親友を転生させたら竜の王女だった件

エイジアモン

1.~序章1~

異世界ファンタジーTS恋愛、8作品目の新作です!

よろしくお願いします!!


1、2、3話の連続投稿しておりますので見逃しが無いよう注意して下さい

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 10層に積み重なった、はちみつがたっぷりと塗り込まれ、甘く作られたパイを、口を大きく開けてかぶり付いた。

 両親はその様を固唾かたずを飲んで見守り、咀嚼し、全て飲み込むと同時に拍手し、祝福した。


「誕生日おめでとう!! これでマットも10才ね!」


「おめでとうマット。もう10才なんて、あっと言う間だったな」


「ありがとうお父様! お母様!」


 これは聖竜王国に伝わる誕生日の儀式のようなものだ。そしてこれは成人に、15才になるまで行われる。

 前の世界で例えると年の数だけのローソクの火を吹き消すのがそれに当たるだろうか。

 優しく厳しい両親に愛情たっぷりに、両親が持つ全てを注ぎ込まれ育てられていた。

 おかげでよわい10にして両親を除き、村で一番の剣士、そして魔法使いになっていた。


「今回はこれだけじゃないぞ、お前に剣術の先生をつける事にした。明日には来るはずだ」


「先生? ……それはお父様よりも強いのですか?」


 父は元王国騎士で、さらにその中でも高い地位にいて、強かったらしい。

 今でも村近辺に出没した魔物討伐や盗賊撃退時にはリーダーとして先頭に立って戦い、指揮しているという。

 現役を退いたとはいえ、この村では群を抜いて強い。

 そんな父に師事を受けているオレからすれば、半端な実力の師匠など不要だと思うのだが。


 ちなみに母も元宮廷魔術師で実力も相当なものだったと聞いた。

 毎日魔法の訓練を受けていて、そこらの魔法使いよりは上のつもりだ。


「ああ、今の実力ならあいつの方が遥かに上だ、気を引き締めるんだぞ。まお前ならそんな心配も要らないとは思うがな」


 父はそう言って、オレの金色の頭を撫でて笑った。

 この大きな手で撫でられるのが大好きだ。

 ごつごつとして、そして暖かく、大きな手のひらは頼もしく、父の愛情を感じさせる。

 そういう親愛の情というものが、2度目の人生でやっと分かるようになった。


「お父様がそこまで言うなんて……それは凄いのでしょうね」


「剣の腕は王国一番だった。きっとあいつの事だから今はさらに凄いだろう。昔は魔法関係はからっきしだったが、それも今は分からないな」


 父の口ぶりからすれば相当に強い事が伺える。

 それだけ強いのであればオレがさらに強くなるには絶好の機会だろうし、楽しみだ。


◇◆◇


「ライアン殿、お久しぶりです。クリストファーです」


「来たな、クリス。……ってなんだお前その格好は、もうちょっとましな格好をしろと伝えたはずだがな」


 誕生日の翌日昼過ぎ、その男は現れた。

 全く手入れされてないヒゲ面に加え、ボロ布をまとった姿はまるで浮浪者のような出で立ちで、眉をしかめずにはいられなかった。


「いやまあ、丁度魔物討伐に出ていて、急いで終わらせて来たので準備を整える時間もなかったんですよ。それに貴族連中ならともかく、ライアン殿のご用命とあれば遅れるわけには行きませんのでね」


「全くしょうがないやつだ。――まあ身なりは後で整えて貰うとして、紹介しよう。息子のマットだ、よろしく頼む」


 やりとりを見る限り、どうやら父とは良い関係を築いているようだ、であれば敬意を払わねば。


「紹介に預かりましたライアンの息子、マット・A・ヤシンです、よろしくお願いします」 


「……ライアン殿、本気ですか? 見たところまだ10才前後ってとこでしょう?」


 挨拶をしたというのに、それを無視してクリスと名乗る男は父に向かって言った。

 しかし父は、その言葉に大きく頷き、自信満々に返した。


「一度手合わせして見れば分かる」


「……まあライアン殿がそこまで言うなら……怪我しても知りませんよ。――来な、坊っちゃん」


 余りに父が自信満々に応えたからだろうか、男はやれやれといった風に応え、挑発した。

 剣も抜かず、荷物も降ろさず、構えず、明らかにオレを舐めていた。

 だがその立ち姿からは父と同じく、歴戦の威圧を感じた。


 手に持つ木剣を抜き放つと同時に右足を踏み込み、同時に右から切りつけた。

 男は素早く後ろに下がって最小限の動きで木剣を躱したが、その表情は驚きを表していた。


「思ったより、いや、相当やるじゃないか。ちょっと待ってくれ」


 男は大きく手を広げ、待ったをかけた。

 オレが構えを解くと、男は荷物を下ろし、ボロ布を脱ぎ、指をペロリと舐めて、腰の剣に手をやった。


「先ほどは失礼した。俺の名はクリストファー・ブリーズ、クリスと呼んでくれ。それと俺にお硬い言葉使いはいらねえ。さ、打って来い」


 クリスは剣を構えた。


「――分かったよ、クリス」


 言い終わるやいなや、オレは踏み込み、打ち込んだ。


◇◆◇


「よし! そこまで!」


 父の言葉により、手合わせは終わりを告げた。

 結局、数十回を打ち込み、その全てを回避もしくは剣で受け流される結果に終わった。


「一度も……全然歯が立たなかった……」


 大きなショックを受けていた。

 最近は父にも5回に1回は有効打を放つ事が出来るようになって、強さを実感していたというのに、ここまで全く歯が立たない相手なんて、いるはずが無いと思っていたからだ。


「ライアン殿、とんでもない逸材だぜ坊っちゃん、いや、マットは。一体どんな訓練をしたんです?」


「別に普通だよ、ただマットは一言で言うなら天才だ。天賦の才、いや、神の授かりものとすら思うよ」


「本当にそうかも知れませんね、サラブレッドに加えて神の授かりもの、これは王国を救う事になるかも……。 よし、マット、今日から俺が剣の師匠になってやる、早く強くなって俺を超えろよ」


 焦燥感にさいなまれているオレを他所に、父とクリスは盛り上がっていた。


「今は歯が立たなくても気にすることは無い、なんせ俺は王国一番の剣の使い手だからな。さあ立てマット」


 クリスはオレに手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます」


 手を取り、立ち上がった。

 あらためてクリス、いや、師匠を見る。

 今は全く及ばないが、大人になる頃には勝てるようになってみせる。次の目標は師匠を超える事だ。


「よろしくお願いします。師匠」


 オレは決意を新たにし、師匠に頭を下げた。


「ああ、よろしくな」


 師匠はオレに向けて拳を突き出した。

 オレも拳を突き出し、師匠と拳をコツンと合わせるのだった。


◇◆◇


 その日は夕食を終えた後、母に魔法の訓練を受けた。

 これは日課で特筆すべき事ではないのだが、問題はその後、さらに新たな出来事が起こった。


 寝るための身支度を終え、ベッドに入った時、突然頭の中に声が聞こえてきたのだ。


「――コホン。 ……聞こえますか? あなたは選ばれし者、女神の御使みつかいで間違いないですか?」


 若い、いや、幼いと言ったほうが正しいだろうその声質、まるで子供の声が頭の中に直接聞こえた。

 ただその幼い声はりんとしていて、育ちの良さのようなものを感じとる事が出来た。


 周りを見回したが誰もおらず、外にも気配は無い。

 となるとこれは……女神の御使いとか言っているし……女神の仕業か?


◇◆◇


 ――オレは転生者だ。

 元の世界のオレ、平々凡々へいへいぼんぼんな高校1年生、源道 大和げんどう やまとは突然この世界の女神に召喚された。


 この世界はこのままだと滅ぶという事が確定してしまう、それに対抗するために召喚されたという事だった。

 言うには神でも世界に直接関与する事は出来ず、別世界の住人から最適な魂を持つ者を選別し、事に当たらせるとの事だった。そしてオレに白羽の矢が立った、というわけだ。

 その者に神の力の一端を授ける事で世界を救おうとしていると言う。


 つまりチート能力を授けるからオレに世界を救って欲しい、と女神に頼まれたわけだ。


 突然召喚されたので元の世界でのオレの身体はどうなっているのか、と聞いてみると、心臓停止で死んだ事になっているという。

 突然元の世界を終わらせられ、世界を救う使命を与えられたわけだが、女神とはいえそんな勝手な話があるか、といきどおった。

 女神はそれをうけて、当然ただではなく、前世で最も強く願った事を叶えると言った。


 前世で強く願った事、それは1つしか思い浮かばなかった。

 その願いとは


 『親友を生き返らせて欲しい』


 それだけだ。


◇◆◇


 中学3年までオレには1人の親友がいた。 

 その男の名は神月 悠里かみつき ゆうり、あだ名はユーリ。

 幼稚園から一緒で、小学中学と偶然にもずっと同じクラスで近所で、親友だった。


 ユーリは運動神経抜群で、勉強も出来て、背も高く、格好良くて、中学ではバレー部のキャプテンだった。

 オレはというと、どれもそれなりで、3年にレギュラーになれる程度のバレー部員。

 だけどオレたちはいつも一緒で、遊んで、部活して、勉強もした。

 オレにとってユーリは、親友だけど尊敬の対象で、憧れで、目指す目標でもあった。


 中学3年の秋になる頃、同じ高校に行こうと話し合い、合格しようと約束した。オレの偏差値からは厳しいけど、努力して受かるとユーリと約束した。ユーリと離れ離れにならないために。

 ヤマトなら出来るよ、とユーリは言ってくれた。

 ただこれはユーリの口癖で、いつも「ヤマトなら出来る」と言うんだけど。

 オレはユーリに追いつこうと猛勉強を始め、ユーリもそれに協力してくれた。


 そして雪が降り出す頃、ユーリは突然入院した。

 オレは猛勉強のかたわら、毎日のように病院に面会に行き、ユーリと話をした。


 始めは学校に行っていた頃と変わらぬ顔をしていたが、一月も経つ頃には痩せ細っていった。

 ある面会の帰り、ユーリの母親から声を掛けられた。

 いつも面会に来てくれてありがとう、と感謝を述べられ、オレもユーリが心配なので、と返した。

 それがいつものやりとり、いつもの光景だった。


 だけどその日は、様子が違っていた。

 ユーリの母親は何か言いづらそうにしていて、中々それを口に出来ないでいた。

 その様子を察したオレは、何かあったんですか?と訪ねたのだ。


 それをきっかけに、ユーリの母親は重い口を開いた。

 その時に始めて、ユーリが重病である事を知らされた。

 いや、正直に言うと、そんな気はしていた。

 日々具合が悪くなっていく様子が、痩せ、やつれていく様が見て取れたからだ。

 だけどオレが落ち込んではユーリが心配すると思い、気付かない振りをして、ユーリにいつも通り接していたのだ。


 しかし、オレが帰った後、いつもユーリは酷く消耗していたという。

 それはユーリがオレに心配かけさせまいとして、気丈に振る舞っていたからだ。

 だからユーリの母親は、オレにはもう面会に来ないように言う、とユーリに話したが、ヤマトにそんな事は言わないで欲しいとユーリに懇願され、ヤマトが来るから頑張れるんだ、と母親に言って、面会に来るオレの存在がユーリにとって心の支えになっていたという事にユーリの母親も気付いたという事だった。


 もうユーリが助かる見込みはなく、どれだけ保たせられるか、それだけの状態であるらしい。

 だからこそ、オレの存在が必要で、これからもお願いします。そうお願いされた。オレの返事はもちろん、言われるまでもないですよ、と返すのだった。


 それからオレは前以上に、それこそ面会出来る日は必ず向かい、ユーリと話をした、学校での話題、最近の流行り、そして、勉強は順調で一緒の高校に行けそうだという事。


 ほとんどオレが話してばかりで、ユーリは静かに聞いていて、時々相槌を入れる程度だったけど、楽しい時間と感じていた。

 時々ユーリが話してくれたその声はか細く、以前のユーリからは信じられないもので、オレの心臓は締め付けられるような思いだった。


 ただ、話が出来る時間は徐々に短く、時には1分も経たないで、ユーリは苦しそうに、だけど静かに首を振って面会が終わる事もあり、嫌でも終わりの時が近い事を実感させられた。


 ある面会の帰り際、ユーリは穏やかな笑顔で、静かに言った。


「ヤマト……ありがとう……」


 ――そして、終わりはやって来た。


 スマホにユーリの母親からメッセージが入っていて、家にも連絡があった。

 通夜、葬儀、そして、収骨にも立ち会わせて貰った。


 そこまでしても実感が無く、家に帰って数日が経ち、学校帰りにいつの間にか病院の前にいて、もうそこにユーリは居ないと気付いた時、ようやく押し寄せてきた。

 その時、オレは意味が無い事と分かりながら、神に祈った。

「ユーリを、オレの親友を生き返らせてください、何でもしますから」

 と。


 そんな神頼みで生き返るわけも無く、いつもの日常がそこにはあるだけだった。


 オレは、ユーリとの最後の繋がりである、約束を果たすためにさらに勉強した。

 そしてユーリと一緒に行くはずだった高校を受け、合格した。

 だけどそこには達成感など無く、ユーリとの約束が終わり、ユーリとの繋がりが終わったと感じて、虚しさだけがあった。


 それからは、スマホのユーリの写真に手を合わせ、会いたい思いだけが強くなる一方の毎日だった。


◇◆◇


 『前世で最も強く願った事を叶える』

 出来るのか!? 本当にそんな事が!?


 女神に問うた。

 もう一度、ユーリに会えるのか、と。


 女神は頷き、強い想いを受け取り、願いは叶ったと言った。

 あなたと、そして神月 悠里の想いに応えました。と。


 女神は続けた。

 2人が再会後も一緒にいられるよう、神月 悠里の魂の器は出来る限りのものにしました。

 あなたには及びませんが、目的達成には十分な力になるでしょう。

 それでは、世界をお願いしますね、と。


 良いだろう、ユーリと一緒なら最高だ。ユーリと一緒に世界を救ってやろうじゃないか!


 そして、気が付くとアトラン村のライアンとジョアンナの息子として転生を受けていた。


 ――と、こんな風にこの世界に転生してきたんだ。


◇◆◇


「あの、聞こえてますか? あなたは神の御使い様ですか? 聞こえていたなら返事をして下さい」


 おっと、前世と女神とのやりとりを思い出していてすっかり忘れていた。

 しかしこの問い掛け……返事をしていいものかどうか……罠だったりしないだろうか。


「あの、私、怪しい者ではありません。女神様から託宣を受けて、今日この時間、女神様から頂いた神具を使い、救世主と連絡が取れる、そう聞きました。お願いです、応えて下さい」


 いぶかしんで様子を見ていると、幼い声は弁明を始めた。

 女神の言葉、救世主……話を聞いてみる価値はありそうだと判断した。

 でもこれ、どうやって応えるんだろう、声に出す必要はなさそうだけど、意識をそちらに向ければいけるのだろうか。


「失礼しました、オレは多分その……女神に選ばれた者だと思います。それで、どんな御用でしょうか」


「救世主様ですね!! はい!! 女神様からのお言葉を預かっております。「成人したら王都の武闘大会に参加し、優勝しなさい」との事でした」


 おお、上手くいったようだ。

 オレが返事をしたら、その幼い声はパァっと明るくなり、嬉しそうに喋りだした。

 なるほど、この幼い声は女神の伝令役かな?


「分かりました。まだ10才を迎えたばかりですので成人するまで後5年ほどですが、十分に鍛錬してその武闘大会とやらにも優勝して見せましょう」


「救世主様は10才なのですね! 私と歳が近いです!」


 何が嬉しいのやら、女神の伝令役の声は弾んでいた。


「あ! 失礼しました! それでは救世主様、また女神様からの託宣がありましたらご連絡します。おやすみなさいませ!」


「はい、おやすみなさい」


 プツリと、まるで電話が切れるように繋がりが途絶えた。


 そうか、彼女からすればオレは救世主、言うなら英雄みたいなものだ、そんな人物と歳が近いならそれだけで嬉しいかも知れない。多分そういう事だろう。


 しかし救世主か、今は自分が強くなる事で精一杯だったけど、自分の役目を忘れないようにしないとな。

 それに女神もこんな風に定期的に連絡をくれるのなら、それは有り難い事だ。

 まあ向こうからすれば、間違った方向に行ってもらったら困る、という事でもあるんだろうけど。


 そんな事を考えながら眠りについた。

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