第37話 桃から生まれた桃太郎

 奥の間に通されると、鉄の大きな鍋が中央で鎮座している。その横には大きな桃。フルーツにしてはでかい! しかも切られていない、まんまの状態の桃だし。


 一応客人である俺を上座に座らせてから、統括軍団長は腰を下ろす。その横には、とまどうような表情の団長が座る。


「給仕を入れるわけにはいかないのでね。訓練の最中に仕留めたシカを鍋にした」


 シカ鍋か! さすがは武門の名家。野戦味溢れる食卓だ。軍団長が俺に鍋をよそってくれて、ワインも注いでくれる。


「お、おちち――いえ、閣下、私が注がせていただきます!」


 義父上と呼ぶのはまだ早い。そう呼ぶのはこの会の最後でよいのだ。慎重に軍団長のワインを注ぎ、団長にも注ぐ。客とはいえ、俺は未来の義息子なのだから。


 軍団長は俺を満足げに眺めた。


「ところでダスティン殿下。ハチワレ団での生活はどうかな?」


「最高に楽しいです! 強い方がたくさんいますし、訓練が楽しみすぎます」


 ユージンのような暑苦しい回答を返す。体育会系のオジサマはこの手の答えが好きだろう。


 軍団長はちらりと団長を見る。


「リオ、お前はこのダスティン殿下をどう思う?」


「へ? ど、どうとは? いい子ですけど」


 団長が少し頬を染めながら、とまどったように返す。


「いい子――それは、部下として可愛くていい子、なのか、その、そうではなく、部下ではなく、その――」


 なんだか妙な空気だ。もしかすると軍団長は俺達の関係(関係といえるのか謎だが)を気付いている? 俺は特に根回しなんてしていないのだが。


 そこでハタと気付く。俺は悪役令嬢に「リオ団長が好き」と伝えてあったのだ。その時彼女は、「男色家になったと国王に伝える」と言ったではないか。俺の男色家、いや、リオ団長が好き、は王都中に広まっている。


 そして俺は王太子ではないが、第一王子だ。ハミルトン侯爵家にとって、悪い縁談ではない。それに、軍団長とは子供の頃からの付き合いだ。軍団長は俺との結婚を後押ししてくれるのか?


「ぐ、軍団長閣下! 俺、いや、私は、リオ団長のことが好きです。大好きです。閣下やお兄様からどんなにぶん殴られても構いません! リオ団長と結婚させてください!」


 勢いにまかせ、一気にそう言って頭を下げた。


 しーんと静まりかえる。部屋には鉄鍋がぐつぐつと煮えたぎる音だけが響いていた。



「リオ――」


 しばらく経ってから、軍団長は重苦しく口を開いた。そして意味不明なことを言う。


「お前はこの桃で川を下り、川遊びをしていた亡き妻に拾われたのだ」


 テーブルの上に鍋と並ぶ巨大な桃を指差す。


「桃の中には手紙が入っていた。どうか、政略結婚をさせるのではなく、この子が本当に好きな相手が見つかるまで見守ってほしい、と。その時、この子には意味のある力が宿るはずだから、と」


 俺も団長も目が点の状態で、テーブルの上の桃を見つめる。


「しかし我が家も一応は上位貴族。一人しかいない娘を貴族連中が放っておくわけがない。そこで、私は妻と相談し、お前を次男として育てることにしたのだ。男として育てれば、誰にも疑問を抱かせずに剣の手ほどきもできる。お前には強さも必要だと感じたのだ」


 軍団長は桃をそっと持ち、中から一通の手紙を取りだした。


「お前のお母上は、亡国となったツノウミヤ皇国の皇帝陛下だ。そんなやんごとない姫君をどう守っていけばいいのか、私達は悩んだ。このことは、私と妻以外知らない」


 手紙を読む団長の手が震えている。目に涙を浮かべていた。


「――ダスティン殿下、この手紙には、リオが本気で好きになる人物が現れた時、リオの身体に刻印が宿ると書いてあった。私はどこかで確信していた。リオは殿下かユージン君、どちらかを気に入るのでは、と。だからあなた達をハチワレ団の第八騎士団に放り込んだのです」


「そ、そんな前から……それに、ユージンも? なぜ――」


「二人がリオが宝物のように持っている、薄い本の登場人物に似ているからだ」


「閣下!!! あの本を読んだのですか!?」


 えっと。


 どこからどうツッコミを入れていいのかわからない。団長が桃太郎なのもそうだし、軍団長のようないかついオッサンが、ボーイズラブの本を読んでいるというのもそうだし。


「それだけじゃない。私はあなた以外の王族や公爵家の子息の剣の指南もしていた。その中で、一番あなたの剣が綺麗だった。単に強いというだけではなく、人間性の確かさを感じたのだ。だから、リオがあなたを好きになることを願った」


「閣下……」


 確かに、めっちゃいい子だと言ってくれた。だから庇ってくれた。俺の目にも涙が溢れる。


「お義父上とお呼びしても……?」


 しかし軍団長は、それにはすげなく返す。


「――今のはすべて私の願望だ。リオはどうなんだ? リオが好きではないのなら、この話はなしだ。正直、嫁にはやりたくない!」


 えぇ~~~~!! 嫁にやりたくないって! もうどっちなんだよ、義父上!


「父上……」


 団長は涙を拭う。そしていきなり飛躍したことを言いだした。



「僕を勘当してください」

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