しかし、新しく副会長となったばかりの番条さんには、まだ奴隷が一人もいなかった。本日、彼女の『奴隷選抜』が密かに行われる。集合場所である第二体育館は、すごい熱気だった。百人を越える、奴隷候補ーーー。


「…………………はぁ~…」


なぜか、俺もその中にいた。なんでこうなってしまったのか………。


昨晩。


テレビの歌番組を見ていたら、何の前フリもなく七美から、俺を番条さんの奴隷選抜にエントリーしたことを聞かされた。


「ん? 奴隷選抜? えっ、え、何それ?」


「これは、決定事項です。辞退することは、許されません。………この歌手さんってさぁ、確か声優もやってるよね」


「だから、奴隷選抜ってなんだよ! 初めて聞いたよ、その言葉。そんなワケわからないモノに勝手に俺をエントリーするな。しかも奴隷って、そもそも生徒会役員の指名だろ? なんだよ、選抜って」


「指名制ってさぁ~。そのシステム、古くない? 常に進化、改革していかないとね」


なぜか、ドヤ顔をされた。


「腹立つな……その顔。くそ。奴隷なんかなりたくないんだよ、俺は。バイトもあるし、そんなに暇じゃない」



ッーーーーーー。



「言いたいことは、それだけ?」


部屋の空気がガラリと変わった。

氷のように冷たい。俺が死ぬほど嫌いな神華一族のあの目。この目を見ると体が強張り、緊張で震える……。


自分は、喰われる存在。

今にも吐きそうだった。


「わ、分かっ…た……。参加は、する。参加だけな。すぐにリタイアするから……。はぁ………………どうせ奴隷になるなら、七美の奴隷になりたかったよ」


「あらあら、私の奴隷になりたいなんて。タマちゃんは、そんなに私のそばがいいの? いつもくっついてイチャイチャしてたら、流石にこの関係がバレちゃうよ」


頭を撫でられ、両方の頬に優しくキスされた。


「でも私の奴隷は、死ぬリスクがかなり高いからタマちゃんには絶対になって欲しくない」


「じゃあ、番条さんの奴隷は安全なのか?」


「うん! とっても安全だよ。だって、彼女を殺せる人間なんて、この世にいないもん」


「ん?」


どういう意味だ?


まぁ……いいか。俺には、関係ない話だし。


ーーーーーーーーーー。

ーーーーーー。

ーーー。


スポットライトを浴びた司会進行役の仮面を被った怪しげな男。


彼の挨拶で始まった奴隷選抜。


本日の主役である番条さんは俺を見つけ、震えながら手を振っていた。


「………来てくれ…た…」


先程から、人を馬鹿にする嫌な笑い声が俺の耳を刺激する。クスクス、クスクス。


周りの人間を見て、すぐに分かった。

奴等は、番条を世話したり、守ろうなんてこれっぽっちも思っちゃいない。


卒業時の金目当て。自分のメリットしか考えていない。


「番条………」


「……青井くん……おねが…い……勝っ…て……」


そんなに泣きそうなほど不安ならさ、なんで直接、俺に頼みに来ないんだよ!


どいつもこいつもバカばかり……。


本当、イライラする。



「はぁ…………あのバイト、辞めないといけなくなるかもなぁ」


気持ちを切り替え。どうせ勝てないだろうが、とりあえず本気で挑むことにした。



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