第2話 マッド・サイエンスは興味から始まる
3−2
艦橋内、副長席でウイスは後頭部で両手を組み、まるで興味がないと言った風を装いながら、しっかりと聞き耳を立てている。
「でもアーベイ? それは時間軸と空間軸を超えた相対性理論に匹敵する考えではないのかい?」
地球人のリーが問いかける。
「そうだ、リー。君はローレンツ変換を知っているね?」
「ええ、確かテンソルの方程式が必要だったと思うんだけど・・・」
「間違えてはいないよ、その通りだ。一つの事象を選べば、配列は多次元化し、座標系に定めることが出来なくなる。宇宙理論だ」
「それがマルチバース?」
「そうだ、ダフォー」
今度は、リーから目を離して航海長を見ながら科学研究班の博士が続ける、
「君の言っていた別宇宙とも関わりが出てくるんだ。現在の所、マルチバースは2でも3でもなく多次元化されていると考えている。そこでだ、追いつくことのできない速度で広がっている宇宙の壁と別宇宙の壁がぶつかればどうなると思う?」
「想像もできないわ・・・、でも、新たな素粒子融合が起こって別宇宙が新しくできるとか?」
「それも考えられる仮説だ、そうやっていくつもの別宇宙が新たに出来あがって行く、と言う理論も現実的に可能だ。コスミック コピー を知っているかい?」
アーベイは再びダフォーに尋ねる。
「ええ、簡単だけど。別宇宙が存在するとしたなら、それは同一宇宙であり、全てが全く同じ世界である。あらゆる物質と生命が同じ行動をとっている、だったかしら?」
「そうだ。古典的宇宙応用物理学の世界だがね。確かに理論的にはあり得るんだ。宇宙の果てにまで到達できない限り実証はできないがね」
「見たくもない世界だぜ」
先ほどまで黙って聞いていた迎撃機隊長のルイスが呟く。
「私もそうだよ、ルイス隊長。全く同じ姿で、全く同じ考えで、全く同じ行動をとり、同じことを喋る、そんな人間に会いたいとはこれっぽっちも思えないね。ただ、科学者としては見てみたいし、会ってみたいと思うよ」
「そうやってマッド・サイエンスが生まれる」
後頭部に当てていた両手を解いてウイスが呟くが、
「あんた、本物の馬鹿ね。私達、どれだけアーベイ博士の研究で助けられてきたと思っているの?」
とダフォーが言うと、アーベイは大きな声で笑いながら、
「いや、ウイスの言う通りだ。私も科学ボケして来たかもしれない。心を取り戻すには良い意見だったと思うよ。ありがとうウイス、そしてダフォー」
そう言うとアーベイは船長クロウの席から離れ、飲み物を入れたカップを持ちながら、調理室へと消えて行った。
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