3.ユーリ・セインツ・ドラゴンブラッド 1
1、2、3話の連続投稿しておりますので見逃しが無いよう注意して下さい
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救世主様、いえ、マット様に!! もうすぐお会い出来る!!
私の心は弾んでいた。
9才の時に女神様の託宣を受け、それから女神様のやりとりを中継する役割となり、関わりを持つようになった救世主様。
昔からずっと気になっていた。救世主様はどのようなお方なのだろうかと。
武闘大会で優勝を目指せるほどの強さを持つだけでも凄いのに、貴族でもないのに言葉遣いもちゃんとしていて、考え方も同じような年齢とは思えなかった。
それに、なぜかは分からないけれど、きっとマット様なら優勝出来る、そう思えた。
救世主様への憧れから、力になりたくてより厳しい鍛錬をした。
聖魔法を使いこなせるように勉強して実践し、救世主様の隣に立って戦えるように剣術も鍛えた。
聖魔法はぐんぐんと上達し、王都では竜の聖女と呼ぶ人もいるという。
剣術も、今では王国騎士を相手にしても負けないくらいにはなっていた。
それもすべて聖竜の血のおかげだろう。
昨日、武闘大会を観戦した。
長年言葉を交わすだけで、想像するだけだった救世主様、マット様をこの目で拝見出来るのだ。
私の心は朝からふわふわとしていて、楽しみで勝手に顔が
観覧席から見るマット様のご尊顔は、私がイメージしていたものを超えていて、涼し気な碧い瞳と、きらきらと綺麗な金髪で、風になびく髪をかき上げる様は1枚の絵画になるんじゃないかと思うほどに美しかった。
そんなマット様の強さは魔族を上回り、そして師匠、あの『聖ブリーズ』に参ったと言わせるほどのものだった。
特に魔族をあっという間に切り捨てた時の冷たい表情はゾクリとして、それまでの優しげな表情も格好良かったのに、それとのギャップで、格好良さが何倍にも跳ね上がっていた。
剣術を嗜んでいる私から見ても、その強さは間違いなく王国で一番だと思う。
隣に立って戦うつもりなら、もっと鍛錬が必要だなと思わされたけれども。
そして今日はマット様が優勝者として父から褒美を賜る日で、そのためにマット様は今、王城の控室で待機しているという。
だから父に、国王にお願いして、王の謁見への案内役をかって出た。
1秒でも早く控室に行き、マット様と話をしたい。
だけど駆け出したい気持ちを我慢し、お付きのメイドたちと一緒に歩いてようやく控室の前についた。
扉の前で高鳴る鼓動を抑え、呼吸を整え、ノックする。
メイドが扉を開け、お辞儀をして挨拶をする。
本来なら武闘大会の優勝者だからといって頭を下げるような事はしない、だけど、マット様は特別だ。救世主様なのだ。そして私はマット様に深く敬意を払っている。
「マット様、クリストファー様、失礼いたします。お初にお目にかかります、わたくしはユーリ・セインツ・ドラゴンブラッドでございます」
挨拶口上を終え、顔を上げるとそこにはマット様の碧い瞳が、私をまっすぐに見つめていた。
◇◆◇
マット様と目を合わせた瞬間、激しい頭痛に襲われた。
頭がかき回されるような、だけどそれは物理的な痛みじゃなく、何かを思い出すような、記憶が渦巻いて呼び覚まされるような、そんな感覚だ。
なだれ込んでくるのは、女神様とお会いした記憶、そして何か、今とは違う別の世界のような記憶、そこで強くイメージされるのは、1人の男性、名前は
その男性とは幼い頃からずっといっしょで、そして強烈に、心に、魂に刻み込まれていた。
私にとってその人は、何よりも大切で大事な……親友だった。
――そうか、うん、全てを思い出した。
頭の中を荒れ狂う記憶の渦が静まり、頭痛のようなものが収まった。
前世の記憶が私の記憶と混ざり合い、1つになった。
私はマット様に、いや、ヤマトに、第2の生をこの世界で貰ったんだ。
病気で死んでしまった私に、また一緒に生きよう、と女神様に願ってくれたんだ。
そして私も、前世の最後はヤマトの事で頭がいっぱいだった。だからまた、ヤマトに会いたいと強く思っていた。
こちらの世界で生まれ変わる前、女神様と直接話をした事を思い出す。
私とヤマトの強い友情の
そして私、
ヤマトと再会を果たすために、女神様は私に魂を視る力を与えてくれた。
だから目の前にいるマット様が、ヤマトの魂を持つ者だという事が分かる。
顔が違っても、背格好が違っても、私には分かる。こいつはヤマトだ。
私の大好きな、また会いたいと強く願った、ヤマトだ。
ヤマトを目の前にした私は、この再会で湧き上がる感情を抑えきれそうにもない。
――だけどその前に。
私は謝らなければならない。
ごめんなさい。私の恋心。
こいつは、ヤマトは、私の大事な大事な、かけがえのない大親友なんだ。
今はまだ誰にも、自分の恋心の火種にさえ、ヤマトは渡せない。
◇◆◇
「ヤマトッ!! 会いたかったッ!!」
感情を抑えが効かなくなり、夢中でヤマトに飛びつき、抱きついた。
ヤマト!!ヤマト!!
本当に、会いたかった!!
「え!? あ、あの、 ユーリ王女?」
ヤマトはいきなりの行為に驚き、戸惑っていた。
だけどそんな事はお構いなしに、私は強くヤマトを抱き締め、ヤマトを感じるのに夢中だった。
「ユーリ様!?」
突然の事にメイドは驚いていた。
メイドだけではない、その場にいた全員が私の行動に驚きを隠せなかった。
「ヤマト!! 本当にヤマトなんだな。ありがとう!!」
「え?……え!? ヤマト? なんでユーリ王女がその名前を……?」
まだ気付かないのか。全く鈍いなあヤマトは。
前世の名前で呼ぶやつなんて、神月悠里以外に誰がいるというんだ。
大体お前が私をこの世界に呼んだんだぞ。
「ヤマト、本当に分からないのか? 私は――」
思わず自分は神月悠里だと言いそうになって、慌てて止めた。
ヤマトと二人きりならともかく、今この場で神月悠里だと言うのは不味い。
メイドもいるし、ヤマトの師匠もいる。なにより女神との約束で転生者だとバレてはいけない事になっているんだった。
「し! 失礼しました!! 私、マット様の大ファンになってしまいまして、それで思わずはしたない真似をしてしまいました!! 申し訳ありません!!」
取り繕うように慌ててヤマトから離れた。
ヤマトも他の人たちも事態を余り飲み込めていないようだ。
「……えーと……ああ、気にしないで下さいユーリ様。大丈夫ですから」
ヤマトはよく分かっていないながらも、それでもフォローを入れてくれた。ヤマトのそういうところが良いところなんだ。
「そ、それでは、国王陛下の御前へ案内致します。ついてきて下さい」
気を取り直し、メイドたちと一緒にヤマトとクリストファー様を案内した。
◇◆◇
謁見の間の大きな扉を衛兵が開け、私と、その後ろにヤマト、クリストファー様がついて入っていった。
私は王族が並ぶ列に並び、ヤマトたちはゲイル国王の御前で片膝をついて頭を下げた。
「マット・アンス・ヤシン、
「お褒めに預かり光栄でございます、国王陛下。 父ライアンと母ジョアンナは元王国騎士と元宮廷魔術師、幼いころから英才教育を施されてきました。それに加え、10才からはクリストファー師匠の元で剣術を叩き込まれております。さらに私にも大きな目的があり、血の滲むような努力をした結果でございます」
聞けば聞くほど極上のサラブレッド、それに加えて女神の力の一端も授かっているなんて、流石世界を救うためにこの世に生を受けただけはある。
「うむ、確かにその3方であれば優秀にもなろうと言うものか。してマットよ、その目的とはなんだ」
「はい、私の目的とは ――魔族の長の討伐でございます」
その言葉に、謁見の間はどよめいた。それはヤマトが途方もない事を言っている証でもあった。
魔族の長の討伐は、非常に難しい、いや、現状の王国の全戦力でもってさえ不可能と言われているほどの事なのだ。
そしてヤマトにとって世界を救う事とは、魔族の長の討伐なのだろう。
「これは大きく出たな……。 確かに魔族の存在は我が王国でも頭を抱えている問題ではあるが……本当に出来ると思うか」
「はい。 私と師匠、そして何人かの仲間……。――国王陛下、本日は一つだけ願いを聞いて、褒美を頂けると聞いております。それは間違いありませんか?」
「うむ。とはいえ聞けない願いもある、魔族の長を倒して欲しいという願いは残念ながら聞けんぞ」
「大丈夫です、そちらは私がやります。 そしてお願いとは……第3王女、ユーリ様を魔族討伐の一員として、加えさせていただきたく、何卒お願いします」
!?
今度は謁見の間に緊張が走った。
それはそうだ、ただでさえ無謀とも言える目的、そこに第3とはいえ王女が欲しいと言われて眉をひそめない者はいない。
そしてそれは、普通に考えれば通るはずの無い願いだった。
私は女神様からヤマトの目的は世界を救う事だと聞いている。そして私にはそれをサポート出来るだけの器を用意しているとも言われている。
だけど女神様に頼まれたからとか関係無く、私は自分の意思で、ヤマトの力になりたい。
とはいえ私は王女の身、自由に行動する事は許されない。常にお付きの者がついてまわる、それではヤマトの力になるどころか邪魔になる。
城を抜け出してついて行っても、私が何と言おうとヤマトがお尋ね者になってしまうだろう。
いくら考えても私には良いアイデアは思い浮かばなかった。
しかしヤマトは、それを正面から国王にお願いするという行動に出た。
流石に思いつかなかった、というか、通る願いとは思えなかったからだ。
それを聞いた国王は、先ほどまでの雰囲気とは打って変わり、ドスの利いた声で応えた。
「マットよ、自分が何を言ったのか分かっているのか? ……
「本気です。私の目的達成には、他でも無い、ユーリ様が必要です」
ヤマトも父の圧に負ける事無く、正面から受け止め、はっきりと言いきった。
ヤマトが私を求めている事は嬉しい、嬉しいのだけど、その理由が分からなかった。
確かに聖魔法も剣術も鍛錬し、この王国においては優秀な部類だ。だけどその事をヤマトは知らないはず。
先程もヤマトは私が神月悠里だとは気付いていない様子だった。
ではなぜ? 分からない。
しかしこの願いは通らないだろう。
優勝者程度に第3王女を預けるなんて、ありえない。
そう思っていたら、思わぬところから援護の声が上がった。
「良いではありませんか陛下。今回の武闘大会は過去に無いほどに非常に高いレベルでした。間違いなくマットは近年の王国で随一でしょう。そして魔族の長の討伐は無理でも、しっかり喧伝し、魔族をある程度でも討伐出来れば、そこに一緒に王族が加わっているという事実は国の
彼は第1王子のダレン、少し年の離れた私の兄だ。
魂胆は分かる、私の排除と王族の名声向上だ。
聖竜王国は、聖竜と人間の女性が祖になって作られた国で、代々の王族は聖竜の血により聖魔法が得意で、身体的にも優れていた。それがドラゴンブラッドの元だ。
そして、その性質上、戦いにおいては王族も前線で戦い活躍し、威を示す事が必要とされていた。
それこそが聖竜王国が軍事的強国だと内外に示す証でもあった。
そういう意味ではヤマトが唱える魔族の長の討伐に王族が加わるというのは大きな意味を持つ。
王族に関わりの無いどこかの勇者が倒しました、では国の威厳が失われるのだ。
この場にいる王国関係者は私を除き、魔族の長の討伐など不可能だと思っている。そして私は第3王女、つまりもし目的半ばで失敗して死んでしまっても王国にとって大きな損失にはならない。どころか、ある程度でも結果をだしていれば英雄的行為だと称えられ、王国の威厳が守られる。
王国からすればメリットしかない。
それに加え、ダレンにとって王位継承者争いの相手は少ない方が良い。
むしろ失敗して欲しいとすら思っている事だろう。
そういう計算の元、ダレンはヤマトに賛同したのだろう。
「ユーリを討伐に同伴させる事は私も良い案だと思います。それにマットは現れた魔族も簡単に打ち倒しました、きっと素晴らしい働きをしてくれるでしょう。 国にとってメリットがあるのは当然ですが、その方と一緒に旅をする事はユーリ自身にとっても良い経験になると思います。ユーリ、頑張ってきなさい」
彼女は第2王女のローラ、私の姉だ。
以前は優しい姉だったのだけれど……。考えている事はダレンと同じ、まあ、王族兄弟なんてそんなものだ。
「ふむ……しかしな……」
ゲイル国王は顎髭を撫でながら考えていた。
残るは国王陛下のみ、父は兄弟の中で一番私の事を可愛がってくれていた。
むざむざ死地に向かわせたくないのは親心だろう。
「ユーリよ、お前の意見はどうだ」
ここで私が行きたくないと言えば、ヤマトの願いは却下されるだろうか。
だけど、父には申し訳ないが、私の心は決まっている。
「はい、陛下。 私は。 ――ユーリ・セインツ・ドラゴンブラッドは、マット様と共に魔族の長を討伐し、必ず帰って参ります。お任せください」
そう応えると、ダレンとローラはほくそ笑んだ。しかし、ゲイル国王は少し残念そうな表情をして、こう言った。
「そうか……ユーリがそこまで言うなら止めはすまい。 ――マットよ、聞いた通りだ。褒美として、ユーリ王女の旅の同行を許そう。必ずや魔族の長を討伐してみせよ!!」
「はい、必ずや」
とうとう国王ゲイルの許可がでた。内心は飛び跳ねたい気持ちで一杯で、喜びに満ち溢れている。
これでまた、ヤマトと一緒にいられる!!
「うむ。では下がって良い……いや待て。 ――クリストファー、いやクリスよ、王国に戻る気はないか? もし戻れば騎士団長と男爵位を授けるつもりだ」
最後に、クリストファー様へとゲイル国王は声を掛けた。
クリストファー様は以前、王国騎士でその特段の強さで活躍していたが、貴族からの勧誘とそのイザコザに巻き込まれ、騎士を辞していたのだ。
そしてそのクリストファー様は、国王の誘いにこう応えた。
「申し訳ありません陛下。私には不詳の弟子がおりまして、その弟子は生意気にも魔族の長討伐などと寝言を言っておるのです。私はその寝言を、現実にする助けをしようと今、決意しました。陛下のお誘いは真に嬉しいのですが、そちらを解決しない事には何事も手につきません。そちらが解決したらまたお誘いください」
クリストファー様は一礼し、謁見の間をヤマトと共に退室していった。
◇◆◇
「振られてしまったな」
父はそう呟き、落胆していた。
しかしすぐに切り替えて私に向けて言った。
「ユーリよ、本当に良いのだな? 今ならまだ取り消すことも出来るが……」
「はい、私の決意に揺らぎはありません。必ずやマット様と共に、王族として立派に魔族を討伐して参ります」
「……そうか、そこまで言うならもう何も言うまい。……ではアレを持って行くが良い、必ずや力になるであろう」
そうして父は、少しでも旅が手助けになれば、と国宝の一つである竜の紋章が入った剣と盾を持たせてくれた。
「父上、ご配慮ありがとうございます。……それでは、行って参ります」
こうして私は謁見の間を出て準備をし、上機嫌でヤマトの待つ控室に向かったのだった。
親友を転生させたら竜の王女だった件 エイジアモン @eijiunknown21
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