第18話拠点での生活

 拠点を手に入れた翌日、調味料を探すため外に繰り出した私は森を歩き回っていた。

 だが、そう都合よく見つけられるわけもなく、時刻はすでに昼を回っていた。


 塩は海から取れるってのは知ってるけど、そもそも調味料って森にあるのか?

 そういや岩塩って地殻変動によって陸上に取り残された海水が長い年月をかけて固まった物だったか?

 運が良ければ岩塩なら見つけられるかも、それに胡椒とか唐辛子は植物だから森にあってもおかしくない。


 注意深く植物を観察しながら森を歩いていると、獣道を抜けた先に小さな緑と赤の実をつける植物が群生している広場を見つけた。


 おっ? あの実はもしかしたら……!

 怪しいぞ! 〖鑑定〗!


【〖ローレルペッパー〗緑の実を天日で乾燥させると刺激的な辛みのある香辛料になります。乾燥後すり潰して粉にしたり、砕いて荒い粒にして使用します。葉は乾燥させて煮込み料理に一緒に入れると香りが良くなります】


【〖カプサイペッパー〗赤い実を乾燥させると非常に辛い香辛料になります。〖ローレルペッパー〗と同じく乾燥後すり潰して粉にしたり、砕いて荒い粒にして使用します】


 本当にあったーーーッ!

 説明を聞いた感じ胡椒と唐辛子に近いのかな?

 まさかこんなに簡単に見つかるとは思わなかったよ。

 これも運命を操る(自称)〖転生者〗の称号スキルの力なのかしら?


 運が良くなるってある意味で最強だと思うんだ。

 ラッキーパンチなんてのもあるくらいだし戦闘面は言わずもがな、探し物だって見つけられるもんね。

 誰だか知らないけど、この能力をくれた人に感謝だよ。

 ありがたく採取させてもらうわ。


 発見した植物を採取するため近づくと、私の〖気配探知〗が反応を示す。

 群生する植物の奥に反応があるな。

 何かいるぞ……。


「プウプウッ!」


 警戒しながら覗き込むと小さなウサギが香辛料の原料である植物を食べていた。


 キャーーーッ! ウサギだーーーッ!

 私はウサギが大好きなんだよ!

 何この可愛い生物! 食べちゃいたいくらい可愛いやん!


「プウ?」


 ハァハァしながら愛でていると、私に気付いたウサギと目が合った。

 すると、黒い瞳が赤く染まり、可愛かった顔は面影をなくし、凶悪な牙を剥き出しにして私を威嚇してきた。


「キシャーーーッ!」


 何これウサギじゃなくてウサギ型の魔物じゃんか!

 可愛いどころかスッゲー怖い顔してる!

 とにかくまずは〖鑑定〗だ!


―――――――――――――――――――――


種族:ワイルドバニー〖状態:怒〗

ランク:E+

LV :17/25

HP :64/64

MP :32/32

攻撃力:58

防御力:37

魔力 :32

素早さ:71


通常スキル

〖気配探知L3〗〖牙撃LV3〗〖怒LV2〗

〖体当たりLV2〗〖ラビットパンチLV3〗〖隠密LV3〗

〖暗視LV2〗


魔法スキル

〖土魔法LV3〗

〖ダート〗〖ダートウォール〗


耐性スキル

〖物理耐性LV3〗〖毒耐性LV2〗〖魔法耐性LV1〗


称号スキル

なし


スキルポイント:180


―――――――――――――――――――――


 ランクは下だけどLVが高いから私とステータス差は殆どない。

 でも、こいつも回復手段がないタイプの魔物みたいだ。

 私には〖水魔法〗の〖癒しの水〗と〖HP自動回復〗があるし、回復しながら戦えば普通に殴り合いで勝てそうだわ。


「キシャーーーッ!」


 戦略を練っている途中にウサギが奇声を上げて飛びかかってきた。

 油断していたわけじゃないが、思った以上の素早い動きに攻撃を躱しきれず〖牙撃〗で肩を切り裂かれた。

 ウサギは噛み付くのではなく、縦横無尽に私の周りを走り回り〖牙撃〗で切り刻み、挙げ句の果てには体重の乗ったパンチで吹っ飛ばされてしまった。


 クソッ! なんて好戦的なウサギだ!

 まだ考えが纏まってないんだからちょっとくらい待っててよ!


 でも、少し動きが速すぎないか? それに凄いパワーだ……!

 確かに素早さのステータスは高いけど、私と大差ないはずなのに異常に速いぞ。

 考えろ、何か理由があるはずだ。

 ……種族名の後の〖状態:怒〗、あれが怪しい?

 〖鑑定〗だ!


【状態異常怒は全ステータスがアップします。しかし、思考が狭まり冷静な判断力を失います】


 なるほど、〖怒〗のスキルで自分にバフをかけたって事か?

 バーサーカーになる代わりにパワーアップできるわけだ。

 しかし! 所詮は回復手段のないウサギ!

 正面から殴り合ってやるわーッ!


「キキシャーーーッ!」


 こうして私とウサギの殴り合いが幕を開ける。

 だが、私の〖爪撃〗は空を切り、ウサギのパンチは的確に私の体を打ち据えた。


 クッソ! 素早い上に的が小さくて私の攻撃が当たらない!

 それにこのパンチ……小さい体なのになんて威力してるのよ……!

 これが〖ラビットパンチ〗のスキルなのか?

 このままじゃまずい……流れを変えなきゃ!


「キシャッ!?」


 私はバックステップで距離を取ると〖闇魔法LV1〗で取得した〖ダークミスト〗を発動させる。

 すると周囲は黒い霧に包まれ、ウサギは驚いた様な声を上げてキョロキョロと辺りを見回している。


 反応を見るに上手くいったようね。〖暗視〗のスキルがあっても見えないみたいだわ。

 でも、この霧は私の魔力で作られた物。私には動揺するウサギの姿がハッキリと見えているわよ。

 私はウサギの攻撃が当たらない一定の距離を保ちつつ、一撃当てて離脱するヒットアンドアウェイ戦法で攻撃し続ける。


「ギシャーーー……ッ!」


 〖ダークミスト〗の煙幕を張ってから形勢は逆転した。

 それも当然である。ウサギの攻撃は当たらず、私は隙を付いて攻撃できるのだから。

 隙をついて何度も繰り出した〖爪撃〗が腹を抉ると、ウサギは断末魔の叫びを上げて倒れ伏した。


【経験値を48取得しました】

幼黒石竜子ようこくせきりゅうしはLV1からLV2に上がりました】

【スキルポイントを取得しました】


 怒の状態異常の効果で防御力が上がっていたため時間はかかったが、なんとかワイルドバニーを討伐する事ができた。


 ふーっ、思った以上に苦戦したわ。

 まあ、それはと、も、か、く。

 ウサギのお肉ゲットだぜー!

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