kaleidoscope

雛形 絢尊

未来予知漫談

やばい、やばい。

このままだとエセだと言われてしまう。

そうしたらこの芸能界で干されてしまう。

ここまできたんだ。

ここまでやってこれたんだ。

相方の助言も無視した上、周りの人を

払い除けてここまできた。

正確にはここまでこれたのだ。

今がチャンスだ。これを切り抜ければ

俺は芸能界で活躍できる。

このチャンスは見逃せない。

あっちにもこっちにも

テレビの向こうの人がいる。

期待されている期待されている。

俺は期待されてるからここにいるのだ。

周りとは違う周りとは違う。

俺は周りとは違うんだ、見とけ、一般人共。

おい、もう隣まで来てるじゃねえか。

みんなすげえ能力ばかりだ。

あのアイデアだけじゃここで終わりだ。

どうする?どうする?

俺、俺にできる能力ってなんだ?

おい、どうすればいい。嘘つけばいいのか?

まあ、芸能界なんてもんは

嘘で築かれてるに違いない。

俺も今日つくこの嘘で、世界を変える。

いや、俺の世界を変えるんだ。

それにしてもどうする。

すげえ、こいつ円周率全部言いあがったよ、

そんなことはできねえ、

下手な真似もできない。

どうする?どうする俺。

憧れの芸人さんもここにいる。

なんか熱がこもってきた。

ああ、できる気がしてきたぜ、

なんでもできる。

なんか思いついたこと思いついたこと。

思いついた物が武器だ。

やれそのまま、やれ。

『ターゴイズモンスター 

九辺さん、お願いします』

番が回ってきやがった、

まだ、まだ武器がない。

どうする、そのままやるか?

あれじゃしける。

しけてしまう。

『九辺って名字珍しいな』

そうだよそうだよ大御所さん、俺は珍しい、

全てを統べる芸人だ、大芸人だ。

『あ、もしかして、

喋れないのが能力ですかね』

違う違う、凡人は黙れ、黙っとけ。

言うぞ、

これだ、これが俺の能力だ。

「未来が見えます」

やべ、言っちまった、これ滑った?

もしかして滑ったか?

でもな、こんなことできるのは俺しかいない。

こんなことを有言実行するとも俺しかいない。

俺に構うなよ、構うなよ。

『え!すげえー!』

そうだそうだ、もっと俺に歓声を。

『やべえじゃん』

やべえだろ、やべえだろ、

もっと崇めろ、崇めたてろ。

言っちまったが、これと言ってはない。

どうする、何か思い浮かべろ、

今すぐ、今すぐだ。

『何か、未来が見えますか?』

くそ、あのアナウンサーが言うと思ったぜ、

むかつく、むかついた。

あのなんて名前だっけ、

久山、久山だ、むかついたな。

クソビッチが、

大物俳優に抱かれてるんだろくそが。

んー、なんだ、思い浮かべろ、思い浮かべろ。

これだ、これだ、これだ。

「久山さん、あなた今日死にます」

やべえ、今度こそしらけた、しらけた。

『うそつけー!』

そうだ、その通りだ。

『死因は?』

おいおいおいおい、

面白がって言うんじゃない。

んー、後戻りはもうできない。

「交通事故で」

人が死ぬ話題だぞ、こんな盛り上がるなよ、

失礼だが言ってしまった。

まあ、いい、これでいい。

よし、出番が終わった。



今日はいい日だった。

これで傷跡を残せたな、寝るか、よし寝よう。

今日は仕事をしたしな、仕事っていう仕事を。

明日からは人気者、オラは人気者ってな。

これでいい。これでいい。

ん?

電話だな、こんな時間にマネージャーか。

スピーカーにしてと。

『おつかれさまです』

『ニュース見ましたか?』

『久山さん、

ほんとに死んじゃいましたよ事故で』


♦︎


待て待て待て、俺は冗談を言ったんだぞ?

それと言うよりも思いつき、

思いつきを言ったんだ。

俺は悪くない悪くない。

『でもすごくないですか?

なんでこんな能力隠してたんですか?』

俺だってそんなこと知らないよ、

偶然だ、偶然彼女は命を落とした。

その偶然の日だったんだ。

まてよ、おい待てよ、

これをお金にできないか?

いや出来るとも、テレビにも引っ張りだこだ、

これを使おう、ああ、これを使おう。

しかしながらデメリットも多い。

下手したら疑われる。

俺が殺したってことになる。

いやいやいや、俺だけの個性だ。

その疑った奴を殺せばいい。

そんな単純なもんだろ?

殺せ殺せ、俺に従うんだ。

「ああ、隠していたさ」なんてことで

カッコつけてんだ。

よし、ネットの声を見てみよう。

『新世界の神現るw』いいねそうだよ、

おれはいずれそうなる。

『やばい新興宗教作れそう』

そうだ俺は教祖にもなれる。

『ねえ、九辺さん、

明日の予定取材ばかりです』

そうだ、いち早く俺を青田買いしろ。

いいんだぜいいんだぜ、

俺をとっととテレビに出せ。

俺をどんどん売るんだ。


♦︎


よしよし、次の取材だ、

こんなにも世間の声が聞こえるとはな。

過去最高に仕事をしてる。

俺は未来を見ることが出来るんだ。

どんどんどんどんかかってこい。

まるで俺はVIP様かよ、底辺芸人さよならだ。

俺は成功者だ。次の取材は生放送?

なんでもいい。かかってこい。

あの芸人もあの芸人も、

届くはずはないと思ってた。

みろよ、俺は同じ舞台にいる。

1日前の俺、やってやったぜ。

こうやって俺はのしあがるんだ。

深々と頭を下げる。礼儀ってもんだろ?

これからお世話になる芸能界様よ。

やべえ緊張する。緊張してきた。

手の震えが止まらなくなってきた。

カメラと見つめ合う。

いやいやいやいや素人丸出しだ。

胸を張ろう。うん、胸を張る。

俺に振られるぞ、きた、目線がこちらに。

『昨日の特番で見事未来を当ててしまったターゴイズモンスターの九辺さんです。

よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

いいぞいいぞ、俺、

このまま芸能界でやってやるんだ、

やってやるんだぜ。

『未来が見えるようになったのはいつからですか?』

あー、お世話になってます。

子供の頃から見てました。なんて言えない。

うんうん、そうだ、質問だ。

昨日から、なんて言えない、

どうするか、どうするか。

「20歳の頃からです」

いっちまった、、これも嘘だ。

『どういった経緯で?』

聞かれると思った、経緯なんて、分からない。

っていうかなんでこんなことしてんだ俺は。

答えなきゃ答えなきゃ。

「突然、舞い降りた感じで」

ベタなことを言ってしまった。

どうするべきかどうするべきか。

後には引けない。後には引けない。

『他にはどういったことが見えるんですか』

やべえ、やべえ、全く考えてなかったよ。

落ち着け俺、落ち着け俺落ち着け。

『何か、見えてる未来はありますか?』

こうなったらヤケクソだ。適当に行こう。

「今からこのセットの一部が落ちます」

『うわびっくりした』

『本当に落ちたよ』

『すげえすげえ』

本当に俺は持ってる?

とんでもない力を持ってしまっているのか?


♦︎


「はい、どうも」

『一躍未来予知で有名になれたな』

大御所芸人のあの方である。

私はついにこんなところまで辿り着いた。

まさかの電話、

つい最近までは夢にも思ってもいなかった。

『でもな、それはひとときの合間や』

その言葉に釘を刺された。

確かにそうだ。

私の武器は今や未来予知だけではないか。

『本当に未来を見えているのか?』

私はその問いにひたすら悩む。

どう返すべきか。どう返したらいいのか。

「いえ、」

その言葉を発端に、私はまたも追いやられた。










『え、彼は嘘をついていたんですか』

そうである。翌々日の生放送で、

大御所芸人の彼がそのことを

打ち明けたのである。

私の元にいくつもの苦言や叱責が撒かれた。

どうして、そんなことをしたんですか?

そう聞く暇もなく、

私は芸能界の隅に追いやられた。

『どうして、そんなことをしたんですか?』

とインタビュアーに同じように聞かれた。

私は嘘をついていません、

そんなことも言えるはずがなかった。

ようやく出た言葉は。

「ある大御所芸人が亡くなります』











彼はその日のうちに息を引き取った。

心疾患のためである。

私はその力を悪魔と称し、

もうここまできたら

その力をそうしたことに

使わざるを得ないと思ったのだ。

それから私は一部のコミュニティで

教祖などと呼ばれることになった。

ある意味で新興宗教のような。

気に入らないものは、殺める。

そうしたことで私は世界を牛耳ろうとした。




















そう、私は今、板が抜ける台の上にいる。














「思い残したことは」

そう問われると割とないものだ。

最後の晩餐と呼ばれるものは

大好きなレトルトカレーを食べた。

やっぱり自分で決められるんだな。

こんな質素なもの皆頼まないだろう。

美味かった。こんなに美味しかったなんて。

売れていない頃を思い更けながら、

質素な食事を摂った。

これが最後。最後である。

私は売れた、売れたが死刑だ。

準備は整った。

ロープって、こんな太いんだっけ?

手汗がすごい。今生きてんだな。

しばらくするとこの心臓は止まる。

床を見ちゃダメだ。

それにしても不思議な人生だった。

まさか教祖になるなんて。

やり残したことはたくさんある。

何よりも色んな芸能人の仕事できてよかった。

俺は人を笑かすために

芸能界に入ったんじゃないのか?

思えば人を殺すために芸能界に入っちまった。

笑かしたい、笑かしたい。

あの頃を思い出させたい。

みんなが笑ってくれた景色を。

その目に添えて私は目を閉じた。

「ありがとうございました、

来世こそは芸人になります」

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