第44話 姉弟の再会となまず

「なんか寒気がする……」


 背中にぞくっとする悪寒がした。なんだかぞわぞわするのだ。


「どうしたのダスティン? 風邪?」


 団長は俺のおでこに手を当てた。至近距離で見る湯上りの団長の姿は目に毒だ。淡いピンクに染まった肌にドキドキが止まらない。


「君の修行のためとはいえ、少しムリさせすぎちゃったかな」


「ムリなんてとんでもない。俺が弱いのがいけないんですから。一日も早く強くなりたいです」


 団長は宿から用意された、ふわりとしたワンピースを着用だ。日本でいうところの浴衣。これで宿内を自由に歩ける。


 普段、男の恰好しか目にしていないから新鮮だ。語彙力死亡。本当に女の子なんだ、可愛いとしか言いようがない。


「あの、俺……」


 そっと団長の髪に手を添えた。


「あなたと両想いと思っていいんですよね?」


 団長は少し視線を逸らして、恥ずかしそうに頷いた。


「僕……あ、わたくしって言った方がいいのかな。でも言いなれてなくて」


「僕っ子も可愛いからいいです」


 そう言って吸い寄せられるようにキスをした。柔らかな感触を夢中になって貪り、身体を強く抱きしめた。その時、団長の身体からほわん……と、桃色のオーラが放たれる。そのオーラが俺を包んだ。


 バイロニーの部屋でクラウディアと対峙した時にもあった、この感覚。


「胸が熱い。やっぱり、君が変なことするとこれが出るんだ」


 ワンピースの布越しに刻印の輝きが見える。


「俺に恋してるって証明ですよね?」


 そう言うと、頬をつねられた。


「バカ」


 そんないちゃつきをしている時、ドアがノックされた。あけるとそこには姉ちゃんとバイロニー。


「なまず料理のフルコースを部屋に持ってきてもらうから一緒に食べようよーって、なんか二人、変だよ? 身体からピンクのオーラが出てるっ」


 姉ちゃんが俺達を見比べて驚きの声をあげる。


「でもって、リオ様、女の子!!! ねぇ、バイロニー見てよ、超可愛いでしょ?」


 バイロニーは驚きのまま目を見開いている。


「そのオーラ……私に近いものを感じるのですが……」


 出発前、バイロニーに言おうと思って忘れていたのだ。お前には生き別れの姉ちゃんがいるってことを――。


 ここは姉弟の感動の再会!?


 バイロニーは震える手で触れた――俺に。


「まさか、ダスティンは――」


「俺じゃねぇよ!」


 バシッとバイロニーの手を振り払う。


 バイロニーは団長のワンピースの布越しに光る刻印を見て、目を見開いた。


「話、長くなるからなまず食べながら話そうよ」


 とりあえず、場所を移動。


 VIPルームには、給仕がうやうやしく料理を並べている。


 なまずのカルパッチョ、なまずのテリーヌ、なまずのフライ揚げ、なまずのホワイトグラタン、そしてなまずの天ぷら――とテーブルがなまずまみれになっている。


 なるほど。群馬県板倉町の名物、なまず。こんなシーンはゲームにはないが、ちゃんと料理はもじった地名に即したものが出てくるわけね。これは次に泊るサノ地方も楽しみだ。


「うーん、カルパッチョ、コッリコリしててうまっ」


「フライ揚げも天ぷらも身がふわふわしてるな。これはうまいっ」


 俺らバカ姉弟はなまずに夢中だが、生き別れの姉弟は再会の余韻に浸っている。


「バイロニー殿下」


「姉上、殿下などつけないでください。あ、姉上とお呼びしても……?」


 俺らのように派手に抱きあってわんわん泣くことはないが、二人とも目にうっすらと涙が込み上げている。


「バイロニー、ベジタリアンなのもいいけど、せっかくの料理なのにもったいないよ」


 団長は生き別れの弟に、そう声をかけた。


 バイロニーはパンにバターをぬりぬりして、それだけを食べている。


「しかし、私はなまずが私に食べられたくて死んだわけではないのに、と、罪悪感を覚えるのです」


 いかにもベジタリアンなことを言うバイロニーに、団長は優しく微笑んだ。


「確かにそうだけど、残ったら捨てられちゃうんだよ。そしたらなんのために死んだのかわからないじゃない? 彼らに感謝の気持ちを込めて美味しく食べて、それをエネルギーに明日も生きようよ。そっちの方が建設的じゃない?」


 バイロニーは少しためらったあと、頷いた。


 姉の言うことは聞くのか。シスコンなのか。おそるおそるバイロニーはなまずを一口食した。


「とても美味しいです。なまずさん、ありがとう」


 バイロニーの全身から菜の花色のオーラが優しく放たれる。それがテーブルに注がれて――。


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


「お前……ッ! なにしたんだよッ!」


 なんと料理のなまずたちが輝きだして、なまずの姿に戻ってしまったのだ。そのままうにょうにょとテーブルの上を這って行く。


「水を用意してもらおう」


 平然とバイロニーはそう告げて、給仕に水槽を用意させた。


 このなまずはこの宿の家宝となったそうだ。めでたしめでたし――。


 せっかくのディナーが台無しになり、俺達はパンとバターのみで飢えを凌いだのだった。

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