第53話 再生の力と刷り込み効果

 廊下に出てしばらく探すと、姉ちゃんの腕の中で倒れ込むバイロニーの姿があった。


 よみがえった人々が神のようにバイロニーを崇めている。


「聖女様だ」


「伝説の聖女様が降臨されたのだ」


 土下座して崇める人もいるのだが、肝心のバイロニーはぐっすりと眠りこけている。


「バイロニーね、めちゃくちゃ頑張ったんだよ。初めて人間の蘇生に成功したんだから。しかもこんなにたくさんの人を」


 姉ちゃんが誇らしげにそう言った時、俺はまた涙腺が崩壊した。


「ありがとう。本当にありがとう……!」


 もしかすると、最強の刻印持ちはバイロニーかもしれない。姉ちゃんごと伝説の聖女様を抱き締めた。



◇◆◇



 しかしながら、バイロニーの蘇生効果には思わぬ副作用があったようだ。



「団長、同人誌の朗読をしに来ました」


「リオ殿、ダスティンのパートは不肖、このロデリックめが担当させていただきます」


「いやいや、私がダスティン殿下のパートをやろう。年季の入った喘ぎ声を披露しますぞ」


 今日も団長が王国軍の執務室で仕事をしていると、ユージン、ロデリック、そしてなぜか近衛騎士団長のユージンの父まで団長の機嫌を取ろうとやって来た。


「ロデリックとセレスティア騎士団長は王国軍の所属じゃないでしょうが。なんでここにいるんですか。出てって下さいよ」


 自分のパート(喘ぎ声)なんて、友達と友達の父の声で聞きたくない。


 俺は関係者ではない二人を追い払おうとするが、「同人誌の朗読しないと!」と二人は大人げなく嫌がる。


「大体、近衛の方は半数が敵側へ離反したというじゃないですか。セレスティア騎士団長はその後始末で忙しいでしょ!? ロデリックだって、宰相閣下の手伝いしなくていいのかよ」


 うちは遊んでいる余裕なんてないのだ。二人の背中を押して、強引に部屋から追い出す。


 そんな時、また執務室のドアが開かれる。今度はアレックスだ。


「兄上、王国軍のお仕事もいいですが、私の仕事も手伝ってくれません? 義姉上もいいですよね?」


 アレックスは嬉しいことに、団長を義姉上と呼ぶ。それはいいのだが――。


「私は構いません。後でダスティンが朗読に付き合ってくれるなら」


 団長はこの萌えバブルに浮かれているようだった。




「なぁ、アレックス。このところデレてばかりだけど、それ『刷り込み』ってわかってるよな?」


 基本、アレックスはツンの方が多いのだ。生き返ってからというものの、俺限定でデレてばかりいる。



 バイロニーの蘇生術には、大きな副作用がある。それは、蘇った時に一番初めに見た人物の好感度が急上昇してしまうというものだ。鳥の雛が一番初めに見たものを親と認識してしまうのに近い。


 アレックスは蘇った時に最初に見たのが俺で、ユージンやユージンの父、ロデリックはそれが団長だった。


 もしかするとバイロニーが熊やパンダを手懐けた時も、そのメカニズムが働いたのかもしれない。だから、バイロニーにあそこまで懐いていたんだ。



「だからなんだと言うのです? 私は元々、兄上に懐いてましたよ。下手な紙芝居だって喜んであげたじゃないですか」


「デレても微妙に可愛くないな……」



 バイロニーの再生の力は王宮で死体となっていた敵味方全員にかかり、その後、王宮の外で戦死していた兵士達にも順にかけていった。


 敵方の者は、蘇ってから初めてみたのがバイロニーだったため、裏切りを心から悔んでいた。規定に沿った形で地下牢に入れているが、そういう状態なので、アレックスは彼らを処刑するつもりはないと言う。



「私はこれからとある研究で忙しいのです。兄上には代わりに私の仕事をやっていただきたいのですが」


「俺だってクラウディアを倒せるように修行で忙しいんだけど」


「今の兄上と互角に戦えるのは団長クラスしかいないでしょ? でも同じ面子とばかり対戦しても腕は伸びませんよ」


 そうなのだ。隠密旅行からのこの王都での戦闘。短期間で実戦を繰り返したおかげで、俺の腕は飛躍的に伸びた。団長のチート刻印の力がなくても、ヒラ団員クラスは秒で倒せるくらい腕が上がってしまったのだ。


 団長からも徐々に勝てるようになってきた。他のハチワレ団の団長からも十本勝負で勝ち越せるようになってきた。


 そのため、対戦相手が限られてくる。


「私は天才魔術師のショルダー・ザラス・ウィスカーズが開発したというポーションを超えるものを作りたいと考えているのですよ」


 捉えた敵方の近衛騎士から、ショルダーが作ったポーションを飲んだという証言を得ている。それは身体強化ポーションで、通常の三倍の能力で戦闘できるようになるというもの。


「けど、あいつは天才と呼ばれた魔術師だよ?」


「兄上、私だって十歳で王立学園を卒業した男ですよ? 魔導工学や、魔導薬学の博士号も持っています。彼が天才であるならば、私は鬼才。必ず超えるものを開発します」


 アレックスはやる気もりもりで、ビーカーやらフラスコを持って怪しげな液体を混ぜている。


「このポーションが完成すれば、ユージン殿クラスの人でも兄上の相手が務まるようになるでしょう。それと、ハンゾーに扇子武術を習得するように伝えています。彼はあらゆる武術を習得した達人。仮想敵としていいんじゃないでしょうか」


 クラウディアが回復するまで、敵は動けないだろう。ショルダーのポーションがあるにしても、すぐに再起は不可能と見られる。


 彼らはチャンドラー公爵領へと移動し、援軍を募っている。なんといっても筆頭公爵だ。彼らに味方する者も多い。国を二分する戦いとなるだろうが、こちらも王国軍を全軍招集し、チャンドラー公爵領へ攻め込む勢いだ。


 二人でそんな話をしている時、ドアがノックされる。入ってきたのはもはや空気と化している我が父、国王陛下である。

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