第51話

私の目の前に、さっきの男の子が作った砂のトンネルがあった。




はぁ………。

ぁ………。

……………。


このトンネルの先は、どこに続いているのかなぁ。

……………。

………。


まだ意識がある。

なかなか死ねない。


そんな私の体に触れている何か。

カラスかな。それともママに頼まれた死体処理班?


まぁ、どっちでもいいや。


ママは、あぁ言ってたけど……。天国に行けないよね。たぶん無理。たくさんの人を殺したから。だから、パパにも会えない。


「あれ? おかしいなぁ。やり方は、ここを………こうで。こうして……。はぁ~、 わけ分からなくなってきた」


私は赤い目を半分だけ開けた。


「あっ! そっか。ここの結びかたは、こうだっけ。………よしっ! 出来た。 は~、やっと終わったぁ」


私の前に、さっき逃げた男の子がいた。


逃げたんじゃなかったの?


どうして戻ってきたの?


「あっ、起きてる。……大丈夫?」


大丈夫なわけない。そんなことより、この男の子は、私のこと恐くないのかな。


このバケモノの体……。


全身、毛むくじゃら。目は、赤くて。狂暴な爪まである。


「包帯で巻いたから、動かないでね。ところで、君は狼?」


どうして。


「熊? 爪も大きいし。もしかして、新種かな」


どうしてーー


「君が、良くなるまで僕がそばにいるからね。だから、大丈夫だよ」


私にくっついて、寝てしまった男の子。

疲れたのかな。

私は、全身を覆う白い包帯を見つめた。


私達を優しく照らす、お月様。


ねぇ、ママ。

こんなに気分がいい夜は、初めてだよ。



「……………」



人の気配。しかも複数。


私を追ってきたママと、その仲間に違いない。闇の中に隠れている。もう私に逃げ場はない。


体を起こした。

まだ痛かったけど、この男の子のおかげで何とか動けるまで回復していた。

私の隣で、すやすや寝ている男の子。


……可愛い寝顔。


理由は、分からないけど。私の体は、いつの間にか元の人間の姿に戻っていた。


私は、見えない闇の主に声をかける。


「ママ……。さっきは、ごめんなさい」


闇の中からママが、姿を現した。さっき、あれだけ痛めつけたのに、もうかすり傷一つない。


やっぱり、ママは強い。


私の何倍も……。


「ナナちゃんは、何も悪くないよ。悪いのは、ぜんぶママなんだから」


ママは、泣いているみたいだった。

強いけど泣き虫。


「ごめんなさい。もうワガママ言わない……。お薬もちゃんと飲むから。だから、許して……」


「ナナちゃん。どうしたの? 別人みたいに素直ね」


ママは、私の横で寝ている小さな男の子をチラッと見た。


「この子のおかげ?」


その時、闇の中から狐のお面を被った数人の男女が姿を現した。


「霊華様。この子供に、お嬢様の変化した姿を見られました。したがって、この子供を今から消去します。我らの秘密を守るために」


消去?


この男の子は、私の命の恩人なんだよ?


そんな危ない刀や銃なんか持ってさ………。


「ナナちゃん。落ち着きなさいっ!」


それ以上、近づいたら。


近づいたらーーー




【 お前ら、全員喰ってやる 】




頭を噛み砕く。


………………。

…………。ザッ。


逃げるの速っ。まぁ、この方が楽だけど。


まぁるいお月様が、笑っている。

公園には、私とママと男の子だけになった。


「ナナちゃん? 明日は、キレイな姿でこの子に挨拶しないとね。レディとして」


「っ!?」


そういえば何日もお風呂に入っていなかった。だから、髪もボサボサ、ベタベタ。


急に恥ずかしくなって、家まで走って逃げた。


またね。…………ダーリン。


昨日と同じ時間。

昨日と同じ場所。

辺りは真っ暗。


私は、公園に行く。


いたっ!


やっぱり、いた。

今日も一人で、遊んでる。

私は、スキップしたい気持ちを抑えて、彼の元へ。

彼が遊ぶ砂場に、私も入った。

ママの高級シャンプー借りたから、良い匂いしてるでしょ?


この服だって、可愛いでしょ?


ねぇ、ねぇ、ねぇ。


私を見てーーー


あなたが望めば、何だって買ってあげるよ? (ママのカードで)


そんな汚れたスコップで遊ばなくてもいいんだよ?


「……………」


「ねぇ……。私を見て?」


「…………」


あれ? 聞こえなかったのかな。


「ねぇ! ねぇってば!」


「……………うるさい」


「うるさい? この私が? なによ、それ………」


せっかく、私が会いにきてあげたのに。

昨日は、あんなに優しかったのに。


昨日のバケモノは、私なんだよ?

助けてくれたでしょ?

ねぇ……。



私、あなたのことがーー


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る