第38話 軍団長の野心

「今、王都には、異父弟であるバイロニー殿下が来ています。彼から聞きました。お母様は、ツノウミヤ皇国が滅亡後、滅ぼしたイバキラ王国の国王の第三王妃になられていると。今……幽閉されていると聞きました。だから――」


 団長は静かな声で語りだした。


 そういえば、バイロニーから刻印の話を聞いた後から、団長の様子は少しおかしかった。長期で休暇をもらいたいと言っていた。


 そうか。お母様を助けに行こうとしていたんだ。


 王国軍の騎士団長、侯爵家の息子として行くのでは、戦争を仕掛けに行くようなものだ。だから勘当してもらって、無関係の個人として行こうとしているのか。


「じ、じゃあ! 俺も、父に勘当してもらいます。団長と一緒に行きます」


「ダスティンは来なくていいってば」


「嫌です。行きます! あなただって俺のことを好きって言ったじゃないですか! 俺も大好きなんです。俺には王位継承権はありません。アレックスさえいればいいんです。好き勝手暴れて、お母様を幽閉場所から助け出しましょう!」


 力強くそう言うと、軍団長はガンッとテーブルを叩いた。


「殿下、私がこの部屋に誘ったのはもあってのことです」


 それ、とは? 


 軍団長が立ち上がり、団長を上から見下ろした。


「たった今、殿下が言ったことは本当か?」


「えっと?」


「お前が殿下を好きだということだ」


 そう言われて、団長は潤んだ瞳でうつむいた。


「…………はい、そう言いました」


 消えるような声で団長がそう言うと、軍団長はツカツカと俺の方へ歩み寄ってきた。そしていきなりひざまずく。


「ダスティン殿下――我が君よ。私はあなたこそが、このバチ王国を率いるべきと考えております。リオを王妃とし、イバキラ王国を征伐する命をお出し下さい」


 へ? ほえ? 今、なんと言いました?


 俺が、国王になるべき? 団長が王妃? イバキラ王国を征伐?


「リオの力がどんなものかはわからない。ただ、噂レベルでしか伝わってはこないが、ツノウミヤ――いや、エドゥール皇国の血を引く皇族には、一人で数百人薙ぎ倒す猛者、逆に国に豊かな豊穣をもたらす聖女などが誕生することがあるという。その誕生のトリガーが、リオのお母上が言うように『恋』ならば。リオに選ばれた者が、私が見込んだダスティン殿下ならば――」


「ちょ、ちょ、ちょ、待って下さいよ」


 も、もしやこの軍団長、律義な武骨者だと思ってたけど、実は野心家!? この国を乗っ取ろうとしてる?


「この国の国王は我が父です。後継ぎは我が弟ですよ?」


「そんなもの、この私がいればなんとかなる。王国軍は近衛のようなひよっこには負けん。この私の鶴の一声で王都を制圧し――」


「む、謀反じゃないですか! やめましょうよ」


「いや。私が王位を簒奪するなら謀反だが、王位を本来の正しいルートに戻すことは謀反にはならない。国王に退位を迫り、弟君には王太子を降りていただきます」


「いやいやそんな。どうせそんな政権、短命ですって。それに、父を襲うなんて人の道に反してます。それに、満場一致で弟を王太子にしたんですよ。法律の改正までして」


「人の道? 乱世にそんな考えは通用しません。古来から息子が父王に反逆するケースは多々あり、それで成功している覇者もいるのですよ。法改正の件にしたって、王弟と第二王子の二択だったからです。あなたと第二王子の二択なら、また違った結果になるはずです。第二王子殿下の剣はまっすぐではない。よどんでいる。王の器ではない」


 この軍団長は、アレックスにも剣を教えていた。アレックスは強いが、たまに卑怯な手を使う。それをよどんでいると言っているんだろうけどさ。


「確かに弟は腹黒いですが、この乱世だったらそういう王様の方がいいんじゃないですかね? それに、父や弟が大人しく譲るはずがない。そうなると、俺は二人と対立し、最悪殺すことになる。そんなことは絶対にしたくない! 俺は謀反になんて加担しません!」


 まぁ、正直なところを言うと、父と争うのはそこまで抵抗はない。年に数回しか会わないし、母を見捨てた男だし、パパって感じがしないのだ。


 でもアレックスは違う。俺の唯一の家族なんだ。


「も、もし。閣下が弟を害するのであれば、お、俺が。力及ばずとも俺が閣下を止めます!!」


 力強くそう宣言した。


「あなたはどこまでもまっすぐだ。それではこの乱世は生き抜いていけないのだ」


 軍団長は悲しげに俺を見る。しかし俺は揺るがない。


 たとえば、姉ちゃんの大好きな信長なら、なんのためらいもなく弟を討つだろう。しかし、俺はごく普通の人間なんだ。弟を殺してまで権力なんていらない。


「乱世なんて生き抜かなくていい。俺は団長と仲良くスローライフを過ごしていければいいんだ。子供は四人。自然の中でみんなでバーベキューしたり、釣りをしたりしながら暮らしていくんだ。考えてみれば、俺は父上と喋ったことがあまりない。国王は忙しいから仕方ないけど、俺は団長とのジュニアと触れ合いたいんだ! だから国王になんてならない! あなたの謀反は俺が止める!」


 結婚通り越して、新婚どころか子供の話になっちゃった。


 ていうか、ここに来て展開が急すぎて付いて行けないんですけど。団長の刻印見て、告白され、破局し、ストーキングして。団長のお屋敷に来てからは、団長が桃太郎であることを告げられ、次に謀反のお誘い。


 そんな時だった。ドアの外から侍従の慌てふためいた悲鳴のような声があがる。


「殿下……ッ! 殿下といえどもそのような無礼は……ッ!」


 ドアをバーン、と開けて入ってきたのは、ラスボスのような甲冑とマントを身にまとったアレックスだった。

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