第54話 存在の薄い国王陛下登場
「忙しそうだな、アレックス」
俺にとっても父は空気だが、父にとっても俺は空気だ。特別仲が悪いわけではないのだが、俺の事は空気のように無視をする。
「えぇ……。敵を上回る身体強化のポーションを開発したいのです。ついでに治癒系のポーションも作りたいですね。これからの戦場では必須ですし」
アレックスは父に目もくれず、専門書を眺めている。そんな様子に父は嘆息した。
「お前は本当に優秀だな。私なんぞ空気だ」
「国王なんて
「しかし、お前は神輿で収まる気はないのだろう?」
父がそう問いかけると、初めてアレックスは目線を上げた。
「えぇ。私は大陸の覇者となります。幸いなことに、味方に天下無双の力を持つ将軍もいることですしね」
「大陸の覇者ねぇ……」
「私は戦争がやりたいわけではないのですよ。しかしこの大陸情勢からして、この国が十年後、二十年後に存在しているとは思えない。ならこちらから打って出るべきと考えているのです」
父は乗り気ではないようだ。このままのらりくらりと生きていたいのだ。そういう意味では俺と似ている。俺も自分が団長とスローライフできればいいのだから。
「その前に、まずはチャンドラーを潰します」
「いや、勝てないだろう。ここは和睦を……」
父はおろおろしてアレックスへ歩み寄った。
「和睦? 何考えてるんです? チャンドラーへ王位を譲るのですか? そんなことしたら、父上と私、チャンドラーに味方しなかった幹部はギロチンですよ? まぁ、幹部は全員ではないでしょうけど。でも確実に父上はギロチンです」
父は黙り込む。
「なんとかならないか?」
「ならないです。チャンドラーが欲しいのはこの国、いや、大陸の制覇なのですから。私が勝つか、チャンドラーが勝つか。殺らなければ殺られる。乱世ですからね」
父は深く溜息を吐いた。
「ギロチンは嫌だ。しかし――」
「そんなに仰るなら、王位を私に下さい。父上はどこか外国にでも逃げればいいのです。お金は工面しますから」
アレックスの提案に、父は呆然とする。
「お前はまだ十二歳なんだぞ」
「十二歳だからなんだと言うのです? 私は王太子を立派に務めておりますよ。この国の決定もほぼすべて私が下しています。国王になるのになんの問題が?」
いい加減鬱陶しくなったのか、アレックスが立ち上がる。挑むように父を睨んだ。
「戦が怖いのでしょう? チャンドラーが攻めてきた時も、寝室のクローゼットの中に隠れていたと聞きました。臣下が雄々しく戦っているというのにみっともない。あなたは乱世の王にふさわしくない。どこかの田舎でスローライフでもしてればいいんです」
父はわなわなと震え、しかし言い返せなくなったのか黙り込んだ。
「わかった。お前に王位を譲る。私はこの国を出て、離島でも暮らすよ。達者でな」
そう肩を落とし、そこで二人のやり取りをぼーっと聞いていた俺に初めて気付いたようだ。
「ダスティン、いつからそこにいたんだ?」
「始めからいましたけど?」
「そうか」
やはり俺には興味は薄いようだ。それだけの会話で永遠の別れとなってしまった。
「なんだか俺って、いらない王子だったんだなーってこんな時思うよな。成績も悪いし、これといって取り柄もないしさ」
なんだかむなしくなってきた。
「それは父上の見る目がないのです。臣下の者達は皆、兄上を慕っているじゃないですか」
そう言ってアレックスは俺の頭をなでなでした。
こうして、アレックスは国王に就任した。まだ十二歳の国王である。イバキラ王国はこれ幸いにとチャンドラーへ援軍を差し出してきた。完全に舐められている。
軍議の場でイバキラ王国の援軍の話を聞いても、アレックスは冷笑するだけだった。
「イバキラの援軍など、どうせ後方支援しかやらないでしょう。チャンドラーさえ討ち取ってしまえばすぐに帰りますよ。『うちはあなたのために援軍を出しましたからね』というポーズを示したいだけなんですから」
既にアレックス印のポーションは、身体強化、治癒など、複数用意されていた。
「チャンドラーを討ち取ったら、イバキラ王国を攻めます。やられたらやり返す。当然でしょう?」
アレックスは、姉ちゃんに頼んだのか、また信長のようなマントをご着用だ。完全に天下人気分になっている。
「これは天下平定の第一歩だ。頼んだよ、ダスティン将軍!」
アレックスは俺の肩をポンと叩いた。
身体強化した王国軍や近衛騎士を相手に対戦を繰り返した。扇子武術を身につけたハンゾーさんとも何度も戦った。
その結果、以前はほとんど勝てなかった団長にも、十本勝負で勝ち越せるようになった。
クラウディアのためにやれることはやった。必ず討ち取る。そう決意していた。
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残り4P+エピローグで完結です!
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