第四章
第51話 天下無双の刻印の亜種
優雅に馬車で帰るわけにはいかず、バイロニーと姉ちゃんにも馬に乗ってもらった。意外なことに、バイロニーの母、ツノウミヤ皇国の皇帝は馬に乗れた。それも上級者である。
馬に乗って全力疾走で駆け抜ける。それでも一夜で戻るのはムリがあった。途中のサノ地方の外れで一泊する。
「
ハンゾーさんは落ち着いた様子で温泉に入り、頭にタオルを乗せている。他の面々も同様だ。
落ち着いた頃に、バイロニー夫妻のVIPルームに、俺と団長、団長のお母様、バイロニー夫妻、そしてハンゾーさんが集まる。そこに、バチ王国からやってきた隠密騎士が加わった。
「クラウディアと別れてから七日しか経っていない。なのに、どうして――」
「以前から準備してあったのでしょう。チャンドラーに謀反の気配があることは、王太子殿下もご存じのようでした。ただ、こんなに迅速で、近衛騎士団の半数が裏切るとは思っていなかったでしょうが」
アレックスも、チャンドラー公爵家が敵に回るだろうと言っていた。でもまさか、王都を制圧する勢いとは――。
「俺が、あいつのものになってやれば、こんなことにならなかったのかな」
「それは関係ないでしょう。殿下を奴隷のように飼いならしつつ、彼女は天下を狙うでしょうから」
クラウディアには天性のカリスマ性がある。俺が王子でありながら、クラウディアより立場が下のように感じてしまったのはそのせい。俺は凡人だが、彼女は違う。
そのクラウディアが父と弟を倒し、玉座へ上ると言うのか。
「ダスティンのせいじゃないよ」
団長も俺の肩に手を置き、慰めてくれる。
「ところで、リオ」
団長のお母様――セイディさんは切り出した。
「皆さんにも見ていただきたいのです。リオ、刻印の力を解放してみて」
団長は以前したように左胸に手を当てて、刻印の力を解放した。オーラは迷うことなく俺へと移り、一層強く輝く。
離れたところに置いていた剣が、なぜかスポンと俺の手に戻ってくる。剣もオーラと同じ色に輝きだした。
「――これは『天下無双の刻印』ではないかと。真紅のオーラではなく淡い桃色のオーラが特徴的です。エデゥール皇国初代皇帝の弟君がその刻印を持っていたとされています」
「「「天下無双の刻印!?」」」
セイディさんは重々しく頷く。
「クラウディアという子が持つ『一騎当千の刻印』は刻印を持つ本人の戦闘力を高めるもの、まさに一騎当千の勢いで敵を薙ぎ倒します。『天下無双の刻印』もそれと似たようなものなのですが、なぜリオではなくダスティン殿下に力がいくのか――言い伝えによると、刻印を持つ皇帝の弟君は、高い戦闘力で大陸平定の立役者になったというのに」
セイディさんは不思議そうに桃色に輝く俺を見る。
「歴代の皇族には、様々な刻印を持つ者が現れました。出現条件については『恋』だと述べたものがいたのですが、当時の皇帝に鼻で笑われ、相手にもされなかったそうです。でもわたくしは、自分に仕えてくれている護衛騎士と恋に落ちました。彼と出会ってから刻印の力が生まれた。だからわたくしは確信しているのです。『恋』が条件であると。ただ――」
セイディさんは溜息を吐いた。
「わたくしもすべての刻印を把握しているわけではないのです。エドゥール皇国の国家機密であり、その情報を集めた書物は燃やされてしまった。もしかすると、リオのは『天下無双の刻印』の亜種なのかもしれません。バイロニーのように刻印の効果が他者へ向かうのです。そしてそれはダスティン殿下に限定されている。よほどダスティン殿下が好きなのね」
最後はクスっと笑いながらそう言った。
「……ダスティンはいつも変なことをするから、目が離せないのです」
団長は目を逸らしてそう言った。心なしか頬が赤い。
「本当なら、クラウディア嬢のように自分でその力を使いたかった。僕が彼女を倒したい」
本来だったらそうだよなぁ……と思い、ハッと気付いた。
「なんで亜種なのか。なんで団長本人じゃなく俺なのか、なんかわかった気がする。姉ちゃん、これは乙女ゲームの世界だよな? そして今は――没になったダスティンルートに入ってると言ってたよな?」
姉ちゃんに話を振る。いきなり出た乙女ゲームというワードに、セイディさんもハンゾーさんも目が点だ。
「そうだね。クラウディアの矢印はダスティン一直線だね。ダスティン以外見えてないもの。てことは、ダスティンルート真っ最中だね」
姉ちゃんも同意した。
もしかすると、これはゲームシナリオのせいなのかもしれない。
恋敵の団長と戦わせるより、攻略対象の俺と一騎打ちしたほうが面白い……なんて企画段階で持ちあがったのかもしれない。なんで没にされた幻のルートに入ってしまったのか、本当に謎なのだが。
「どちらにせよ、クラウディアに勝てる見込みがあるのはまず俺だ。俺があいつを倒すしかないんだよな」
「……別に刻印の力があるからって、ダスティン殿下しか勝てないと決まったわけではないです。私でもいいはずです」
「そうだよ。現に僕は彼女に一回勝ってる。僕でもいいはずだよ」
ハンゾーさんと団長に反論されるが、俺は決めていた。俺が彼女を倒す、と――。
◇◆◇
王都へ戻る寸前の山から王都を見落ろすと、チャンドラー公爵家の旗を掲げた裏切り者の近衛騎士が、王国軍と激突しているのが見える。双眼鏡で様子を見て変だと感じた。
近衛騎士の勢いが尋常じゃないのだ。
「なんか変じゃないか? 王国軍はあんなに弱くないだろ」
「違う。近衛が強すぎるんだ。どうして……? 近衛なんて都会貴族坊ちゃまのお遊びだと思ってたのに」
団長も唖然とそう言った。
以前ユージンも同じことを言っていた。さすがにお遊びではないとは思うが、王国軍の叩き上げの連中はそう言って近衛をバカにしていた。それなのに、なぜ。
「ドーピングでもしてるんじゃないですかね? チャンドラー公爵家の屋敷に、天才魔術師と名高いショルダー・ザラス・ウィスカーズが出入りしているのを掴んでいます。案外、チャンドラー家のお嬢が飲んでた性転換ポーションも、ウィスカーズ製かもしれませんよ?」
ハンゾーさんが新情報を提供してくれる。もしやあのホウキに乗って俺を運んだのはショルダー?
「そんなことより、早く王宮入りしましょう。秘密の抜け穴があるのですよ」
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次ページ、冒頭から中盤までショッキングな展開になります。
しかしガーーーっと下までスクロールすると平和になります(そのショッキングな展開いるのか?って感じですが、いるんです!)
主人公sideがきつい展開になるのが精神的にちょっとって方は次ページ、一気にスクロールしてみてください。スクロールしても何があったかはなんとなくわかると思います。
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