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時間にして十分弱。小雨振る中、後をつければ着いた先は商店街。通路上部に屋根があるのがなんとも嬉しい。俺と久良さんはひとまずそこで傘を閉じて紗の尾行を再開させた。目印にしていた赤い傘は閉じられたがアーケードを行き交う人はさほど多くなく、見失うことはなさそうだ。
紗はアーケードをただ進み、俺たち三人は隠れながらにその後をつけた。
アーケード内に植えられた木。それからお店の
店前の自販機に身を隠し、
「どうやら行き先は決まっているみたいですね」
白い眼鏡をくいっと上げて久良さんが言った。
今一度見て思うがやはりその格好は目立っている。
『うん。だけどこんな飾りっ気のないところ紗の好みじゃないの。だからすごく心配……』
まあ、確かにここは女子高生が来るには少しばかり味気ない。が、心配するほどのことだろうか? 現に俺なんかは派手なチェーン店よりも、ここにあるような個人経営の本屋の方が意外と
ん?
その時、前を歩く紗に軒先に立っていた靴屋の店主が頭を下げた。
店内に並べてある靴はストレートチップやプレーントゥといった、堅苦しいフォーマルな革靴ばかり。お世辞にも洒落た靴があるとは思えないが……。紗は店主と知り合いなのか?
「雉間さん、左に曲がりましたよ」
よそ見をしていた俺に久良さんが教えてくれた。
その言葉に曲がり角まで距離を詰めると紗はある店の中へと入っていった。
それは商店街の一角に佇む赤い屋根の店。店の前の看板には横文字で〈フィオーレ・アルティフィチャーレ〉と店名らしきものが書かれている。ここに出来てまだ日も浅いのか、隣の店と比べれば外観はとても綺麗だ。店先ではウサギのオブジェが〈OPEN〉と書かれた札を首から下げているが……で、ここは何屋なんだ?
店の詳細がわからない以上、止むを得ない。ためらいを感じながらも俺が恐るおそるウインドウから店内を覗くと……。
『雉間!』
「ぐっ」
途端に後ろ襟を引っ張られ、曲がり角まで戻された。
「ちょっとなんなんですか、姫乃さん!」
『見つかったらどうするの!』
「いや、見つかるも何も……」
その時、
「ありがとうございました!」
俺は肝を冷やした。店員の元気な挨拶と同時に当然のように店から紗が出てきたのだ。
幸いにも紗は身を隠した俺に気付かなかったようで、白く細長い包みを手に元来た道を歩いて行った。
「紗ちゃん、やけに出て来るのが早かったですね。それにあの包み、何でしょう?」
『うーん、わからないの。何か危ないものじゃなきゃいいんだけど……』
姫乃さんは心配そうに言ったが、一瞬店内を覗いた俺には紗の持つものに察しがついていた。
が、それは言わずにいよう。
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