第18話 夢はかたちを変えて

 とある市場の片隅に、売れ残った食材たちが集まる棚があった。そこには、少し傷ついたじゃがいも、色褪せた白菜の葉、辛さが控えめなキムチ、そして骨付き豚肉がひっそりと並んでいた。彼らには一つの共通点があった。それは、自分たちが「役に立ちたい」という切なる願いを抱いていることだった。


 じゃがいもがため息をついた。

 「僕たち、こんな状態で誰かの役に立てるのかな。」


 白菜が葉を揺らして答えた。

 「夢を持つのは自由よ。でも、こんな私たちが奇跡なんて起こせるのかしら?」


 すると、空からプラーナの精霊が舞い降りた。

 「あなたたちは、自分の力を知らないだけ。夢は思わぬ形で実現するものよ。あなたたちにも、きっと特別な役割があるわ。」



 精霊の導きで、野菜たちは遠く離れた小さな家に届けられることになった。その家に住むのは、料理が苦手な青年ソウだった。ソウはいつも夢を追いかけていたが、なかなか結果が出ず、落ち込んでいた。


 「僕の夢なんて無理なんだろうな…。何をやっても上手くいかない。」


 そんなソウのもとに、野菜たちと豚肉が届けられた。精霊が耳元でささやく。

 「彼に、夢が叶う不思議さを教えてあげなさい。」


 じゃがいもがまず声を上げた。

 「僕が体を温めるよ。夢を叶えるにはエネルギーが必要だからね!」


 白菜が静かにうなずく。

 「私の役割は、心を落ち着けること。焦りを手放さないと、いい結果は出ないわ。」


 キムチが勇ましく叫んだ。

 「私のスパイスで、彼のやる気に火をつけてあげるよ!」


 豚肉が自信を持って宣言する。

 「僕は強い体を作る栄養を届ける。夢を実現するには、体も心も健康でないとね。」




 ソウは届いた食材を前に、半ば諦めたように鍋を準備した。

 「とりあえず煮てみよう…。どうせ失敗しても誰も気にしないさ。」


 しかし、鍋に火を入れると、不思議な香りが漂い始めた。それはソウの心に静かな希望を灯すものだった。


 鍋の中では、野菜たちと豚肉がプラーナの力を使い始めていた。じゃがいもは、煮えながらプラーナの温かさをスープに溶け込ませ、白菜は柔らかくなりながら優しさを広げていく。キムチは、鍋全体に活力の炎を灯し、豚肉がそれらを支える柱となった。


 精霊はそっと微笑む。

 「こうして力を合わせることで、人間の心に変化を起こすのよ。」




 鍋が完成し、ソウは恐る恐る一口食べた。驚きの表情が広がる。

 「これ、すごく美味しい!」


 その瞬間、彼の中で何かがはじけた。これまでの失敗への執着や結果に対する固執が溶け去り、純粋な楽しさだけが残ったのだ。


 「もしかして、夢を追うってこういうことなのかもしれない。結果を気にしすぎず、プロセスを楽しむことが大事なんだ。」


 ソウはその日を境に、夢への向き合い方を変えた。失敗しても、それを新しい挑戦のチャンスとして受け入れるようになった。そしていつしか、思わぬ形で成功を手にすることになる。




 ソウが鍋を食べ終わる頃、プラーナの精霊は野菜たちに語りかけた。

 「あなたたちの力で、彼は自分の夢を新しい形で見つけたわ。素晴らしいことね。」


 じゃがいもは満足そうに言った。

 「僕たちも役に立てるんだね。」


 白菜がしみじみと答えた。

 「想像もしなかった形で、誰かの役に立てるなんて不思議だわ。」


 キムチが声を上げる。

 「これからももっと多くの人に夢の味を届けたいな!」


 鍋の中のスープは、最後の一滴まで力強く輝いていた。それは、夢が思わぬ形で実現する可能性を象徴しているかのようだった。


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命を語る食材たち まさか からだ @panndamann74

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