Heart Words

憧宮 響

Heart Words

「うーん、どんな言葉がいいかな・・・」


詩海うたみはおおいに悩んでいた。

今度の詩の公募。

それに出す詩を書いているのだ。

ついには机に突っ伏し、短い髪が散らばった。


「悩んでるな」


そう笑いながら「ほい」とノートの横にコーヒーを置いたのは、幼馴染の秋介しゅうすけだ。

突然顔の距離が近くなり、詩海はどぎまぎする。

彼の天パの茶髪が、わずかながら頬に触れる。


(こーゆーとこっ・・・ホント、憎らしいんだからっ・・・!)


なんせこの秋介、詩海にとって幼馴染であると同時に、片想いの相手でもあるのだ。

容姿は普通なのだが、性格が底なしに明るく、さりげない気遣いができる。

そして共に通う高校では密かに「大型犬みたい」と人気なのである。

そんな彼への想いが、詩海が詩を書き始めたきっかけ。

自分はごく普通の女子で、とくにいいところなんてないしな、と勇気が出なくて、想いを告げられない代わりに、せめて、どこかに彼への想いを吐き出す場所がほしかった。


「・・・お、この表現、オレ好きだわ」


秋介は嬉々として、その部分を読み上げる。


『名前のない

小さな天使だけれど

あなたの天使でありたい』


「健気っつーか、すっげーかわいい」


無邪気な彼を見て、思わず詩海は苦笑してしまう。


「何だよ?」

「いや、なんでもない」

「変な奴」

「いいでしょー」


言って、また創作活動に戻る。


(こいつ、一生気づかないんだろうなぁ)


愛しさと諦めが、心に湧き上がる。


ー全部、あんたへのラブレターだよ。バカ。



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Heart Words 憧宮 響 @hibiki1003

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