ルナ3

織風 羊

第1話 XとY

3−1


 1隻の海賊船がまるで遊泳しているように宇宙空間を微速で航行している。

船の中、艦橋で船長席の横に立って科学技術班班長アーベイ博士が暖かい飲み物を少しづつ飲んでいる。


「ストレンジレット、進捗状況はどうかな?」


 海賊船船長クロウがアーベイに尋ねる。


「厄介な素粒子だよ、触れれば同質素粒子に変換されてしまう。海賊船カグヤは、どうやって扱えたのか? 全くの謎だよ」


「存在自体は掴めたのかな?」


「無理だ、ダーク・マターの世界だ」


 そう言うとアーベイは言葉を続ける、


「ダーク・マター、暗黒物質、それは暗黒世界そのものを示す言葉なんだ。喩えば、宇宙を平面図にしてみると、ある地点にある星を0点としてx軸とy軸の線を引いてみたとしよう。x(+、+)(−、−)、y(+、+)(−、−)の座標が出来上がる。つまり一つの星から空を眺めた時、x軸とy軸方向の空を傍観していることになる。それは、私達の見ている夜空を現実世界として捉えると、我々が見ている宇宙は目の前にある空 x,y(+、+)そして背中側にある空 x,y(−、−)と言うことになる。では、その間にある x(+、−)と y(+、−)は何処にあるのか? これが暗黒世界の正体、ダーク・マターなんだ。つまり我々は宇宙の半分しか見れていないことになる。さらに言うならば、私達が観測できている宇宙は確認可能範囲であるほんの一部であり、然もその領域の半分しか見れていない、って言うことさ」


「なるほどね、俺達が見ている宇宙の果ては百三十八億光年前の光だって言われているよな。その半分しか俺たちには理解できないでいる。そう言うことか?」


「違うわウイス」


 海賊船副長の意見に対して航海長のダフォーが応える、


「百三十八億光年先に有る光は、宇宙の広がりでしかない。もしも私達が、その光に到達できた時に宇宙の果ては二百七十六億光年先の光になっているはずだわ」


「ダフォーの言うとおりだ。時空間移動でなく絶対時間で現実空間上の速度として光速以上の広がりを持つ速さは、まるで時空間移動をしているかのように時間軸を乗ずる広がりを見せる」


「って言うことはよ、追いつくことのできない鬼ごっこみたいなもんか?」


「ウイス、そう思ってくれれば正解だ。ただ、その力の中心がダーク・エネルギー、って言うことなんだ」


「とんでもない答えを導いてしまったような気がするぜ」


 両手を広げて呆れたような顔をしているウイスにアーベイは言う、


「ビッグ・バンを思い出してくれ、宇宙暦の始まりを作った最高の爆発はインフレーションによるものだ」


「そうね、小さな点という特異点に超素粒子がひしめき合い超素粒子融合を起こし大爆発、そしてその時に出来上がった素粒子が全宇宙として広がった」


「そうだ、ダフォー。素粒子の速さは光と同等だ。最も遅い速度のものでさえ光と同等の速さで宇宙を飛び交っているんだ」


「ってことはよ、アーベイ? 光よりも早い素粒子があるってのはタキオンで分かった。でもよ、さっき言ってた速度が乗ずる? って何だ?」


「良い質問だ。宇宙はいくつあると思う?」


「そりゃぁ、俺たちの居る、この宇宙が全て、じゃね?」


「あら、私はいくつもあると思うわ」


 ウイスの答えにダフォーが反感を示すが。


「二人とも正解だ。ユニバースとマルチバース、言葉だけは聞いた事があると思うんだが、宇宙1次元論と多次元論だったね? ダフォーの言っていることは多次元論だ。宇宙の果てにはいくつもの宇宙が存在している。でもね、ウイスの意見も正しいと思うんだ。つまりだよ、今までの速さを乗ずるくらいに広がる宇宙は永遠に辿り着けない果ての果てなんだ。と言うことは広がりそのものが多次元化されているようなものなんだ」


「駄目だ、俺、一抜けた」


「博士、馬鹿は放っておいて話を続けてくれない?」

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